作者不詳の「聖アンナと聖母子」
レオナルド・ダ・ヴィンチの「聖アンナと聖母子」
「あれ、この絵は!?」
名古屋市博物館で開催中(3月25日まで)の「レオナルド・ダ・ヴィンチと『アンギアーリの戦い』展」を鑑賞していて、多くの戦争絵画の中で愛情豊かな1枚の絵に足が止まりました。
《聖アンナと聖母子》という作品です。「以前ルーブル美術館で見たし、ちょっとした縁もある絵ではないか・・・」
2013年11月、パリ旅行で入ったルーブル美術館。
展示フロアのあちこちでイーゼルを立てて作品を摸写する、という日本の美術館では考えられない光景を目にし「さすが文化国家・フランスだ」と、帰国後にキャンバスに向かう中年男性の姿を40号の絵にしたものです。
この男性が模写していたのが、レオナルド・ダ・ヴィンチの《聖アンナと聖母子》でした。「それがここにあるということは、展覧会のためにルーブル美術館から借りたのだろうか。奇遇だな」と驚き、手にしていた展覧会パンフの裏面に掲載された=このページの写真㊤=を見て、また驚きました。
写真の説明欄に「作者不詳(レオナルド・ダ・ヴィンチに基づく)《聖アンナと聖母子》フィレンツェ、ウフィツィ美術館蔵」とあったのです。
ルーブル美術館蔵ではなく、ウフィツィ美術館蔵。作品名は同じ。でも、作者不詳?。「レオナルド・ダ・ヴィンチに基づく」とはどういう意味なのだろう?
イタリア・フィレンツェのウフィツィ美術館にも10数年前に入ったことがあります。でも、絵画についての知識・鑑賞力が今以上に乏しかったせいもあってこの作品の記憶はありませんが、いずれにせよ同じ絵が2枚あることになる???」。
博物館の学芸員に尋ねると、次のような答えが返ってきました。
「基づくとしたのは、ウフィツィ美術館の絵はレオナルド・ダ・ヴィンチ自身が描いたものではないということです。レオナルド・ダ・ヴィンチの弟子や、彼とは直接関係はないが影響を受けて描いたとみられる作品をひっくるめて、展覧会に関わっていただいる先生たちと話し合い『基づく』と表現させてもらいました」
「ウフィツィ美術館の聖アンナと聖母子は、愛弟子だったサライが描いたとの説があります。しかし、裏付けるデータもなく疑問があるとして明記しませんでした」
なるほど、理解できました。
帰宅してネットを開くと、ルーブル美術館の《聖アンナと聖母子》には明確にレオナルド・ダ・ヴィンチ作とあります。ウフィツィ美術館の作品には一部にサライという表記があるものの全部ではありません。
絵にも違いがあります。ルーブル美術館の絵は右上に樹木、背景に山並みが描かれています。これに対し、ウフィツィ美術館の絵は左上に木があり、背景にあるのは巨大な岩山のようです。絵に詳しい方ならもっと多くの違いを指摘されるでしょう。
《聖アンナと聖母子》という作品名の絵が2枚あるのは常識かもしれません。でも、僕は知りませんでした。偉大なレオナルド・ダ・ヴィンチだけに、他にも諸説あるようですが、手に負えそうもないのでこの辺にします。
それにしても、先日のシャガール展ではシャガールが陶芸や彫刻の分野でも素晴らしい創作をしていたことを知るなど、美術館巡りは楽しいですね。
ルーブル美術館でレオナルド・ダ・ヴィンチの「聖アンナと聖母子」を摸写する男性 F40