ゆうとたいへ

六十を過ぎて始めた自転車旅行、山登りをつづります

2019年10月28日 ある男の話

2019-10-28 | 日記
191028_ある男の話

 ある男の話

 今から50年前、男は大学を卒業し、会社に入った。

 会社は大きい会社であった。

 その男が、会社員向きの性格か、そうではないかといえば、どちらかといえば会社員向きの性格ではなかった。
 その男は、一つの課から次の課、次の課から次の課へと異動し、同じ課へ留まることはなかった。

 同期の者が一人、二人と結婚して行く中で、その男は結婚しなかった。
 決して結婚に無関心であったわけではなく、むしろその思いは強かったのだが、そうすべき時に度胸がなくそうできず、そうすべきではないときに、すべきではないことをしていた。

 そういういうことばかりやっていたため、結婚に出会うことなく時は過ぎた。

 しかし、その男は、基本的には、自分は将来結婚しているはずだ、と思い込んでいた。

 そう思い込んでいた男は、将来を、楽観的且つ単純に考え、値段の高い、大きい家を、そのときは独身であるにも関わらず、買ってしまった。

 しかし、その男は、あたらしい家を買った数年後、別の地域に転勤を命ぜられ、その家は、人に貸すことになった。

 しかし、結果的には、この住宅の取得はこの男のためになった。

 というのは、この家を他人に貸すことにより賃料収入が生まれ、その賃料で家のローンを返済することができたからだ。

 世の中はだんだんと生きにくくなってきた。

 その男の会社も業績不振となり、希望退職の募集が始まった。

 募集のときの会社の提案は、通常の退職金とは別に一千万円を出す、というものであった。

 その男は、一千万円と退職金をもらい、会社を辞めた。

 しかし、その男は、その一千万円でローンの残債を消さず、日常の生活費に使っているうちに消えて無くなってしまった。

 世の中は、ますます生きにくくなった。

 その男は、高い金を出して買った家には住まず、狭い、賃料の安いアパートに住んだ。

 高い金を出して買った家は人に貸し、その賃料をローンの返済に充てるためだ。

 しかし、賃料の相場は下がってきた。

 貸してある家の賃料では、月々のローンの返済ができなくなってしまった。

 そこで、その男は思い切って、家を売って、その売った代金でローンの残債を完済しようと思った。

 しかし、今、その家を売っても、価格は安くその代金では、ローンの残債にはとどかない。

 つまり、家の売却代では、ローンの残債を返せない、返せないから銀行が付けた抵当権を消せない、抵当権を消せなから家を売ることができない、という、世の中によくある事態となってしまった。

 その男は、こういうことは自分には起こらないだろうと考えていたが、今、自分の問題となってしまった。
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