桜は山の桜がキレイ、それよりも今の時期は桃の花だろう。
赤・白・桃色、1本の木に紅白の花を咲き分ける素敵な桃の花もあるくらいで、梅の次は桃だろう。
桜なんざ街中にいくらでも阿呆みたいにボコボコ咲いている。
・・・ということで、里山を歩き登ってきた。
薄いシャツ1枚で、いつもの重いザックを担いで歩いてると、汗が噴き出てきてた。
陽に焼けたようだ。
紅白の花を咲き分けるのは源平桃とも言うが、お洒落な桃の花だ。
里山の頂上に辿りつくと、ひとりの女性が周囲の景色に魅入っておった。
聞けば地元の同世代の女性で、瞳が潤んでおって良い女だった。
・・・あそこの斜面に3軒ある家の一番右の家がわたしの家なんですよ
・・・ほ~ほ~、桃の花だけでなくって、椿や桜やいろんな小花もたくさん咲いてて綺麗だね~!
・・・毎日ここで見てても見飽きないのよね~
・・・いや~、贅沢な眺めだ
・・・あちこちの山を登ってるともっと素敵な景色はいくらでもあるでしょう?
・・・いやいや、綺麗な景色に、良い女、こういう場所はなかなかないよ
可愛らしく恥ずかしがって、眩しそうに下界を見下ろしてる横顔は、また優しい桃の花のようだった。
そう、まだ生きておって、山を歩いてる。
腹の患部の肉を焼き潰して、なんとか皮膚の方は出血はおさまってるが、腸のほうはどうなることやら。
オストメイトになっても休むことなく動き回ってると、いろんな細かな支障が出て来るけんども、それも関係なしに生きて居る。
日本の里山の歴史には、支配する側に都合の良い話ばかりが語り継がれ、教科書にまで載ってたりするが、そこでせっせと働き暮らす民の側の歴史というものはいつの時代も語られることもなく、風に舞う花びらのように里の谷を舞い、またなにごともなかったかのように陽が落ちて真っ暗な夜を迎えてる。
豊潤で濃厚で血の匂いのする歴史は、人から人へと、言葉ではなく語り継がれているようでもある。