マックいのまたのMalt Whisky Distillery

モルト好きで株式公開/上場(IPO)の経営戦略,マーケティング,M&Aを支援する経営コンサルタントのプライベートブログ

ウィスキーのモノ作り 2

2013-10-23 15:42:55 | グルメ

前回は樽の話。今回はブランド?の話。

先日、会員制量販店のコストコで、KIRKLANDというブランドの
スペイサイド・シングルモルト20年というウィスキーを発見
しました。またまた人気のシェリー樽フィニッシュです。

kirkland_sherry_finish_20.jpg

売り場には売り子さん(といってもいい年のオジサン)がいて、
「本場スコッチ・ウィスキーの20年ものだよ!私の感じでは
ウィスキー界のロールス・ロイス、あのマッカランの18年と
同等かそれ以上じゃないかというものだよ!」と熱心に試飲を
勧めていました。

私は笛吹峡のことがあったので、せっかくの機会だからと少し
試飲をさせていただいたら、確かにシェリーの風味はついて
いますが、シェリー樽で20年熟成させた深みはありません。
そこで、よくラベルを読んでみると「シェリーフィニッシュ」
と書かれています。

このフィニッシュとはどういうことかといえば、製品出荷前の
半年~1年程度シェリー樽で寝かしました、ということです。
つまりは、その前の約19年はシェリー樽とは違う別の種類の
樽で熟成させたということです。

今回は、樽の話ではないのでラベルの話に移行すると、この
ボトルに書かれているスペックは、以下のようになります。

・スペイサイド(ウィスキー蒸留地)
・シングルモルト(単一蒸溜所)
・スコッチウィスキー(スコットランド産)
・20年熟成(最低熟成年数20年以上)
・シェリー樽フィニッシュ(シェリー樽仕上げ)

前回の蒸溜所と生産年と熟成樽が特定されたシングルカスクに
比べると、スペック的には見栄えがする単語が並んでいますけ
れど、ウィスキーの個性が特定される要素はほとんどなく、ボン
ヤリしています。

ここで業界の事情を打ち明けると、KIRKLANDとはコストコの
プライベート・ブランドですが、コストコにシェリー仕上げの
原酒を提供しているのは、売り子のおじさんがいみじくも言っ
ていたマッカランだそうです。マッカランといえば、確かに
モルト・ウィスキーのロールス・ロイスと呼ばれてます。さらに
数年前まで、このラベルにはマッカラン蒸溜所製という表示
すら印字されていたそうです。したがって、このボトルもマッ
カランである可能性が極めて高いでしょう。

ウィスキーメーカの方がよく話されることに、ウィスキーは
シングルカスクで楽しむのに向いたものと、ブレンドに向いた
ものがあるということです。種明かしをすると、前回の記事は
前者、今回の記事は後者ということです。

前回の知識をもって今回の記事を考えていただくと、たとえ
ロールス・ロイスが作ったといえども、樽によって、あるいは
熟成庫の違いや、同じ熟成庫の内でも樽がおかれた場所に
よって、より美味しいとか、より美味しくない、といった差異が
生まれます。

例えば、ロールス・ロイスが作って傑作が出来たら、それは
ロールス・ロイスの名前で世に出すでしょう。しかしロールス・
ロイス製の駄作だったら、メーカの名前をつけて世に出せない
というのが商売の信用です。

そういうものをエルメスやルィ・ヴィトンよろしく破棄するか
どうかは、外からは分かりません。いくらアルコールが60度
あるからといって、アルコールランプの燃料に使ってしまう
ということも考えにくいです。

先の「ウィスキーはシングルカスクに向いたものと、ブレンド
に向いたものがある」というのは、スコットランドでも日本
でも聞きました。ある方は「ブレンドは、ウィスキーメーカの
経営をする上で必要な存在だ」とまで言っています。ならば、
例えばそういう大人の事情というものではないでしょうか。

一般消費者の価値観に訴える「スペイサイド」「シングルモルト」
「スコッチ」「20年熟成」「シェリー樽」というスペックが揃って、
価格はロールス・ロイスの4分の1。それを会員制の激安量販店
に並べれば、商売としては成功条件が積みあがります。

だから、すべてのウィスキーは前回のシングルカスクと今回の
シングルモルトの間の、どこかのポジションで店頭に並んで
いるのですね。そして、人々は夫々の理由でお気に入りを買い
嗜好しているのだと思います。したがって、少し知識を増やせば
本当の自分好みのお酒が見つけられるようになりますね。

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