僕は父さんから譲り受けたもののために苦しんでいた。僕たちは愛なき世界に生きている。高度な教育を受けた人々が僕らを苦しめていた。彼らはデスクの前に座り、低賃金で機械を動かす方法ばかりを考えている。必要なら、僕らの飯に砂を混ぜることもためらわない人たちだ。排水処理場の底に穴をあけ、浄水場を経由していない排水を海に流すような人たちだ。ヨンヒは会社の人たちが、組合支部長を誰も知らないところへ引っ張っていったと言った。ひどいときには一日に三十人あまりがいっせいに解雇された。
彼らは僕らとまったく別の船に乗っているようにふるまっていた。彼らは僕らの十倍以上のお金をもらっている。夕食どきには工場地帯から遠く離れた清潔な住宅街の幸福な家庭に帰っていく。彼らはあたたかい家で暮らしている。彼らは気づいていなかった。そうと表にあらわすことはなくとも、何かを求めて若者たちがもう、せっぱつまっているということを。また、何かがまったく新しい姿で芽を出しつつあるということを。みんな顔を上げなかったから、その変化においそれと気づけなかっただろう。あえて言葉にするなら、それはある力だった。権威に対する、きわめて懐疑的な力だった。
どこの国も、社会の構造は同じだな、と思う。救いようのない結末が悲しくてしばし言葉を失う。.
この本は韓国でベストセラーになった。深くて重い一冊だ。