話題になっている市長候補のニコニコ動画
「生活保護は遺伝する」
「(生活保護を受けている家庭の子どもは)根が腐る」
「(生活保護受給者が多い)大阪はふきだまり」
いかに候補者個人の発言であっても、特定の人たちへの「差別」といえるような発言はどこまで許されるのだろうか。
選挙期間中であるため、各候補について報道機関各社はいつも以上に中立公平な取り扱いを求められるため、大手メディアでは書かれていないが、札幌市長選挙の候補者による発言が今、ネット上などで全国的な波紋を広げている。
札幌市長選では、5人が争っている。
札幌市長選、新人5氏の争い確定 人口減対策など争点(3月29日、北海道新聞)
29日告示の札幌市長選で、同市選管は同日午後5時に立候補の届け出を締め切った。午前中に届け出た5氏以外に立候補はなく、いずれも新人5氏による争いが確定した。
立候補したのは届け出順に、共産党道委員会副委員長の春木智江氏(56)=共産党公認=、元総務省自治大学校研究部長の本間奈々氏(45)=無所属、自民党推薦=、元副市長の秋元克広氏(59)=無所属、民主党、維新の党推薦、新党大地、社民党、市民ネット北海道支持=、元衆院議員秘書の飯田佳宏氏(42)=諸派=、アパート経営の須田真功氏(52)=無所属=。今年にも始まる人口減少への対応などが争点で、投開票は道知事選などと同じ4月12日。
2011年の前回同様、自民、民主の推薦候補が対決する構図で、同日告示の5政令指定都市の市長選では札幌だけ。経済活性化策や少子高齢化対策、5月に退任する上田文雄市長(66)の市政運営の継承などが争点となりそうだ。5氏は届け出後、第一声に立ち、選挙戦をスタートさせた。
このうち、自民党が推薦して有力候補の1人とされる本間奈々候補の過去の発言が、「生活保護受給者という特定の人たちへのヘイトスピーチ」ではないかとして弁護士や生活困窮者の支援にあたっている人たちが「問題視」していて、フェスブックやツイッターなどで拡散されている。
その発言の動画はネット上でもニコニコ動画やYouTubeで「公開」されている。
この動画で開始から1分30秒ほどのところが、問題だとされている箇所である。
ニコニコ動画はログインしないと視聴できないが、一応、URLを貼り付ける。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm20498382https://www.youtube.com/watch?v=uhEC1Xzbrok<iframe src="https://www.youtube.com/embed/uhEC1Xzbrok?feature=player_detailpage" frameborder="0" width="640" height="360"></iframe>
発言を文字にしてみると以下のようになる。
”生活保護が増えているのは大きな問題”
今、札幌をさいなんでいるもう一つの大きな問題は生活保護だと思います。
生活保護がこれだけ増えているのは非常に問題だと思っていまして、やっぱり、みなさんもよくお聞きしていると思うんですが、
日本で2番目に生活保護が多いんですよね。大阪に次いで2番目に多いんですよ。非常に私は問題だと思っています。
公共事業でいったらバラマキ減ったと見えるかもしれないけれど、生活保護はぐっと上がって増えています。
”生保受給者が多い街は魅力がない”
生活保護を増やし続けると財政的にも問題があると私は思っているんですけど、それ以上にマチとしての魅力として、
そういうマチを魅力的なマチだと言えるんだろうかと思うんですよね。
そういうふうなことが続いている。
”生活保護は遺伝する。世襲制と言われる”
そして、生活保護は遺伝するとか、世襲制だって言われていますけれども、
生活保護をもらっている多くのご家庭のお子さんたちはまた生活保護をもらうような状況に入ってしまう。
ある意味、ノウハウを与えているのと同じになってしまうと思います。
勤労意欲を養うというのはどこから学ぶかというと、『働くっていいことだよ』と言葉ではなく、身近に働いている人がいて、それを見てああ働かなきゃって思うんですけど、みんなが働いていなきゃ、子どもも思えないですよね。
最近、市役所の職員の人と話していて、『えっ?』と思ったのが小学校2年生の子どもが将来なりないもの、というので、びっくりしちゃったんだけど、生活保護をもらえばいいって書いてあったらしいので、小学校2年生で、って聞いて、ねー、それは…。
”根を腐らせてしまう”
でも普通の子どもだったら、自分のあれで書くわけないんで、たぶん、身近にそういうふうな実態があるのかなあという感じですよね。
だからやっぱりそれはちょっと…。
やっぱりそういうふうな意味でいうと、『根を腐らせてしまう』という意味で、札幌にとっては問題だと思います。
”ふきだまり、掃き溜めになっているのが大阪なんです”
そして、大阪に次いで2番目というとそれはそれで、『まあ、なんか1番じゃないからいいじゃないか』とも思うんですが、でも考えてください。大阪っていうのは、特…、あまり言っちゃいけないけど特殊な地域という面もありまして、これ良いか悪いかというのはありますよ。私、やっぱり橋下さんが出てきたのはマチとしての衰退感がやっぱり橋下さんを産んでいるだと思うんですが、大阪だけの問題ではなくて、要は奈良県の人、京都の人、あるいはもっと広がって、四国や中国地方の人や九州の人が、なんかもう、家族ともあんまりうまく行かず、知られたくない、とまぐれて(?)しまう。なんか、こう縁を切っていきたいというような、ふきだまりになってしまうのが大阪なんですよ。大阪っていうのは”掃き溜め”になっちゃっているというのがありまして言葉は悪いんですが。京都とか奈良とか、近隣のそういうものをすべて引き受けている部分もあるんですね。
でも、それに次いで札幌が2番目でいいのかという問題ですよね」
政治家の発言なので、できる限り正確に書き出した。
さて、この発言が今でもネットに上がっているのをみつけた弁護士たちが以下の「公開質問状」を本間候補の陣営に送った。
一部を省略しているが、それでも長文なので長いと感じた人は先に進んでほしい。
公開質問状
2015年 3月28日
札幌市長候補予定者 本間なな 様
ちょっと待って、ちょっと待って、本間さ~ん!の会
代表 弁護士 池田賢太
連絡先 〒060-0042 札幌市中央区大通西12丁目
北海道合同法律事務所
(電話番号など省略)
2015年4月12日執行の札幌市長選挙に立候補を予定している本間奈々さんに対し、有権者である札幌市民として、また豊かな札幌の発展を願う者として、下記の内容を質問します。選挙本番中ご多用とは存じますが、本年4月7日までにお答えくださいますようお願いいたします。
記
1 はじめに
本間さんは、今から2年も前になりますが、2013(平成25)年3月24日、日本のために行動する会主催の勉強会の講師として参加され、「覚悟を語る」との演題でお話しされました。覚えておられるでしょうか。当日の模様は、現在もニコニコ動画にアップされています。お忘れでしたら、どうぞご覧になってください。ご参考までに、URLをお知らせします。
(中略)
私も、このビデオを拝見させていただきました。縦横無尽に政策を述べられており、なるほどと思うところもございました。しかしながら、どうしても腑に落ちないところが何点かございましたので、質問をさせていただきます。
2 生活保護制度について
私が耳を疑ったのは、このビデオの冒頭1分30秒あたりから、本間さんが生活保護制度について語り始めた部分です。その後質問タイムもあり、15分40秒くらいから生活保護の不正受給問題についても回答されました。そこでは、概ね、本間さんは次のように述べられました。
「生保受給者が多い街は魅力が無い。札幌の生活保護は大阪についで多い。生保は遺伝する。世襲制と言われる。子供も生保をもらう状況に入ってしまう。ある意味、ノウハウを与えているのと同じ。子供は、身近に働く人がいて、勤労意欲を学べる。皆が働いていないと、そう思えない。将来何になりたいか、札幌の小学二年に聞いたら生保をもらう、と言った子がいる。身近にそういう状態があるのかな、と思う。根を腐らせてしまうという意味で、札幌にとって問題だ」
「大阪には特殊な地域があり、いいか悪いか別として、都市としての衰退感が橋下さんを生んだと思う。京都、奈良、四国、九州の人は、家族にもあまり知られたくない、黙って縁を切りたいような吹き溜まりになっているのが大阪なんです」
「不正受給については、札幌は生活保護の審査が緩いのではないか。医療費がただだからやるんじゃないか。鬱が一番もらいやすいので、鬱(の診断)を出してくれという人が多いらしい。ただ取りさせないよう、医療費を一部負担させるべきではないかと国も考えたらしい」
私は、貧困の固定化という議論は聞いたことがありますが、「生保は遺伝する」とか「生保は世襲制だ」とか、そのような議論を聞いたことは、不勉強ながらありません。
また、本間さんのご経歴からすれば当然ご承知のことであり、釈迦に説法だとは思いますが、生活保護受給世帯の構成比率について確認します。国立社会保障・人口問題研究所の調査結果によりますと、平成24年度の生活保護受給世帯の構成比は次の通りです。
高齢者世帯・・・・43.7%
母子世帯・・・・・ 7.4%
障害者世帯・・・・11.4%
傷病者世帯・・・・19.2%
その他世帯・・・・18.4%
本間さんは、生活保護受給世帯の構成比率のどの部分から、上記のようなご発言になったのでしょうか。働きたくても働けない高齢者や乳飲み子を抱えた母子世帯のことは念頭にはなかったのでしょうか。
加えて看過できないのが、大阪市に対する発言です。「吹き溜まり」とはどのような意味で使っているのでしょうか。
そこで質問です。
【質問1】
本間さんが、「生保は遺伝する」「生保は世襲制だ」と聞いたのは、どのような文献によってでしょうか。文献が無ければ、いつ・どこで・だれの話として聞いたのでしょうか。お知らせください。
【質問2】
本間さんの生活保護受給者に対する認識をお聞かせください。いかなる意味で、生活保護世帯の子どもたちの「根が腐る」のでしょうか。働きたくても働けない世帯の子どもたちへのメッセージとしても不適切であると考えますが、いかがでしょうか。
(以下、質問は続くが省略)
回答がないので弁護士らは北海道のマスコミ各社に以下のプレスリリースを出した。
報道関係の皆さま
2015年 3月30日
弁護士 池田賢太
〒060-0042 札幌市中央区大通西12丁目
北海道合同法律事務所
(電話番号など省略)
札幌市長候補本間なな氏へ提出した公開質問状について
いつも、皆さまには大変お世話になっております。
さて、この度、2015年4月12日執行の札幌市長選に立候補している本間奈々氏に対し、有志とともに「ちょっと待って、ちょっと待って、本間さ~ん!の会」を結成し、別添の公開質問状を提出いたしましたので、ご報告いたします。
この公開質問状は、2013年3月に、本間氏が「日本のために行動する会(日行会)」の勉強会で「覚悟を語る」との演題で講演した内容に対する質問です。同日の講演内容は、別添公開質問状にURLが記載されております通り、現在もニコニコ動画で確認することができます。
私が非常に問題だと感じているのは、3つ目の動画の冒頭1分30秒くらいのところから、生活保護に関して概ね以下のように発言している部分です。
「生保受給者が多い街は魅力が無い。札幌の生活保護は大阪についで多い。生保は遺伝する。世襲制と言われる。子供も生保をもらう状況に入ってしまう。ある意味、ノウハウを与えているのと同じ。子供は、身近に働く人がいて、勤労意欲を学べる。皆が働いていないと、そう思えない。将来何になりたいか、札幌の小学二年に聞いたら生保をもらう、と言った子がいる。身近にそういう状態があるのかな、と思う。根を腐らせてしまうという意味で、札幌にとって問題だ」
「大阪には特殊な地域があり、いいか悪いか別として、都市としての衰退感が橋下さんを生んだと思う。京都、奈良、四国、九州の人は、家族にもあまり知られたくない、黙って縁を切りたいような吹き溜まりになっているのが大阪なんです」
「不正受給については、札幌は生活保護の審査が緩いのではないか。医療費がただだからやるんじゃないか。鬱が一番もらいやすいので、欝(の診断)を出してくれという人が多いらしい。ただ取りさせないよう、医療費を一部負担させるべきではないかと国も考えたらしい」
これは、生活保護受給世帯に対する認識を誤っており、また当時から市長候補として認識されていた本間氏が「覚悟を語る」との演題で政策を述べているという状況に鑑み、公開質問状を提出し、その真意を問う必要があると考えたためです。すでに告示がなされ、選挙期間中ではありますが、有権者の候補選定に有益な情報であると考えました。広く報道いただきたく、ご連絡を差し上げます。
以 上
だが、今のところ、どこの社も報道していない。
なぜマスコミが報道しないのか。
その事情はマスコミの報道現場で長く働いていた私にはよくわかる。
これは選挙期間中だという理由で、各社が報道を見合わせているためである。
問題発言だということになったとしても、選挙運動が行なわれていて、投票前ということになるとなかなか記事にはしにくい。
もしも発言者が札幌市長に当選した暁にはおそらく最初の記者会見などで記者たちの質問攻めに遭うポイントになるだろう。
ちなみに、本間氏の発言を問題視する人たちも、共産党から立候補した春木智江候補を支持する人たちが多い。
それゆえ、北海道のマスコミ各社もこの弁護士らのアクションを特定陣営による「相手陣営への攻撃」と受けとめて、距離を置こうとしているのだろうと思う。
この原稿は、特定候補を有利にしたり不利にしたりすることを目的とした原稿ではない。
私もどちらかの陣営を有利にさせるという意図はまったくない。
ただ、いかに候補の個人的な見解であっても、「生活保護を受けている人たち」という特定の層の人たちを貶める発言は許されない、と思う。
特に生活保護は「遺伝する」などという表現や生活保護を受けている家庭の子どもたちは「根が腐っている」などという表現は、相手の人格を傷つけるヘイトスピーチだと言える。
選挙期間中もこの発言の動画を公開しているので、おそらく確信犯なのだろう。
生活保護を受けている家の子どもたちは、この発言を聞いたらどう感じることだろうか?
もちろん、本間候補が言わんとした問題そのものはとても重大なテーマである。
正しい言葉の使い方をするならば、「貧困が連鎖してしまう」という問題だ。
生活保護を受けていた家庭で育った子どものうちの「相当の割合」が将来、大人になった時に生活保護を受けるようになるというデータもある。しかし、それはすべてではなく、私の知る限りでは4人に1人というデータだった。
政府(安倍政権)も、こうした「貧困の連鎖」をなるべく解消していこうと、「子どもの貧困対策」に本格的に取り組む姿勢を示している。
具体的に言えば生活保護を受けている家庭や生活困窮の家庭の子どもたちに勉強を教えたり、居場所をつくったりするNPOなどの取り組みを行政が支援していく動きを広げようとしている。
それなのに「遺伝する」「根が腐る」などという無理解な言葉はあまりに不用意で、子どもたちの心を傷つけてしまう。
「生活保護を受けている人たち」を差別するような発言だと感じたなら地方行政のトップとしてはふさわしくないので、取り消してほしい。
その上で、「貧困の連鎖」を断つためにそうすればいいか、生活保護の問題をどうしたらいいかをオープンな場で差別にならないように配慮しながら、建設的な議論を進めてほしい。
そして、本間候補に限らず、次の札幌市長に当選した人はぜひ「子どもの貧困対策」に本腰を入れて取り組んでほしいと願う。