名古屋の松坂屋美術館で、12月6日までの日程で開かれている再興第100回院展の名古屋巡回展を鑑賞してきました。
水彩画を学んでいる僕ですが、美術館や展覧会巡りも趣味のひとつ。なかでも、日本画ながら秋の院展は最も楽しみにしています。作品の素晴らしさもさることながら、同人の作品に添付された作家自身の短いコメントが楽しみだからです。
そこに書かれているのは制作の意図や思い、画面作りの過程など。全ての同人が出しているわけではありませんが、作品をより深く味わえ、作家に親しみも沸いてきます。
今年は、再興第100回という記念展とあって、コメントからも画家としての喜びや、今後への意気込み伝わってきます。
11月16日に101歳になられた郷倉和子さん。「生きていることに感謝、描けることに感謝、出品できることに感謝を込めて描きました」(要旨。以下同)
日本美術院理事長の松尾敏男さん。美術院を創設した岡倉天心の亡き後、再興に尽力した横山大観を取り上げ、今回の作品にかけた思いを「今一度、日本画の王道を歩こうと新しい旅たちをした」と結んでいます。
「中3とタンポポの頃」と題してタンポポを画面いっぱいに描いた村上裕二さんは「僕はカーペンターが好きだった。友人はビートルズがいい、もう一人はツェペリンといった」と、別れの春の遠い思い出をコメントに。
「絵を描き続けているが、分からないことが次々に出てくる」とか、大きな球形の星について「卵と繭のイメージで描いた」などといったコメントも楽しく読みました。
「この風景。太陽は夕日だろうか、朝日だろうか」と会話していた2人連れは、コメントの中に「早朝」の文字を見つけて「ああ、朝なんだ」。2人にモヤモヤが残らずに済みました。コメントには、こんな「効用」もあるのですね。
作品にコメントがついた展覧会は、名古屋市の市立高校展や天白区民美術展などでも試みられ、作品と鑑賞者の距離を近づけています。
しかし、大きな公募団体の展覧会ではあまり見かけたことがなく、僕も作品が理解できずに消化不良のまま会場をあとにすることが少なくありません。
とくに抽象画。作品の大きさからも制作には大変なエネルギーをかけられたのだろうと思い、何とか理解しようとするのですが・・・。
抽象画の多い会場で、たまたま居合わせた作家に話掛けたことがあります。作家氏は僕の愚問に丁寧に答え、制作の意図や苦労した個所などを説明してくれました。
僕たち素人仲間の作品展でもそうですが、プロであっても作品の前を素通りされるより、足を止めて少しでも見て、理解してほしいでしょう。彫刻や工芸展などでも同じはずです。
かといって、全ての展示作品にコメントを付けるなんて事務局にとっては大変です。同人とか会員ぐらいならいかがでしょう。
作家と鑑賞者の距離を縮め、美術ファンのすそ野を広げることにつながると思います。