前回までの調整に続き、いよいよ リアサスペンションのプリロード調整を最後まで説明します。
一部の作業は、多くの人に助けてもらうと楽に出来る作業もありますが、工夫しながら進めていきましょう。
◆ 手順 3. リアサスペンションが縮みきった位置(フルボトム時)を測定します
・・ スタンドを外し、オートバイを直立させた状態で、リアシート部に大きな荷重(2~3名がリアシードに座り、他は補助的にテールカウル付近を押して)を掛け、リアサスペンションを最大限に縮めてリアシート部を沈みこませます。
・・ この時、リアホイール中心部から 「手順 1.」で描いた印(ガムテープ上の)までの距離を測ります。
・・ 小型の車両であれば成人男子3~4人の体重と力で測定は可能ですが、測定が不可能な場合にはこの作業はキャンセルして次へ進みましょう。
◆ 手順 4. リアホイールの最大移動量(ホイールトラベル)を計算します
・・ リアサスペンションの働きによりリアホイールが上下に移動しますが、その最大移動量(ホイールトラベル)の算出方法は、 「手順 2.」で測定した距離(0G 時)から、「手順 3.」で測定した距離(フルボトム時)を引き算して求めます。
・・ 「手順 3.」で最大限に縮めた位置(フルボトム時)を計測できない場合には、メーカーの広報資料などから、リアのホイールトラベル量を調べましょう。
・・ リアのホイールトラベル量は、車両形式や設計年代によって異なりますが、現代のオンロード車両の場合には、120 ~ 130㎜ 前後が一般的になっています。
◆ 手順 5. ライダー乗車時の位置(1G’ 時)を測定します
・・ 前後のタイヤを接地させ、ライダーが乗車してオートバイを直立状態にして、左右ステップの上に両足を置いた乗車姿勢をとります。
・・ この時、リアホイール中心部から(1)で描いた横線までの距離を測ります。
・・ この作業には、補助役に2~3人のサポートがあると楽です
◆ 手順 6. ライダー乗車位置(1G’ 時)が適切な位置になるようにプリロード調整をします
・・ ライダー乗車時(1G’ 時)のホイールトラベル量を計算します。
「手順 2.」で測定した距離(0 G時)から 「手順 5.」で測定した距離(1G’ 時)を引き算すると、ライダー乗車時(1G’ 時)のホイールトラベル量なります。
・・このライダー乗車時(1G’ 時)のホイールトラベル量が、 「手順 4.」の計算で求めた最大ホイールトラベル量の 1/3に一番近くなるように、プリロード調整を行ないます。
8. 補足の説明です
○ 二人乗車で荷物満載&高速走行が前提に設計されている、欧米向けの大型車両の場合には、小柄な人の一名乗車に最適な設計となっていない為、上記の 1/3 調整が出来ない場合があります。
○ どんな設計の車両であっても、1/3 調整が最も適した調整であり基本です。仮に、どうしても 1/3調整ができなくで、その車両の能力を適切に発揮させたい場合には、リアサスペンションのスプリング(バネ)の変更をお勧めします。
○ オートバイの基本はリア(リアタイヤ&リアサスペンション)です。
次章の「リアの車高調整」でも述べますが、適切な「プリロード調整」が施されてない車両では、リアタイヤのグリップ(トラクション)や運動性、安定性が十分には得られません。
○ この「プリロード調整」(イニシャル荷重の調整)は、リアサスペンションの場合には 1/3調整が基本ですが、フロントサスペンションの場合には 1/3調整を行なわない事を勧めます。(経験的に、フロントサスペンションの場合には 1/3調整では最適な調整にはなりません)
○ サスペンションが伸びきった状態を一般的に 0G (ゼロジー)と呼び、ライダーが乗車した状態(両足はステップ上)を 1G’ (ワンジーダッシュ)、サスペンションが一番縮んだ(沈み込んだ)状態を フルボトム(または 残ストローク)と呼びます。
(これからの講座でも用いますので、覚えておくと便利です)
○ ちなみに、オートバイの前後タイヤを接地させて直立した状態は 1G(ワンジー)と呼びます。(ライダーは乗車していない状態です)
9. 苦言・提言
◆ オートバイを購入した後で、足着き性(足の着きやすさ)をよくする為だけに、リアサスペンションのプリロード調整を行なっている事例を見かけます。
しかし、それはオートバイ本来の能力が正しく発揮させられず、安全性を損なう事に繋がる事を理解すべきです。
ライダー自身の快適性や安心感を優先させて、本来の安全性を損なったり周りの他者の生命や健康を脅かす危険性を無視する事はやってはいけない事です。
◆一部のオートバイ販売店では、小柄で非力な女性に販売する目的で、リアサスペンションのプリロード調整部を改造して、リアの車高を大きく下げた状態で販売している例が数多くあります。
中には、本来の調整が不可能な改造を施した例も少なくなく、オートバイ本来の安全性や運動特性を大きく損なっています。
しかも、その改造によってもたらせる危険性を十分に告知せず販売されている例が殆どであり、ライダーの安全性を最大限保障するメーカーおよび販売店は決して行なってならない行為です。
しかし残念ながら、現状はメーカー指定の販売店でさえ行なわれている行為であり、その改造を謳った広告を目にしているメーカー、そしてオートバイ雑誌業界の全てが問題提起さえしていません。
この様な状況を見る限り、オートバイの設計・工作技術は一流であっても、生活の中で必要なオートバイ文化は一流に至っていない点が多くあると言わざるを得ません。
◆同じ様に、一部のオートバイ雑誌ではオートバイのセッティング記事を掲載しています。それらの記事では一様に「 オートバイ・○○車は、プリロードは ◇◇mmが最適 」などと、プリロード調整からダンパー(減衰力)調整など、「 これが、ベストセッティングだ! 」などと、誤った無責任な書き方ばかりが目立ちます。
今回のプリロード調整でもそうですが、セッティングとは乗る人の体格や体重に合わせてオートバイとのバランスを取る作業ですから、乗る人が違えば(セッティング)調整値は異なるのが当然ですから、そういう事を無視したまま記事を掲載しているとすれば、良識が疑われる事柄です。
◆では、私達ライダーが成すべき事は何でしょうか。
いつまでも、楽しく、安全に、オートバイライフを楽しむためには、より正しい知識を得て、多くの意見や体験を共有し合い、家族や知人達との環境を作る事に情熱を注ぐ他に無いと、私達・GRAは考えています。
そのために、私達は提案を続けていきます。
https://gra-npo.org/lecture/bike/rear_preload/img_rear_preload.html
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