

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015022102000150.html
自衛隊派遣 歯止め撤廃 政府、恒久法素案で拡大

政府が二十日、安全保障法制をめぐる与党協議で示した自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法の素案は、地理的制約を設けず、支援対象の国も限定しない内容だった。政府は朝鮮半島有事を想定した周辺事態法も改正して「周辺事態」の概念を撤廃する意向。自衛隊の海外派遣の根拠や活動内容の歯止めを外す方針が次々と盛り込まれ、自衛隊の活動拡大を目指す政府の姿勢が鮮明になった。 (新開浩)
恒久法の素案は、国連決議に基づく各国軍の武力行使や有志国連合の自衛権行使を支援対象として明記。自衛隊の活動範囲を絞る「非戦闘地域」の概念も取り払い、昨年七月の閣議決定で示した「現に戦闘行為を行っている現場」以外なら活動を認めるとした。自衛隊が多様な任務に対応できるよう「適切な武器使用権限のあり方を検討する」として、武器使用基準の緩和も盛り込んだ。
恒久法のほかにも、政府は自衛隊の活動範囲を広げようとしている。十三日の前回協議では、武力攻撃に至らない侵害「グレーゾーン」事態で、日本周辺で警戒活動や訓練を実施中の米艦を自衛艦が防護できるようにする法整備をめぐり、閣議決定が米艦に限定していた防護対象を米軍以外に拡大する法整備の検討を与党側に求めた。
これに対し、公明党側からは二十日の協議で、恒久法の素案に対し「自衛隊の安全をどう守るのか」と懸念する声が出た。グレーゾーン事態での防護対象についても「日米同盟と同様に密接な協力関係のある国」に限定するよう主張。該当する国の定義を明文化するよう求めた。
与党協議後に開かれた公明党の党内協議では、事実上の地理的制約だった周辺事態の概念撤廃について「好ましくない。納得できない」との意見が出た。
次回協議では、国連平和維持活動(PKO)協力法に基づいて派遣された自衛隊員の武器使用基準を緩和し、他国部隊や民間人を警護できるようにする同法改正についても協議する。
◆集団的自衛権 行使にらむ
政府が二十日の安全保障法制に関する与党協議で、周辺事態法を改正して「周辺事態」の概念を廃止する方針を示したのは、他国を武力で守る集団的自衛権を行使する際に混乱要因になりかねないと判断したからだ。例えば朝鮮半島有事では、安倍政権が集団的自衛権行使を想定する事態と周辺事態の双方に当てはまる状況になる可能性があり、法体系の改変を図った。
周辺事態法は「そのまま放置すれば、わが国に対する直接の武力攻撃に至る恐れのある事態」を周辺事態と定義する。政府が朝鮮半島有事を周辺事態と認定すれば、自衛隊による米軍への給油や輸送の後方支援は可能だが、集団的自衛権行使は認められない。
政府は昨年七月の閣議決定で集団的自衛権の行使が許される状況を「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、わが国の存立が脅かされ、国民の生命に明白な危険がある場合(存立危機事態)」と定めた。
朝鮮半島有事で韓国を防衛する米軍が攻撃された場合、存立危機事態と認定すれば日本は集団的自衛権を行使できるが、周辺事態と解釈すれば後方支援しかできない。安倍政権はこうした制約をなくすために「周辺事態」を廃止したいと判断。政府からは「本当は法律自体をなくしたい」との本音も漏れる。
一方、政府が与党に示した自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法の素案では、最初から自衛隊派遣に地理的な制約を設けていない。政府の考えに沿った恒久法が成立すれば、仮に周辺事態法を廃止しても、自衛隊は世界中で米軍をはじめとする他国軍を支援できるようになる。
だが、公明党は日本の安全を確保する周辺事態法と自衛隊による国際貢献のための法律は目的が違うとして、周辺事態法の存続を主張。このため政府は同法改正を提案した。同法改正をめぐる与党協議は、最大の焦点となる集団的自衛権行使の議論に直結している。 (竹内洋一)