時事解説「ディストピア」

ロシア、イラン、中国等の海外ニュースサイトの記事を紹介します。国内政治、メディア批判の記事もあります。

浅井基文氏の朝鮮半島論 (北朝鮮の水爆実験に対して)

2016-01-29 00:25:16 | 北朝鮮
朝鮮新報というメディアは総連傘下のメディアだけあって、
日本のメディアが天皇のフィリピン訪問を敬語で報道するように、
金正恩に対しては敬語を使い、やたらと北朝鮮を称えるわけではあるが、
それゆえに日本のメディアとは違った視点で国際ニュースが分析されている。

「天皇皇后両陛下は、26日午後、フィリピンの首都マニラの国際空港に到着し、
 親善訪問のスタートを切られました。

 両陛下は、現地時間の午後2時45分、マニラの国際空港に到着されました。
 両陛下のフィリピン訪問は昭和37年以来54年ぶりで、
 両陛下は、タラップを降りると、出迎えたアキノ大統領や姉のアベリャダさんと、
 にこやかに握手をしてことばを交わされました。
 そして、天皇陛下の首に白いレイがかけられ、皇后さまには黄色の花束が贈られました。

 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160126/k10010386411000.html」

上のような記事が堂々と書かれている現状、朝鮮新報が日本のメディアより異常だとは思わない。
(アメリカを主軸とした日本・フィリピン・アメリカ・韓国の軍事同盟の強化が展開される今、
 このような訪問の裏にある政治的動機について一言ぐらいコメントしても良いはずでは?)



さて、元外務省の役人で、東大、日大、明治学院大等で教鞭をふるった浅井基文氏が
先の北朝鮮の水爆実験とそれに関連する米韓日の動きについて朝鮮新報に持論を寄稿した。

朝鮮新報はハッカー対策のために登録制となっており、無登録者には読むことが出来ない。
これは、少々残念なことなので、以下に同氏の論説を紹介したいと思う。

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朝鮮の水爆実験と半島情勢/浅井基文

米国の頑なな朝鮮政策に風穴を


○国際社会へのメッセージ

誰もが驚いた朝鮮の1月6日の水爆実験だったが、朝鮮が実験に踏み切ったのは、
米国が朝鮮の新提案を無視した結果
というのが、「8月事態」後の経緯を追った私の結論だ。

8月事態とは、昨年8月4日に起こった地雷爆発による
韓国兵士の負傷事件をきっかけに一触即発の対決が起こり、
北南の最高位接触によって辛うじて危機を乗り越えた一連の事態に対する朝鮮の呼称だ。

朝鮮が8月事態の教訓を如何に重視しているかは、李洙墉外相の10月1日の国連総会演説に明らかだ。

同外相は、
「8月の事態は国連と非正常な関係にある朝鮮半島に現存する平和が
 どれほど脆弱であるかを明らかにした」と指摘し、
「停戦協定を平和協定に替えることは、一刻の猶予も許さない切実な問題となった」として、
米国が停戦協定を平和協定に替えることに同意するならば、
 わが国政府は朝鮮半島で戦争と衝突を防止するための建設的な対話を行う用意ができている

と提案した。その後朝鮮は、11月末まで米国に提案をくり返した。

しかし、米国は朝鮮の提案を完全に無視した(8月事態の教訓を得たはずの韓国は米国の意のままだ)。
これに対し、昨年12月24日付朝鮮中央通信は、2015年の朝鮮半島情勢詳報を発表し、
最後に「米国が対朝鮮敵視政策を撤回せず、あくまでも『北朝鮮崩壊』という妄想の道を選択するなら、
それに対するわれわれの応えは米国の想像を絶するものになる
」と警告した。

その「応え」が1月6日の水爆実験だった。

米国が朝鮮の提案に応じていれば、朝鮮が実験を行うことはなかった。
これが、朝鮮の米国及び国際社会に対する最大のメッセージだ。


つまり、朝鮮の核開発にストップがかかるかどうかはひとえに米国の対朝鮮政策如何ということだ。

対米直接交渉に的を絞る朝鮮は、
「われわれは過去…6者会談で非核化の論議を先に行ってみた…が…失敗を免れなかった」
(昨年10月18日付朝鮮外務省声明)として、6者会談を見限る姿勢も示している。

○外交的解決求める

中露両国政府は、朝鮮の水爆実験を安保理決議違反と批判している。
しかし、強硬対応を主張する米韓日に対しては、
関係諸国の自制を強調し、6者会談による外交的解決を呼びかける共同歩調だ


中露が慎重姿勢を堅持しているのは、8月事態の一触即発の危険性を深刻に認識したからと思われる。
朝鮮に対する先制攻撃を織り込んだ「米韓共同局地挑発作戦計画」の発表(13年)、
朝鮮半島有事に一つの照準を合わせた安倍政権による安保法制制定(15年)にも、
中露は警戒を強めているに違いない。

ただし、中国メディアで8月事態を正面から取り上げたものはなく、
また、中露両政府は6者協議再開を強く主張している。

○核問題解決に有害無益な日本

広島・長崎を体験した日本人の反核感情は根強い。

しかし、日米安保体制を肯定する多くの日本人は、
朝鮮の「核の脅威」に対して米国の「核の傘」を当然視もする。

その結果、朝鮮の核開発に対する拒否感は留まるところがない。

しかも日本人は安全保障問題については大勢迎合の傾向が強い。
したがって日本は、朝鮮の核問題に建設的役割を担う主体的能力はゼロだ。

米日韓は朝鮮の非核化だけを問題にする。しかし、6者協議の主題は朝鮮半島の非核化だ。
つまり、朝鮮の非核化と米国の韓国に対する「核の傘」提供の撤回がセットだ。


これを実現するためには、米日韓と朝鮮との間の相互不信除去が不可欠だ。
朝鮮の10月以来の対米提案は、「平和協定締結→相互信頼確立→半島非核化」を目指す。
これに対して6者協議は、「約束対約束、行動対行動」の原則に従い、
「非核化に向けた約束相互履行→相互信頼蓄積→朝鮮半島の平和と安定構築」を考える
(15年のイラン核問題に関する国際合意の事例)。

ただし、両者のアプローチが両立しないわけではない。
要は、頑なな米国の対朝鮮政策に風穴を開けることであり、
半島情勢打開のカギはここにある(16年は米大統領選挙なので、事態が動くのは17年以後だろう)。

http://chosonsinbo.com/jp/2016/01/20160128suk-2/
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北朝鮮を異常視し、右翼と大差ない反応を示す凡百の知識人のそれとはレベルそのものが違う評論。

浅井氏は多くの著作を書いており、どれも一読に値するが、誰でも読める&中身があるという点では、
2014年に大月書店から出版された『すっきりわかる!集団的自衛権Q&A』を推す。

集団的自衛権を国際政治に関連付けて語ろうとする本は多いようで少ない気がする。
私が再三主張している「中国・北朝鮮の脅威の不在」を主張している本は本書ぐらいである。

書名は軟派な響きを有しているが、中身はなかなか骨太で、加えて、
節ごとにポイントがまとめられているので、まとめ欄だけ読めば1~2日で読了が可能だ。

米仏、イランへの新たな制裁を検討中

2016-01-29 00:20:28 | 国際政治
イランと北朝鮮。この二カ国はいずれもブッシュ政権時代に
合衆国から「悪の枢軸国」と名指しで非難を受け、経済制裁の憂き目にあう。
イランは核兵器を持っているかもしれないという理由だけで随分と辛酸を舐めさせられたが、
外国との協調を重んじる現政権になって協議が進み、ついに制裁が解かれた。

制裁解除が順調に進んだ背景として、イランのエネルギー資源が重要な役割を果たしている。

イラン、欧州へのガス供給開始へ
イラン 欧州向け原油を値引き

イランはサウジアラビアやロシア、アメリカと比べれば
それほど多く石油を生産してはいないが、潜在する石油量はかなりのものだと思われる。

「あるのかないのかよくわからない核兵器のために石油ビジネスが停滞するくらいなら」
 という思惑が制裁国にあったのではないだろうか?(現在、欧州はロシアとの関係が悪化している)


お互い、利用し利用される形で決まった妥結だが、
これまでイランが受けた経済的被害を思えば、制裁国は英断を下したものと評価したい。
(実はこの制裁国の中には日本も含まれる)


ところが、ここ最近、再びイランに
新たな形で制裁を加えようとする動きが出ている。


米国 イランのミサイルプログラムに対して追加制裁

仏 ミサイル実験を受け、新たな対イラン制裁を提案

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フランス政府は、イランが最近実施したミサイル実験を受け、
EU指導部に対し、新たな対イラン制裁の発動について検討するよう提案した。
AP通信が28日、EUの匿名代表者2人の話として報じた。

EU代表者らによると、現在EUはフランスの提案を検討しているという。
なおEUの大多数の加盟国は、フランスの提案について、
対イラン制裁解除後のイランとの政治・経済関係構築にとって非生産的だと考えているという。

EU代表者らによると、
フランスは、対イラン制裁解除後まもなく開かれたEU外相理事会の会合で提案した。

なお同時にAP通信によると、匿名を希望する欧州の別の外交官は、会合で
この問題は話し合われなかったと指摘したという。一方で同外交官は、「フランスが
イランに対する新たな制裁の検討を提案しなかったか?」との問いに答えることは拒否したという。

またフランス政府も、AP通信へのコメントを拒否したという。
先にイランのロウハニ大統領は、イタリア訪問を終え、フランスへ向かった。

続きを読む http://jp.sputniknews.com/politics/20160128/1508409.html#ixzz3yY3Uf1gm
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『現代思想』2016年1月臨時増刊号(中東問題に関心のある方は読むのを薦める)や
『経済』2016年2月号によると、シリアにむけての軍事干渉(武装組織への支援や空爆)は
 アメリカよりもフランスやイギリス、サウジアラビアのほうが積極的だったそうだ。

とはいえ、やはりアメリカの威嚇というものは凄まじいもので、次のような事件が起きている。

イラン当局 オマーン湾で米国空母を追い払う

 イランは、同国の海上軍事演習が行われているオマーン湾から、
 米国の空母を退去させるよう求めた。通信社タスニムが報じた。

 米国の空母は、演習が行われている領域までかなり接近したが、
 イランが警告をした後、すぐに同領域から去ったという。


 なおイラン海軍の司令部は、そのまま演習を続けたという。

 続きを読む http://jp.sputniknews.com/us/20160128/1503396.html#ixzz3yY5rJI71


日本に置き換えてみれば、沖縄なりどこなりで自衛隊が演習をしていると、
どこからともなく中国やロシアの軍艦が現れ近づいてきたような事件である。

どれだけ不気味な威嚇を行っているかは想像に難くないが、
これが北朝鮮の非核化にも悪影響を与えるという指摘がされている。

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ロシア科学アカデミー東洋学研究所コリア課のアレクサンドル・ヴォロンツォフ課長は、
ラジオ「スプートニク」のインタビューで、
北朝鮮指導部はイランの「核合意」を経験として捉えていると述べ、次のように語った


北朝鮮はイランの状況を注視している。
 
 制裁を解除した後でまたそれを元に戻すという、
 これほど矛盾した行為は、米国政府の約束を信じる根拠はないという
 北朝鮮指導部の確信を強めるだけであることに疑いはない。


これらの条件において、北朝鮮は平等な協議形式しか設けない可能性がある。
もし米国とその同盟国がそれに反対し、北朝鮮に力と抑えつけの制裁という立場で
対応していくだけならば、もちろん北朝鮮が、『米国は自分たちが必要だと考える政策を行えばよい。
我々は、核プログラム開発という手段も含め、自分たちの防衛力を全面的に強化する道を進み続ける』
という立場に確信を持ち続けることは大いにあり得る」。

~中略~

さらに「スプートニク」は、米国とその同盟国に、
北朝鮮の核問題解決に向けた制裁アプローチが無益であることを説得するためには、
どのような論拠が有効か?と質問した。ヴォロンツォフ課長は、次のような見方を表した‐

「中国とロシアは現在、
 まず当事者たちに協議を呼び掛けるなど、よりバランスの取れた文書にしようとしている。
 ロシアと中国は、北朝鮮の今回の核実験について、制裁は機能しておらず、
 北朝鮮の核プログラムの発展を止めることはできないことを証明しただけだと考えている。

 これで交渉に代わるものはないということが明らかとなった。
 一方で、まだ我々には、このような建設的な提案が、米日韓の賛同を得ると期待できる根拠はない。
 この3カ国は、最も強力な制裁の策定、軍事協力の強化、
 そして北朝鮮に対する軍事・政治的圧力の強化に夢中になっている
」。

続きを読む http://jp.sputniknews.com/opinion/20160128/1506800.html#ixzz3yY8UfAf3
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リビアもまた、欧米との対話により自国の非核化に努めたが、
その結果が空爆による国の消滅と内乱の勃発だった。


「核に関する制裁」を解除して「ミサイルに関する制裁」を開始する一連の動きは、
 北朝鮮の耳にも届いているはずだ。大国の不遜な態度は確実にアジアを不安定化させる。


あわせて考えたいのが、現在、中国にとって脅威なのは北朝鮮の核ではなく、
南シナ海や東シナ海における米韓日比の軍事的プレゼンスの拡大である
ということだ。

そして、韓国・日本・フィリピンいずれも現地の住民は米軍基地を望んでいないということだ。
現在、米軍基地の撤退を求める運動は別個に行われていて、いまいち団結に欠ける。

仮に「アジアからのアメリカ軍の排除」というものを第一目標とすれば、これら運動と
北朝鮮の非核化および米朝間の平和条約の締結を目指す動きを一本化することができるだろう。

ところが、現在、日米韓による中国や北朝鮮に対する封じ込めというものは
右翼だけでなく左翼も共有しているものであり、それゆえに強力な抵抗勢力が生まれていない。


(ウソだと思うなら、中国脅威論、北朝鮮脅威論に毅然と非難・抵抗する動きが
 どれだけ左翼の間にあるのか考えてみれば良い。少なくとも論壇ではそういう動きはない)

こういう弱さを克服するためには、
私は、やはり多くの左翼が認識している歴史観(世界観)の克服が必要だと思う。


①東西ドイツ統一や東欧諸国やソ連の社会主義の放棄を手放しに礼賛するような歴史観、
 あたかも「正義は勝つ。悪は負ける」と言わんばかりの歴史観から脱却すること、

②社会主義国家の消滅は西側国家とのパワー・ポリティクスに敗北しただけにすぎず、
 現地では民主化ではなく軍事・経済的属国化が起きたということ
(ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』などが参考になるはず)

③これら2点が強く意識されない現在、欧米諸国の中東・アジア・アフリカへの
 軍事・経済的干渉は基本的に無批判のまま実行されており、それゆえに
 ウクライナ政権の自国民への空爆やサウジアラビア軍のイエメン市民の虐殺が
 まるで問題視されず、逆に中国やイラン、北朝鮮などの「人権問題」の解決への努力が
 国内の保革団結(主流左翼の右傾化)の下、着々と行われる時代に突入している

という認識を持つべきだろう。