ジニーの、今日も気まぐれな感じで・・・

気負わず、気取らず、ありのまま。
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天使の卵~エンジェルス・エッグ~ ジニレビュVol.4

2006年10月07日 02時25分27秒 | レビュー(ジニレビュ)
水彩絵の具の青をギリギリまで延ばした、どこまでも透明に近い青。

そんなイメージを僕はこの小説に持つのです。
きれいで、儚くて、暖かくて、脆い・・・。
読み終えたあと心に漂う満足感と喪失感。
甘いその麻痺のような感覚に浸りたくて、何度も何度も読みました。


出会いは偶然という必然でした。
当時学生だった僕は、登下校での電車の時間を有効に使いたいと思いあてもなく本を探していました。
読書なんて滅多にしなかった僕がその時そう思ったのは、まだ見ぬこの本の引力をどこかで感じていたからなのかもしれません。
本屋に入った僕はまるで吸い込まれるかのように「村山由佳」の棚の前にいました。
そして最初から決まっていたかのように「天使の卵」を手に取っていたのです。
この本をきっかけに僕は読書の素晴らしさに気付くことができました。
まさに僕の運命の一冊なのです。


遅くなりましたが、簡単な紹介をしたいと思います。
「天使の卵」、村山由佳原作の恋愛小説です。
この小説は1993年に第6回小説すばる新人賞受賞し、その後も10年以上変わらぬ支持を受け続けている作品です。
その支持に後押しされ、映画化が決定し今月いよいよ公開されます。




「天使の卵」・・・これ以外ありえないと思えるくらいぴったりなタイトルです。
触れれば割れてしまいそう、でも触れられなければ暖められない。
そんな危うさがどこか人の心にも似ているような気がします。
とても繊細なものなのです。
そして、この作品のいたるところに感じるのがその繊細さなのです。

物語の登場人物たちは皆心に痛みを抱えています。
そしてその痛みと向き合い心を引き裂かれながらも答えを見つけ出していきます。
その姿に僕の心も不思議と同じように引き裂かれるような感覚をリアルに感じるのです。
でもそれは当然のことなのだと思うのです。
だって、きっと誰の心にも痛みはあるのだから・・・。
その痛みが作品とシンクロしてしまうのです。

恋とは傷つくことなのだと思います。
もちろんそれがすべてではありません。
ただ、誰かとともに生きるということは口で言うほど簡単なことではなく、それぞれを取り巻く環境や、それぞれの持つ悩みがついてまわります。
価値観の違い、考え方の違い。
許せること、許せないこと。
自分の理想、相手の理想。
さまざまなズレを修正し、同じ未来を描いていくには痛みを避けることはできません。
その連続の中で心が折れてしまったとき、恋は終わります。

しかし、人は傷つくからこそ成長できるものなのです。
心を深く穿つ痛みでさえも乗り越えたとき新しい自分に出会うことができます。
そしてそんな自分を受け止めてくれる相手の笑顔があるのです。
何も失わずに得るものなんてきっとありません。
作品中でも、主人公とヒロインは痛みを受けながら、何かをなくしながらもひとつになります。
その場面でこの物語は一番の輝きを放ちます。
胸から溢れ出してしまいそうなくらいの幸福感に包まれます。
読み終えたあとの満足感と喪失感はきっとそこから来るのでしょう。
どこまでも繊細なこの作品に心の澱みはなくなり澄みきっていきます。


そこにあるのは「心震えるほどの切なさと感動」でした。
ちなみに、物語は終盤に向かうにつれて切なさが一気に加速していきます。
まだ読んだことがないという方は是非あなた自身でそれを確かめてみてください。

コメント
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