一章:Ramen Wars Ⅱb《ラーメン戦争2b》
「たいていの人は、剣によるよりも、飲みすぎ、食いすぎによって殺される」--ウイリアム・オスラー
木山 春生が、カレーラーメンを完成させたとき、実験室ラボのドアを叩くものがあった。
「あの…… 調査資料をお持ちしたんですけど」
「うむ? ああ…… 入りたまえ」
それは、木山 春生が研究員に依頼しておいた調査書を持ってきたものだった。
「ご依頼されていた『RSPK症候群の発生原因とAIM拡散力場に関する調査』をまとめたものをお持ちしました」
「ああ…… ご苦労さま。そこに置いておいてくれないか。ああ…… それと、ちょうど良かった。実験を、君に手伝ってもらいたいのだが。いいかな……」
「何でしょうか?僕にできることなら、お手伝いします!」
新入の研究員にとって、日頃からラボでおこなわれている実験に大きな関心を持っているのだが、なかなか深く関わることができずにいる。そのような実験の手伝いができることに大いに喜んだ。
「助かるよ…… 実験結果を第3者の視線から評価してもらいたいんだ……」
木山 春生は、先ほど完成させたばかりの、あのカレーラーメンの入ったビーカーを持ってきた。
「これを食してくれたまえ」
「えっ! 何ですか? それは!!」
「これかい? これは味覚による共感覚性(シナスタジア)の実験だよ」
共感覚性(シナスタジア)とは、ある刺激に対して通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚をも生じさせる特殊な知覚現象をいい、彼女が作り出そうとしている『幻想御手(レベルアッパー)』の完成には欠かせない研究対象なのだ。
「でも…… 人体に悪影響とか、ないんでしょうか?」
研究員は、木山 春生が手に持つビーカーの中身に恐れを抱きながら質問した。そして、自ら協力を申し出てしまったことに心から後悔した。
「たいじょうぶ…… ちゃんと消毒してあるさ」
不気味な笑みを浮かべつつ、ビーカーを研究員に手渡した。
「 わ…… わ・わかりました。しょ・食させていただきます」
彼は覚悟を決めた。実験の内容はともかく、実験自体に関わることが、とても貴重な体験になると考えてのことだった。
「じゃ…… 頼むよ。おっと…… 少し待ってくれたまえ。」
そう言った木山 春生は、その場で白衣を脱ぎ、ブラウスのボタンをはずし始めた。