モーツァルト:3台のピアノのための協奏曲
バッハ:3台のピアノのための協奏曲
イタリア協奏曲
ピアノ:ロベール・カザドシュ
ギャビー・カザドシュ
ジャン・カザドシュ
指揮:ユージン・オーマンディ
管弦楽:フィラデルフィア管弦楽団
LP:CBS/SONY 13AC1065
親子共演の録音はそう珍しくはないが、両親と息子の3人の共演ともなると、あまり聞いたことがない。そのあまりないことがこの録音では、実現しているのである。ロベール、ギャビーカザドシュ夫妻とその息子のジャン・カザドシュの3人が、ピアノの共演をこのLPレコードで行っている。モーツァルト:3台のピアノのための協奏曲は、「ハフナー・セレナード」が書かれた年に作曲された曲で、伯爵夫人と2人の令嬢のために書かれたものである。つまり、素人のために書かれた曲であるので、特に深い内容があるわけではないのであるが、聴いていて思わず微笑ましさを感じるような曲に仕上がっている。そんな曲であるので、親子3人が仲良く弾くにはこれ以上の曲は考えられない。実際、3人は家庭内で互いに親密な会話を交わしているような雰囲気で演奏をしており、親密感が滲み出た演奏内容となっている。バッハ:3台のピアノのための協奏曲は、チェンバロ用に書かれた曲を3人のピアノ演奏で聴くことができるのだが、3人の達者なピアノ演奏が何とも心地良い空間をつくり上げている。ここでも親子という関係が十二分に発揮された、親しげな演奏内容となっている。しかし、その演奏の質自体はというと、単に親密さを上回り、奥行きの深い、説得力のあるものに仕上がっている。一方、バッハ:イタリア協奏曲は、名手ロベール・カサドシュの独奏の名演に酔いしれることが出来る。ロベール・カサドシュ(1899年―1972年)は、パリ出身でパリ音楽院で学ぶ。世界を代表するピアニストとして各国で演奏旅行を行う。作曲家としては7曲の交響曲、3曲のピアノ協奏曲、多数の室内楽曲などがある。初来日は1963年。その時の印象を菅野浩和氏は「音楽性のエッセンスのような、実に風格に満ちた、味わいの尽きない名演奏を聞かせてくれた」とこのLPレコードのライナーノートに書いている。そして、1968年の二度目の来日は、ロベール・カザドシュの独奏に加え、呼び物は、このLPレコードと同じように、夫人と息子を加えた、いわゆる“カサドシュ一家”による3台のピアノによる演奏会であった。そんな、幸福の絶頂にあった“カサドシュ一家”に突如不幸が襲い掛かる。3人で来日した4年後に息子のジャン・カザドシュが交通事故のため不慮の死を遂げる。さらにその8か月後、父親のロベール・カサドシュが亡くなってしまう。このLPレコードの幸福そうな“カサドシュ一家”の写真をを見ていると、この世の儚さが胸に去来するのである。(LPC)