毎年11月8日は京の祇園で「かにかくに祭」がある日だ。
鎌倉育ちの歌人吉井勇の、「かにかくに祇園は恋し寝るときも枕の下を水のながるる」
この古歌にちなみ、祇園の美妓居並びて歌碑に献花する行事だ。
勇の歌は明治43年頃の作だが、この歌碑は昭和30年勇の古希に建てられた。
我家にもこの歌の自筆色紙があるので、鎌倉でも一緒にお祭りしよう。
本は「祇園歌集」初版。
「水の流るる」は白川に張り出した茶屋や床があって多分その実景だが、枕と水で平安以来の涙を連想するのも良いだろう。
餞に私も一首献じよう。
ーーーかにかくに昭和は恋し珈琲の ミルクの渦に時も渦巻くーーー
勇は戦後毎年の都踊りの歌詞や、新橋東をどりの歌詞も作っている。
実は私も新橋芸者衆の句会指導に毎月出向いて20年以上になるので、吉井勇ほどではないが名妓達と些かの縁もある。
写真下方の夢二の装丁本は祇園歌集と並ぶ「東京紅燈」初版。
新橋の歌も多く詠んでいる。
本立てには吉井勇の主な歌集などをずらっと並べた。
ネットのお陰で歩いて古書店を回っていた時代に比べれば、各巻初版でさえ遥かに楽に揃えられる。
大正期の放埒な歌も良いが、戦中戦後の閑寂な西行のような歌は格別隠者好みだ。
写真の棟方志功との共作「流離抄板画巻」は、詩書画三絶が一体となった昭和の名作だと思う。
伯爵でもあった勇の若い頃は放蕩の限りを尽くし、零落してからは各地を流浪の果てに洛北に幽居した。
「友欲しと思ふ夕のあぐら居や比叡荒法師山をくだり来(こ)」勇。
今は祇園も新橋も疫病禍で困難を極めているが、昭和の敗戦を乗り越え美しき日本文化を伝えて来た先人達を想い、何とか皆で復興して頂きたい。
©️甲士三郎