マックいのまたのMalt Whisky Distillery

モルト好きで株式公開/上場(IPO)の経営戦略,マーケティング,M&Aを支援する経営コンサルタントのプライベートブログ

ウィスキーのモノ作り 6

2013-10-29 16:00:06 | グルメ

最初は樽の話、2回目はブランド?の話、3回目はブレンドの
話、4回目は品質管理の話、5回目は市場の話、今回は未来の
話です。

ウィスキーの歴史が語られるとき、よく耳にする逸話は例のあれ
でしょう。17世紀から18世紀にかけてのスコットランドでの
酒税法と密造の話です。曰く「密造した酒を徴税使の目から免れ
るため、樽に詰めて山奥に隠した。年月が経って取り出してみる
と、琥珀色に変化し芳醇な香りのする液体に変わっていた」と
いうものです。

日本におけるウィスキーの歴史は、広島・竹鶴酒造の三男坊で
ある竹鶴政孝が洋酒製造に興味をもち、単身スコットランドへ
修行へ出掛けることから始まります。このときの竹鶴の身分は
摂津酒造の従業員でしたが、その後帰国しウィスキー製造を始め
ようとした時には時世が悪化し、摂津酒造にウィスキー製造を
始める余力がありませんでした(1920年)。

少し時代が下って、寿屋(現サントリー)の鳥井信治郎がウィスキー
製造に乗り出そうと考えた際、竹鶴を雇用して摂津と山城の
国境である山崎にウィスキー工場を建設します(1924年)。

10年後の1934年、竹鶴は鳥井との契約期間である10年を
満了したことから寿屋を退社し、国内でウィスキーを製造する
最有力候補地であった北海道・余市にウィスキー工場を建設
します。


さて、スコットランドでウィスキーなる蒸溜酒が作られるように
なり、また日本で四捨五入すると約100年前の当時のウィスキー
作りを考えてみると、何もかもが経験知によって製造される家内
制手工業の実態であったことは容易に想像ができます。

当時の「現代的」というのは、せいぜい産業革命によって蒸気機関
(18世紀の発明)や、鉄鋼が用いられるようになった程度です。
このため、全世界中のウィスキー工場の99%は、歴史的に牧場で
あったという背景をもつためか、酒造メーカという業種的な特徴
とは異なる理由で、現在でも牧歌的などこか懐かしい風情があり
ます。

しかし、現在一番といっていいほど最新鋭である台湾にあるカヴァ
ラン蒸溜所は、工場の建物は完全密封でITによる製造管理を
行っており、工場見学に出掛けてもガラス張りの通路を通るだけ
だそうです(すみません。私はまだ行ったことがありません)。

kavalan-distillery.jpg

そうして出来上がる製品は、非常にクリアな均一感高い味のウィ
スキーに仕上がっていて、従来に比べて短期間での熟成(これも
製造管理が可能)によってコンテストで高い評価を得ています。

この業界では「ウィスキーは飲むほどに美味しくなる酒だ」という
言葉があります。長年ウィスキーを飲んでいると味覚が鋭くなり、
より細かい味を美味しく感じるようになるのだといいます。

これを切り取って、例えばジャーナリストの方は「ウィスキーは
科学(サイエンス)か芸術(アート)か」という表題を掲げられます
が、これまでの時間の経過を踏まえて表せば「伝統的に芸術の
領域だったものに、どんどん科学が進出している」と評すのが
正しい表現でしょうが、ポイントはどこまで時代が下って、どこ
まで科学が進出しても、ウィスキーは嗜好品という趣味の分野の
製品だということです。

趣味が嵩じて研究になれば、ごく一般的な事実は前提となり、
もっぱら関心は「美味しさを生み出す秘密(要素)や秘訣(技術)」
に移り、その数が多く複雑であるほどこれらのミックスやバラ
ンス、最大公約数の可能性を探求することになります。もし、
さらに趣味が嵩じて製造する立場になった人物がいたとしたら、
最大公約数だけでなく最小公倍数の可能性も経営には必要と
なるでしょう。

そういう時系列のなかにいて、現在がどの時点かといえば、先の
カヴァラン蒸溜所のアプローチは、とりあえず最大公約数は
考えずに最小公倍数だけ訴求するという種類のものです。それは
モルトスターから購入した麦芽をエアコンディショニングされた
工場で発酵させ、シェリー樽でフィニッシュした味わいからも
明らかです。

足元の市場が「甘め」を志向しているとき、このアプローチは
短期的に大ヒットする可能性を秘めています。広告宣伝にレバ
レッジを効かせれば、数世紀の歴史と伝統のブランドを曇らせる
だけの力があるかもしれません。

一方で消費者の関心は移ろいやすく、現代のスピード社会では
その速度は加速するばかりですから”ハイボールのお客さん”
ばかりに経営の基盤を求める一本足打法経営はレバレッジを
効かせるには危険が伴います。

こういう最前線で、ウィスキー製造の現場において何かを目的
に、アートがサイエンスに置換される事態が進行しています。
それは製造のリードタイム短縮であったり、均一な味を訴求し
バラツキという誤差を極小化することであったり、製造コストを
削減することであったりです。この3つのどれかひとつでも
あるいは全てならもちろん経営努力として評価されるのは間
違いありません。

しかしながら、飽きやすいのに鋭いセンサーをもつ人間の味覚
に対し、この努力はゴーイングコンサーン(事業の継続可能性)
と映らないかもしれません。それが証拠にワインの分野では、
科学的な製造アプローチで評価を受ける銘柄と、完全に伝統的
な製造アプローチで評価をうける銘柄では、依然として後者の
評価が高いからです。

この評価が確立し業界全体として浸透するのは、マニア向けに
ハイエンドしたシングルカスクマニアのレイヤーと、蒸溜所レ
ベルでの個性を楽しむモルトファンのレイヤーと、氷や水や
トニックウォーターで割って飲みやすい味を求めるレイヤーが
統合ではなく分離した後の、これから十数年~数十年の後の
ことでしょう。

このあいだに、ひとつでも多くの蒸溜所が存続できることを
希望したいと思います。(了)

caol_ila_15yo.jpg

にほんブログ村 酒ブログ 洋酒へ
にほんブログ村

感謝!


ウィスキーのモノ作り 5

2013-10-28 12:38:24 | グルメ

最初は樽の話、2回目はブランド?の話、3回目はブレンドの
話、4回目は品質管理の話、今回は市場の話です。


長らく経営に携わっていると、市場を「しじょう」と読むクセが
ついていて疑いもしないようになっていますが、小学生の頃に
漢字を勉強すると「しじょう」と「いちば」とでは、どう違うん
だろう?なんて素朴な疑問をもったものでした。

今回は、市場を「いちば」と読み、さらに「いち」と「ば」に
分けて考えます。

市(いち)はセリの意ですから、商品が評価されることです。高い
評価を得るために、名前をたくさん露出したり、特徴を列挙して
間口を広げたり、コンテスト受賞で信用を高めたり、といった
営業努力が行われます。ウィスキーは商品という形で流通します
ので、これは当然の経営努力です。

場(ば)は、場所の意ですから、その広さや集まっている人の数の
ことです。いわゆる経済でいう「しじょう」の意です。ウィスキー
は嗜好品ですので、ひとりの消費者を捕まえれば、「誰が何と
言おうと俺にはこれが一番旨い」というのが基本であり、この
ボリュームを層(レイヤー)で捉えれば、究極のウィスキーを求め
て50年もの長期熟成を経たシングルカスクこそ最上という人も
いれば(ちなみに私は飲んだことありません)、アルコールで酔っ
払えればウィスキーでも何でも構わないという人もいます。

すると商売成功の前提はターゲティングですので、これらのレイ
ヤーのなかのどこかの層を捕まえて「これが俺には一番旨い」と
言わせればよい、ということになります。

さて、ここで市と場を統合し漸く「しじょう」として考えることに
すると、最近のウィスキーってどうなのよ?というとき、どうやら
ハイボールが人気らしいよ、ということでボリュームの最前線の
嗜好が説明されます。

ここ数年のハイボール人気は、サントリーが仕掛けた販売促進が
当たったことによるものですが、そのプロモーションで提案されて
いる「角」で作るハイボールより、じつはシェリー樽熟成のウィ
スキーをベースに作るものの方が相性が良いのです。私の経験では
これまで何人もの方にお試しいただいて100%の同意率でした。

素人の私がひとりで薦めるより、プロのバーテンダーさんがお店で
お奨めして実際に美味しければ、ウィスキーの評価は高まりそう
です。そうしてボリュームの最前線の嗜好が甘めにシフトして
いきます。もちろんメーカはこれに対応してブレンドを変更する
でしょう。これで「ハイボールに最適」という特徴がひとつ増える
ことになるからです。

事業会社が市場を活性化させて顧客を獲得したいときに、顧客の
嗜好に合せて行うリニューアルがこうして行われます。間口を
広げて顧客に合せるということは、顧客の嗜好から抵抗を取り除
いて親しみを感じてもらおうという作業ですから、「甘く」に
なるのはウィスキーに限らず、クルマもアパレルも美容整形も
同じです。プチトヨタ、プチブランド、プチ整形。

しかしウィスキー市場というのは、巨大なアルコール飲料市場の
うちのプチ市場なのですね。正式にはニッチ市場といいます。
その元来間口の狭い市場が顧客に合せてブレンドを変えると、
あっという間に全体が「甘くなってしまう」のです。折からの
EU法の規制を受けるスコッチ・ウィスキーは、原則として
アルコール度を40度にせねばならず、加水を増やしてアル
コール割合が低下すれば、アルコールの辛さが減る分だけより
一層甘く感じられるという追い風も吹きます。またアルコール
に溶け込んでいた香味成分も減ります。

その結果、おしなべてマス・ボリュームを追うグローバル・ブラ
ンドはその出自たる個性を失い、失われた個性を嗜好していた
人々は行き場を求めてプライベート・ボトルを探検する旅に
出て、中間層が減少しました。

このような市場(この場合「しじょう」も「いちば」も同義)の
動向は、かつてオヤジの酒と揶揄された歴史を再び歩もうとして
いるようにも見えます。けだしウィスキーは、製造から出荷まで
長い年月を要し、市場の目先を追い続けることは経営上の負担が
大きいからです。かといって市場と時代の変化を無視し、唯我
独尊を貫けば前提となる商売が続かなくなってしまいます。これ
までも多くの蒸溜所が閉鎖や売却され、事業再編(とボトルの
中身が変わってしまう)が繰り返されてきました。

これらの経験を踏まえて意識する必要があるのは、人々がこの
酒に関心を寄せる「美味しさの原点が何処から来るのか」という
一点でしょう。間違いなく言えるのは、名前をたくさん露出した
り、特徴を列挙したり、コンテストで受賞を重ねることとは直接
無関係なところにあるということです。

「これこそがモルトだ」という未来永劫続くエッセンスを知る
人物は、製造を実践する人物のなかにいるはずです。

rosebank12yo.jpg

にほんブログ村 酒ブログ 洋酒へ
にほんブログ村


感謝!


ウィスキーのモノ作り 4

2013-10-25 18:02:25 | グルメ

最初は樽の話、2回目はブランド?の話、3回目はブレンドの
話、今回は品質管理の話です。

山梨県の北杜市という所、というよりも小淵沢といった方が
通りがいいかもしれません、にサントリーの白州蒸溜所があり
ます。ウィスキーを飲まない方でも、天然水のミネラル・ウォー
ターでご存知でしょう。

テーマがウィスキーですのでウィスキー・ベースで進めますが、
サントリーのウィスキーといえば山崎が有名で代名詞的存在です。

確かに山崎は京都と大阪の国境にあるサントリーのマザー工場
ですが、サントリーのウィスキーはブレンドを前提に製造して
いる要素が強いので、白州の原酒がなければサントリー・ウィ
スキーが成立しないのも事実でしょう。

ピートやミズナラの風味が強い山崎の原酒に対して、白州の
原酒は干草や白樺の風味が強い山林の霧や靄を感じさせるもの
で、市場に対しては「竹炭でフィルタリングすることで、この
特徴がでる」とアナウンスされます。

hakushu-heavypeated.jpg

さて、先日サントリーが運営するモルトバーで、白州1992
なるウィスキーを飲みました。バーのオリジナルボトルですので、
写真はありません。すみません。

これを飲むきっかけは、いつもの癖で「アルコール辛く、塩っ
ぽいウィスキーが飲みたい」という、いささか意地悪な注文を
してしまったのですが、驚いたことにこの1992年の白州モ
ルトは、想像をはるかに越えたアルコール辛さと塩味を持って
いて、思わず唸ってしまいました。ちなみにシングルカスク
ではなくてバッティングだそうです。もし今年瓶詰めしたの
ならば20年前の原酒ですから、長期熟成ウィスキー向けの
バッティング原酒かもしれません。

これまでの記事をお読みいただいた方は、この内容をご理解
いただけると思いますが、今日書きたいポイントは残念ながら
ここではありません。白州というウィスキーそのものについて
です。

メインの山崎に対して、どうしてもサブの位置づけになる白州は
伝統的なネーミングがされたシングルモルトも、山崎に対して
「おとなしい」印象があり、国内のニッカでいう余市に対する
宮城峡のような印象です。ウィスキーの世界ではスモーキーな
臭いをクセが強いといいますが、クセの強さを縦軸にとり、
アルコール辛い・甘いを横軸にとれば、興味深いマトリクスが
出来上がります。
        クセが強い
          |       
     余市   |  山崎
    (ニッカ)  | (サントリー)
辛い ----------------------------- 甘い
     白州   |  宮城峡
    (サントリー) | (ニッカ)
          |       
        クセがない

クセが強いかどうかは、ピート濃度や個性の強い樽の影響で
簡単に決まりますが、クセがないなかでの辛さや甘さは
麦の種類や酵母、シェリー樽等々の複数の影響が考えられる
ので、簡単に決まるわけでもありません。

そこで白州の竹炭処理が登場してきます。白州の12年や
17年といったオフィシャルボトルを飲んだ方なら、口当たり
の優しいウィスキーの印象を覆すメロウな柔らかさを感じら
れることでしょう。そして竹炭でフィルタリングしていると
説明されます。

ウィスキーが樽から瓶詰めされる前に、樽内の木屑や樽材の
隙間に挟んで液漏れを防ぐガマの穂などが混入しないように
ろ過処理をします。しかし、このろ過処理の際に、香味成分も
一部フィルターに掛かってしまうため、無ろ過のものに比べる
と豊かな香りはどうしても劣ります。

私が飲んだのは、そうするとシングルカスク原酒をバッティ
ング(混和)したものの、竹炭でのろ過処理をする前でかつ加
水処理(アルコール濃度を下げる)前の香味豊かなブレンド原酒
だったのではないか、という仮説が成り立ちます。そして、
このバッティング原酒は、オフィシャルボトルより美味しく
蒸溜所の個性がより伝わる”いい酒”だったとしたら?

これは推測ですがこういうことでしょう。サントリーにとって
山崎がマザー工場であり、ブランドの象徴であることは動かせ
ない事実です。一方、白州の原酒もブレンドに用いてサントリー
製品の重要な一部を構成するから品質は同じくらい重要。そう
すると、山崎と白州のシングルモルトを市場に出すときには、
互いに差別化をしなければ一般消費者に認知してもらうことが
難しいので、クセの強さ/弱さで分かりやすくポジショニング
する。もともと出来が悪い製品を良くすることはできないが、
元の出来がよければ、市場にあわせて位置決めを調整すること
はできる。そして竹炭でのフィルタリングは、世界中他のどの
蒸溜所でも行っていない。

作られるウィスキーが商品である以上、市場での認知を獲得し
なければ継続することができませんから、そのための品質管理
なら行われるべき必要なことということになりそうです。

個人的に私は、サントリーには山崎でブレンド用を基本に据えた
原酒をどんどん製造してもらい、白州ではシングルモルト用を
基本路線においた原酒をどんどん製造して、竹炭処理を用いなく
とも「白州って美味しいね」と言ってもらえるウィスキーを
作ったらどうかと思います。その原酒を用いてブレンドした
サントリー製品の方が美味しいだろうからというのと、製造
設備等を変更することなく、より美味しい商品の製造にすぐに
舵を切れるからです。

さて、その5はどうしましょうか。書きますか?(笑)

にほんブログ村 酒ブログ 洋酒へ
にほんブログ村


感謝!

 

 


ウィスキーのモノ作り 3

2013-10-24 16:09:23 | グルメ

前々回は樽の話、前回はブランド?の話、今回はブレンドの話
です。

ウィスキーは、同じ仕込みの原酒であっても、熟成庫の違いや、
同じ熟成庫の内でも樽がおかれた場所によっても違い、挙句の
果てには、樽ごとにひとつひとつ熟成スピードが違って味が
変わります。樽ごとに味が違うため、傑作も駄作も生まれます。

そのためシングルカスクで楽しむのに向いたものと、ブレンド
用に向いたものがある、ということでした。これは言い換えれ
ば、樽の個性を評価するか、様々な原酒をブレンドして総合的
な美味しさを評価するか、という大きな二つの方向性が認め
られます。

これを個性からバランスの順へポジショニングすると、シングル
カスク(単一樽)、シングルモルト(単一蒸溜所)、ピュアモルト
(複数蒸溜所)、ブレンデッド(グレーンウィスキーも混ぜる)
という順番になります。

これまで左側の2つの幅について触れてきたわけですが、今回は
これらの間に存在する、いわば中間製品のようなバッテッド・
モルトの話です。

酒は所詮嗜好品ですから、誰が何と言おうと俺にはこれが一番
旨い、というのが基本ラインですけれども、他方で社会や市場
で認められた有名銘柄という指標もあります。

右側2つのピュアモルトやブレンデッド・ウィスキーを作る場合、
レシピにしたがって複数種類の原酒を混ぜ合わせて作ります。
そのレシピの素晴らしいものがシーバス・リーガルとか、バラン
タインとかジョニー・ウォーカーとかというわけです。

しかしこのような有名銘柄を作る作業は、当然試験管のような
スケールではなく、桶に樽ごと入れて混ぜ合わせるようなボ
リュームですから、ひとつずつの樽から何%取り出して・・・
では間に合いません。

そこで均一な味の品質保証(裏返せば、原酒樽の個性をバランス
させておく)のためにバッテッド・モルトという中間製品(料理
でいう仕込みのようなもの)を、あらかじめブレンドして大量に
作っておきます。製品を製造するときには、これをレシピに従っ
て混ぜ合わせればよいわけです。

peaty&solty.jpg

さて、ここにニッカ・ウヰスキーのキーモルト・ピーティ&ソル
ティという製品があります。これがいわば今回の中間製品です。

元々キーモルトのシリーズは、家庭で気軽にブレンドを楽しむ
ためのブレンド用原酒という位置づけで、発売当初はシングル
カスク(!)だったのですが、途中からバッテッド・モルトになり
ました。

これが飲めるお店に行くと「麦芽の感想時に用いるピート(草炭)
の香りが強い「ヘビーピート麦芽」を使用し、さまざまなタイプ
の樽で熟成させた原酒をバッティング(混和)しました。」とあり、

続けて「nose(香り):ピート由来のスモーキーさ、燻製や潮の
ような香りが豊かに広がり、とても個性的。底に感じられる甘い
香り、樽熟成香、オレンジのような果実香。
plate(味わい):重厚な味わい、果実と樽の甘さにゆっくりとか
すかな塩味が加わる。
finish(余韻):やや土を伴った長い余韻。」とあります。

飲んでみると、確かにだいたいこのような味なのですが、ここに
書かれているうち、一部が強かったり、あるいはある部分は若干
違うような気がする、ということがあります。

これは結局、このテイスティング・ノートを書いたときのボト
ルがこういうものだったということで、私が飲んだときのもの
とは異なりますから、当然インプレッションも変わるということ
だと思います。

何がいいたいかといえば、先に書いた有名銘柄は、こういった
中間原酒を混ぜ合わせて製造されていますので、去年飲んだ
バランタインと今飲んでいるバランタインは味が違うことが
ありうるということです。

だから、ゴールドとかプラチナとか上級品が色々出ていますが、
そのときのその味はその時だけのもの、ご縁ということでしょう。

もしあるとき、最高に美味しいというものに当たることがあっ
たら、また次回同じ銘柄を頼もうなどとメーカを全幅信頼する
のではなく、同じ条件のボトルをオトナ買いすることが、唯一
絶対の正解ということになります。

にほんブログ村 酒ブログ 洋酒へ
にほんブログ村


感謝!

 


ウィスキーのモノ作り 2

2013-10-23 15:42:55 | グルメ

前回は樽の話。今回はブランド?の話。

先日、会員制量販店のコストコで、KIRKLANDというブランドの
スペイサイド・シングルモルト20年というウィスキーを発見
しました。またまた人気のシェリー樽フィニッシュです。

kirkland_sherry_finish_20.jpg

売り場には売り子さん(といってもいい年のオジサン)がいて、
「本場スコッチ・ウィスキーの20年ものだよ!私の感じでは
ウィスキー界のロールス・ロイス、あのマッカランの18年と
同等かそれ以上じゃないかというものだよ!」と熱心に試飲を
勧めていました。

私は笛吹峡のことがあったので、せっかくの機会だからと少し
試飲をさせていただいたら、確かにシェリーの風味はついて
いますが、シェリー樽で20年熟成させた深みはありません。
そこで、よくラベルを読んでみると「シェリーフィニッシュ」
と書かれています。

このフィニッシュとはどういうことかといえば、製品出荷前の
半年~1年程度シェリー樽で寝かしました、ということです。
つまりは、その前の約19年はシェリー樽とは違う別の種類の
樽で熟成させたということです。

今回は、樽の話ではないのでラベルの話に移行すると、この
ボトルに書かれているスペックは、以下のようになります。

・スペイサイド(ウィスキー蒸留地)
・シングルモルト(単一蒸溜所)
・スコッチウィスキー(スコットランド産)
・20年熟成(最低熟成年数20年以上)
・シェリー樽フィニッシュ(シェリー樽仕上げ)

前回の蒸溜所と生産年と熟成樽が特定されたシングルカスクに
比べると、スペック的には見栄えがする単語が並んでいますけ
れど、ウィスキーの個性が特定される要素はほとんどなく、ボン
ヤリしています。

ここで業界の事情を打ち明けると、KIRKLANDとはコストコの
プライベート・ブランドですが、コストコにシェリー仕上げの
原酒を提供しているのは、売り子のおじさんがいみじくも言っ
ていたマッカランだそうです。マッカランといえば、確かに
モルト・ウィスキーのロールス・ロイスと呼ばれてます。さらに
数年前まで、このラベルにはマッカラン蒸溜所製という表示
すら印字されていたそうです。したがって、このボトルもマッ
カランである可能性が極めて高いでしょう。

ウィスキーメーカの方がよく話されることに、ウィスキーは
シングルカスクで楽しむのに向いたものと、ブレンドに向いた
ものがあるということです。種明かしをすると、前回の記事は
前者、今回の記事は後者ということです。

前回の知識をもって今回の記事を考えていただくと、たとえ
ロールス・ロイスが作ったといえども、樽によって、あるいは
熟成庫の違いや、同じ熟成庫の内でも樽がおかれた場所に
よって、より美味しいとか、より美味しくない、といった差異が
生まれます。

例えば、ロールス・ロイスが作って傑作が出来たら、それは
ロールス・ロイスの名前で世に出すでしょう。しかしロールス・
ロイス製の駄作だったら、メーカの名前をつけて世に出せない
というのが商売の信用です。

そういうものをエルメスやルィ・ヴィトンよろしく破棄するか
どうかは、外からは分かりません。いくらアルコールが60度
あるからといって、アルコールランプの燃料に使ってしまう
ということも考えにくいです。

先の「ウィスキーはシングルカスクに向いたものと、ブレンド
に向いたものがある」というのは、スコットランドでも日本
でも聞きました。ある方は「ブレンドは、ウィスキーメーカの
経営をする上で必要な存在だ」とまで言っています。ならば、
例えばそういう大人の事情というものではないでしょうか。

一般消費者の価値観に訴える「スペイサイド」「シングルモルト」
「スコッチ」「20年熟成」「シェリー樽」というスペックが揃って、
価格はロールス・ロイスの4分の1。それを会員制の激安量販店
に並べれば、商売としては成功条件が積みあがります。

だから、すべてのウィスキーは前回のシングルカスクと今回の
シングルモルトの間の、どこかのポジションで店頭に並んで
いるのですね。そして、人々は夫々の理由でお気に入りを買い
嗜好しているのだと思います。したがって、少し知識を増やせば
本当の自分好みのお酒が見つけられるようになりますね。

にほんブログ村 酒ブログ 洋酒へ
にほんブログ村


感謝!

 

 


ウィスキーのモノ作り

2013-10-22 18:21:48 | グルメ

以前「笛吹郷1983」という珍しいウィスキーを取り上げた
ことがありますが、その時はまだ開けていませんでした。

しかし、もちろんその後開封して楽しみましたので、いつもの
テイスティング・ノートとは別の切り口で書いてみます。

usuikyo1983.jpg

透明瓶に詰められたウィスキーをみて、シェリー樽熟成だなと
は思いました。シェリー熟成タイプは私の好みのタイプから
外れますので、目利きができるほど分かりません。しかし
ながら、きっと恐らくは「いい酒」だろうと思います。それは
”よくシェリーが出ている”ウィスキーに共通する発酵臭が
あったからです。

発酵臭と書くと、なにか腐ったような腐敗という状態をイメー
ジしがちですけれども、ここでいう発酵とはもちろん良い意味
でありまして、納豆に似た濡れたワラの香りです。

イメージ的には田舎によくある土蔵の土壁の匂いに近いですが、
そこまで稲藁は強くなく、夏から秋にかけて頭を垂れる稲穂とか、
炊き立ての新米のような草臭く若干甘く漬物が漬かったような
軽い醤油蔵臭です。メルシャンの軽井沢モルトがお好きな方なら
説明不要でしょう。

そのあとにシェリーの甘み、紅茶の香り、土くささがあって、
熟成年数を感じさせました。

さて、閑話休題。

今度はウィスキーを作る話ですが、ものの本やウィスキーメーカ
の方に聞くと、ウィスキーの作り方は何処でもほぼ同じ話が聞け
ます。麦を発芽させて麦芽を作り、砕いて発酵させて蒸留する。
その後樽に詰めてウェアハウスで熟成させるというもので、もう
少し興味をもつと、麦の種類とか、ピート濃度とか、酵母の種類
とか、蒸溜釜の形とか、樽の種類とかです。

しかし、その後になると「あとは自然にまかせて熟成させるだけ」
と天命を待つような話になってしまい、年月を経た後の原酒を
評して”美味しい”というだけのことになってしまうのです。

この”美味しい”にも明確な差やバリエーションがあるのが、
ウィスキーの世界で、このひとつひとつの樽や熟成の違いを
楽しむのがシングルカスク愛好というマニアの世界が確立されて
おりますが、よく考えれば「同じ日に仕込んだ原酒が、それぞれ
違う樽に詰められて、経年熟成の後に違う味に仕上がった」と
いうことがあります。これってなんで?

一般的に、これは樽ごとの個性の違いと説明されますけれども、
現代のウィスキー製造の現場では、熟成庫の違いや、同じ熟成
庫の内でも樽がおかれた場所によっても違うことが判明しており、
もっと極端な例では、樽ごとにひとつひとつ熟成スピードが
異なることも判明しています。

これがいわゆるシングルモルト・ウィスキーの業界でいう「ウィ
スキー蒸溜所ごとの個性」で説明するには大雑把すぎて不適当と
いうことがありそうです。

つまり、結論的には、あるウィスキー蒸溜所だからより美味しい
とか、別のウィスキー蒸溜所だからより美味しくない、という
こともありますが、厳格な個性のレベルでは、その樽の原酒が
より美味しいかどうかという評価になるということです。

そういう視点を持って考えると、私は普段シェリー熟成のウィ
スキーは好まないのに、今回の笛吹郷1983はもう既に半分
飲んでしまいました。つまりは、ウィスキーメーカとか、ブラ
ンドとか、熟成年数とかは2次的な要素に過ぎない、という話
です(笑)。

にほんブログ村 酒ブログ 洋酒へ
にほんブログ村


感謝!