美術の先生は考える

中学美術の授業の実践を中心に、美術について考えたイロイロを紹介できればと思います。

青森県中学校選抜美術展日記2022

2022-01-14 18:26:52 | 日記
2年ぶりに開催された「第35回青森県中学校選抜美術展」。
一昨年は青森県立美術館での開催でした。昨年度は弘前市で開催予定でしたが、新型コロナウィルス感染拡大を受け、作品制作がままならない状況であったことや、予防の観点から中止となりました。
 
今年度は1年間を置いたことで、事務局としても忘れてしまっていた細かな仕事も多く、開催が決まって動き出したときには少しばたついてしまいましたが、開催支部の八戸市の先生方の手際の良い意欲的な準備作業の甲斐あって、無事開催に漕ぎ着けました。
 
さて、今年度展示された作品全体を通して見て、感じたことや考えたことを記しておこうと思います。
 
■「題材の解説」や「作者のことば」が非常に増えたということ
とても良い傾向だな、やっと広がってきたなと感います。
私が勝手にそう感じているのではなく、一緒に展示作業をしていた他支部の先生もはっきりとそう語っていたので間違いはないと思います。
これまでも当ブログでずっとギャーギャー語っていましたし、自分の取り組みも記してきましたが、ある時「あーだこーだ文句を言うように騒ぐより、とにかく自分はやり続けて、何人かでもそれを見た先生が影響を受けたり、真似をしてくれることで増えていき、それがスタンダードのようになっていくって感じがいいな。」と思うようになり、騒いではいませんでした。
「自分の背中を見てくれ」みたいな・・・。
黙っていても、気づいたり、何か思うことがあった先生方は質問してくれたり、賞賛するような言葉をかけてくれたりします。
そういった先生方が、また別の場所で「自分たちもやろう!」と声を上げてくれたり、真似してくれたりたりして、今年のように自然に増えてい苦のではないだろうか?と思っていました。
具体的にわかりやすい例がこちら。
↑こちらは今年見つけた、若手の先生が指導した作品。

↑こちらは一昨年自分のブログの中で、私が「一番工夫してみた」と記した際に使った画像。
壁面に展示される作品に「題材の解説」を付けるのは、展示スペースの都合上難しかったのですが、制作時間の都合なども考えて作品自体を小さくし、規定の台紙内に解説用紙を貼ってしまいました。というものでした。
…見事に真似してくれています!!
潔すぎて嬉しいです!どんどん真似してくれ!って思います。
 
んー、でも今の自分だったら「文化祭ポスター原画」とは示さないかな。
授業もそういった趣旨を強調していませんから、「こんな学校にしたい!〜思いを表現した題材〜」とかそんな感じになると思います。
「文化祭を成功させたい思いを描く」とか、そんな感じでも良いのかもしれませんね。
 
もちろん私だけがやっている独自の取り組みでもなんでもないのですが、同じ考えをもっている仲間たちと一緒に根気強く何年も当たり前のように続けてきた成果が見えてきたなと実感し、本当に嬉しくなりました。
 
もちろん自分も例年同様に展示しました。
これらの作品は現3年生の作品ですが、全て昨年度私が指導して制作してもらったものです。
校内に展示していたもので、一応今年度の作品展に出品する可能性を考えてまだ返却しないでおいたものです。
今年度はこの生徒たちの指導を受け持っていないため、今年度どんな力が育ったのか、ここにどんな作品が出てくるのか楽しみでした。
しかし今年度制作した立体作品は作品展に出すような作品ではなかったそうです。
3年時に自由に色々な表現材料、方法を使い、力を発揮してほしいと考えて昨年度指導してきた子たちなのですが、やはり3年間、いやせめて2年間続けて指導できないと、指導者として考え求めている、生徒の力や感性などを育成するのは難しくなりますね・・・。
 
■恐ろしいほど時間をかけた大作が減ったこと
                                         *↑県審査で選ばれた受賞作品展示ブース。
支部ごとの審査で選ばれてきた2つの優秀作品を並べ(計18作品)、県の審査会で賞を決します。
ここに上がってくる作品は、かつて「どんだけ時間かけて制作したの??」「これ授業で作るの無理でしょ・・・」「上手い作品ってだけじゃない?」というものが多く、そういった尋常じゃないような作品に最高賞が付くのが当たり前のような嫌な雰囲気があったものです。
しかし、今年は審査会に上がってきた作品もそうですが、そうではない作品も全体的にコンパクトだったり、授業内でのねらいが見えるものだったり、ただただすごい力作は減ってきたと感じました。(・・・根強くまだ残ってはいますが。)
 
県審査会では、自分が今年指導した作品も最高賞の一つに選ばれました。
以前の記事でも紹介した作品です。
確かに上手い生徒の作品ではあるのですが、大きさはありませんし、どう考えてもこの作品より手間暇かけて上手に仕上げた作品が他に並んでいたのですが、こちらが最優秀賞の一つに選ばれたということは、審査員の先生方の見方も変わってきたのではないかと考えました。
別に受賞を狙って制作させたり指導したりしたわけではなかったですし、支部の審査会では2位扱いの作品だったので、この結果もなんだか嬉しかったです。
 
他にもちょっと面白いなと思う題材・作品もありました。
 


3年生に中学校最後の作品制作として取り組ませたのでしょうか。
形にとらわれず、自由な表現方法で取り組んでいるように見えました。

こちらの彼の指導は安定ですね!今年度は手描きのものではなくなったんですね・・・。
さすがICT活用教材開発コンテストで受賞されるだけのことはあります。

前にもこの先生の指導作品は見たことがありましたが、こういう鑑賞とセットにしたような題材もあるんだなーと驚き。


似たようなねらいで過去に授業を実践し今年度もこれからする自分には、参考になる取組でした。私は色を使わず、形だけで表してもらう予定、またシンプルなひと言を表す予定ですが、彼女は「絵本を使ったことがとても良かった。」とおっしゃっていました。
なるほどー!です。


題材の解説が欲しかった!
でもなんとなくねらいはわかります。面白いと思います!

こういうのもアリなんですよね!
実物のTシャツがあればなお良いですが、時間もお金も手間もかかりますし、今回は間に合わなかったのでしょう。仕方ないと思います。
 
また、自分の今年一番の新しい工夫は、自分以外の先生が搬出に行ってくれることを考えて、作品運搬用の箱に施した工夫くらいしかないかもしれません・・・。いや、似たようなことはこれまでもしていましたよ。でも今年が一番丁寧にできた感覚があるということです。



今年度はとにかく実施ができてよかったです。
今後につながると思います。
丁寧な事後アンケートも実施予定ですから、PDCAサイクルが生きる形で今後につながっていくと思われます。

題材まとめ:見つけてみよう 自分だけの小世界  2021

2022-01-08 21:57:14 | 日記
2学期の1年生の題材です。
シンプルに題材のまとめとして記しておきます。

【この題材でのねらい】
・絵画制作を体験させたい。
・見方、視点を変えて景色を見せたい。
・水彩絵の具を中心に様々な表現画材、技法、方法を体験させたい。
・Chrome bookの様々な活用をさせたい。

【用意したもの】
・八切り画用紙(ヴィファアール紙)
・水彩絵の具セット(安いもの)
・水彩筆3種 他
・鉛筆4種ほど
・色鉛筆
・パステル(100均)
・スパッタリングセット

【その他使用したもの】
・パレット(生徒のポスターカラーセット付属品)
・Chrome book
・クロッキー帳、ワークシート

◼️完成作品1

撮影後の画像の加工が効果的でした。無彩色っぽくコントラストを強めたことで、この作品が生まれたと思います。また、仕上げで地面に使った白のスパッタリングや、靴に使った色鉛筆の表現も秀逸だと思います。

◼️完成作品2

葉の表現の工夫がすごいなと思います。ここにも色鉛筆での描画が見えます。水彩絵の具だけではしづらい表現方法も、色鉛筆を使うことによりこのように表現することがてきています。

◼️完成作品3

色々な表現方法を試してみるよう仕向けてみたら、この子は途中からひたすら指で表現し続けていました。撮影→加工の際で、思い切ってクローズアップしたことで、本当に描きたかったところを描きたかったように仕上げることに繋がったと思います。

◼️完成作品4


作品展に出す際にはこのように台紙にレイアウト。
この子は元々絵が上手な子ですね。技術的なことは何も指導してません。「レンズゴーストを色鉛筆で描いてみてもいいかもね?」、「太陽の光をもっと広げた方がいいかな」と途中言った程度。
美術展の支部審査会で1年生の最高評価を得たのはこの作品。
やっぱり皆さん上手な絵が好きなんだなーと実感です。
このように展示を考えた台紙へのレイアウトをスタンダードにしていきたいと取り組んできて数年になりますが、増えていけばいいなーと考えます。

【題材の成果】
まだ鑑賞会をやっていないので、生徒が感じたことや学びなどは全て見えてはいませんが、毎時間の振り返りを見ている限り、ただ「絵を描いた」のではなく、工夫して表現した活動になったと思います。「絵を描く授業」にしたくなかったので、色々見せたり、考えさせたり、提案したりしてきたので、その点が今後に繋がる大きな成果になったと思う。

【課題】
・設定時間内に完成させる生徒が少ないこと。
→導入、撮影、画像加工・主題設定に時間をかけ過ぎたのかも。また、制作時間短縮をねらい、撮影・加工の際に、クローズアップさせて、描く対象を単純化させようと勧めたのだが、それがあまり捗らなかったことも原因か。

・「絵が苦手、嫌い」という生徒を大幅に減らすことはできなかったであろうこと。
→「上手く描きたい」という願望が優先してしまうのか。もっと「上手くないけど良い絵」を見せたり、こまめに授業内で個人内評価を進めるべきだったのかもしれない。

・主題にこだわりすぎたか?主題に合った有彩色を考え、その色で画用紙に下地塗りをさせてみたが、その下地塗りが邪魔になる程濃く塗ってしまい、後々まで強過ぎる影響が出てしまった作品があったこと。
→ただその反面で、選んだその有彩色一色と無彩色だけで表現することを選ぶ子たちが複数名おり、表現方法の幅が広がったということもあった。全員に強制させなくても良かったのかもしれない。

★まとめ
久しぶりの実践となった題材。
以前より上手く指導したり、上手く制作させたりできた部分はあったし、表現方法の幅を広げる提案をするタイミングも考えながら上手くできたと思う。
反面課題も多くなってしまったし、特に「絵を描くのが好きじゃない」生徒が目に見えて減っていく実感を得られなかったのが大きな反省点。今後絵で表現する題材で、そういった生徒を減らすことができる工夫を、題材設定の部分からしたいと思った。