※ISISよる殺害事件に関し、産経による「地方紙」の検証です。
http://www.sankei.com/politics/news/150207/plt1502070003-n1.htmlより転載
2015.2.7 06:00
【地方紙検証】
イスラム国事件 人道支援への“疑義”続々 狙いはまたも安倍政権批判か
イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」が日本人2人を殺害したとみられる事件に関し、安倍晋三首相は「テロリストを決して許さない。その罪を償わせるために国際社会と連携していく」と表明した。九州の地方紙をみると、イスラム国の残忍さを批判し、テロや暴力を許さないと主張する一方、首相の中東訪問が事件の引き金になったなどと、安倍政権の「積極的平和外交」に疑義を唱える論調が目立った。(奥原慎平)
イスラム国は1月20日、インターネット上に投稿したビデオ声明で、72時間以内に2億ドル(約236億円)の身代金を支払わねば、湯川遥菜さんと後藤健二さんの2人を殺害すると表明した。
その後、2人を殺害したとする動画や画像がネット上に出たことで、イスラム国の残忍行為に対し、日本国内だけでなく、欧米や中東からも憤りの声が上がった。
だが、一部の野党議員らは違った。
1月17日、中東訪問中の安倍首相が、中東のインフラ整備などで25億ドル、このうちイスラム国対策として2億ドルを無償資金協力として供与すると表明していた。
このことをとらえ、安倍首相の外交姿勢が事件の引き金になったと主張した。例えば、民主党の徳永エリ参院議員は「人道支援とはいえ、資金援助を大々的にアピールする、テロ組織を刺激したことは否めない」と自身のフェイスブックに投稿した。
この批判に対し、産経は2日付朝刊の社説にあたる「主張」で「事件の責任を日本政府に求めるのは誤りだ。『イスラム国』は国ではなく、犯罪集団であり、イスラム社会にとっても敵である」とした。
政府がイスラム国の要求に応じなかったことについて、「身代金は次なるテロの資金となり、日本が脅迫に応じる国であると周知されれば日本人は必ずまた誘拐の標的になる」と述べた。
朝日も2日付朝刊社説で「人道支援を表明した日本政府を責め、身代金や人質交換に応じなければ殺害する(イスラム国の)主張は、独りよがりで道理が立たない」と主張した。
一方、毎日は2日付朝刊社説で「IS(イスラム国)が安倍首相の中東歴訪を挙げるのも言いがかり」と掲載した。ところが、翌3日付朝刊の社説では「演説がISに利用され、人質事件を新たな段階に進めるきっかけになったことは否定できない。訪問のタイミングや対象国の選定、人道支援がどう使われるかの具体的中身、演説の表現ぶりなど、検証すべきだ」と一部の野党議員の主張に同調するかのような書きぶりだった。
九州の地方紙はどうか。
佐賀は3日付朝刊に宇都宮忠記者の署名で「脅しにひるまず包囲網を」との見出しで論説を掲載した。イスラム国の日本政府への批判に「筋違いだ。初めから(犯行グループは支援の)内容には関心がなかったのだろう」とした。常識外れに多額な身代金や、ヨルダン人パイロットの安否確認に応じなかったイスラム国の姿勢に触れ、「そもそも交渉する意思があったとは思えない経過だ」と断じた。
一方、福岡に拠点を置く九州のブロック紙、西日本は2日付朝刊の社説で「許せぬ暴挙 悲劇胸にテロ封じ込めよ」との見出しを掲げた。だが、この記事中では「2人が拘束されているのを知りながら、このタイミングでの連携アピールは、果たして適切だったのか」と安倍首相の中東支援に疑問を呈した。
熊本日日も2日付朝刊社説で「日本政府は医療や難民支援など非軍事分野での貢献と強調したが、犯人側はその訴えに耳を貸さなかった」「緊迫した中での中東訪問や支援発表が適切だったのか、と指摘する専門家もいる」などとした。南日本も同様の論調だった。
だが、安倍首相が提示したイスラム国対策は、テロや戦禍に苦しむイラクやシリアの難民の生活支援などが柱となる。テロの前に、こうした人道支援を控えなければならないのだろうか。
しかも、当のイスラム国は日本の支援が「非軍事的支援」であることは認識していた。1月20日に公開したビデオ声明でも「非軍事的支援」という言葉を使用した。安倍首相も2月4日の衆院予算委員会で「彼ら(イスラム国)は明確に非軍事的な支援と理解していた。非軍事支援であってもテロの対象とする。そこに大きな問題がある」と述べた。
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さらに、テロリストによる日本敵視の姿勢を引き合いに、あたかもイスラム圏全体の対日感情が変化したとする記事も目立つ。
南日本は1月27日付朝刊に掲載した社説で「日本はイスラム圏の市民に敵意を抱かれることは少なかった。(2004年の自衛隊イラク派遣に続いて)今回の人質事件でも『進んで十字軍に参加した』と敵視されている。平和国家日本のイメージが薄れてきたとしたら、気がかりでならない」とした。
テロリストとイスラム社会全体とを混同するような見解といえる。記事中にある「進んで十字軍に参加した」という表現は、複数の地方紙も使っており、共同通信の配信を基にしたのだろう。
西日本も「イスラム世界の親日感情に陰りが生じ、過激主義者に日本敵視の口実を与えてはいないか」(2日付朝刊社説)とした。
だが、本当にイスラム世界の親日感情に陰りが生じているのだろうか。
1月27日、20の国や地域が加盟する駐日アラブ外交団は後藤さんの解放を求める声明を発表し、団長のワリード・シアム駐日パレスチナ大使は「20万人のイスラム国が国であるはずがない」と述べ、イスラム国はイスラム教の代弁者ではないと強調した。
「日本国はアラブ人に対するいかなる戦争にも参加していません」「サマワで活動した自衛隊は、病院の仕事で多くのイラク人医師を訓練し、多くのイラク人の子供たちを支援しました」
サウジアラビアの一学者は、イスラム国を批判するこのような文書を発表し、フェイスブックで中東や日本の知人に送付した。こうした動きはヨルダンでも起きたという。
だが、各紙が掲載した中東の専門家の解説はさらに飛躍する。
「日本が中東に対する“侵略者”になりつつあるとの認識が中東の民衆に一定程度、共有されていなければ、テロリストの側もそうしたストーリーを描くことはできない」「(米国の中東政策に同調する)日本政府の外交政策ゆえに、中東の民衆の日本に対するまなざしが急速に冷ややかになりつつある」
共同通信が1月28日に配信した千葉大教授の栗田禎子氏(中東現代史)の記事だ。大分合同(1月29日付朝刊)や熊本日日(同)などが掲載した。