まるきり知らない世界に、嬉々として飛び込んでゆく朗らかさは、僕にはない。あるのは、まず恐怖だ。その世界に馴染めるのか、生きてゆけるのか。恐怖はしばらく、僕の体を停止させる。そしてその停止をやっと解き、背中を押してくれるのは、諦めである。自分にはこの世界しかない。ここで生きてゆくしかないのだから、という諦念は、生まれ落ちた瞬間の「もう生まれてしまった」という事実と、緩やかに、でも確実に繋がっているように思う。
複雑な家族関係の中で、常に他者の動きに一喜一憂し、受身で、流されるように生きてきた主人公が最後に掴んだもの。
信じるものを見つけて、ふらつかずに自分の足で立ち続けること。知らない世界に飛び込む勇気。誰のものでもない自分の人生を生きる喜びだったのだと思う。上下2巻。読み応えがあった。