本記事は数週間前に執筆したものを誤字脱字訂正・清書したものである。
6月10日、当サイトは某氏が
朝日新聞のインタビューに答えたコメントについて、3点の指摘を行った。
その際、2つのテクニカル・タームを混同して記述してしまったが、
記事投稿直後に、○氏からこの点を指摘され、抗議を受けた。
誤解に基づいて中傷発言をした件については申し訳なく思う。
ここに改めて、謝意を示したい。
しかしながら、私が彼のインタビュー発言や、その他の媒体での発言を読み、
ふつふつと浮かんできた感情、それは不信感を伴うものであったが、
それ自体に関しては恥じることの無いものであったと断言できる。
(http://bylines.news.yahoo.co.jp/inoueshin/20150526-00046052/)
というのも、その箇所以外の言及、
①正社員の雇用者数が減少する一方で、非正規の雇用者数が増加している
②共産党は何も高齢者の支持を狙ってアベノミクスに反対しているわけではない
③金融緩和は雇用を言うほど増やさなかった
という3点の指摘自体は正しいからである。
①、②は後述するとして、
○氏の主張である「量的緩和をすれば雇用が増える」
と言う点について検証してみよう。
アメリカでは量的緩和が2008年11月~2010年6月(QE1)、
2010年11月~2011年6月(QE2)、2012年9月~2013年12月(QE3)と
3期に渡って実施された。 U.S. Bureau of Labor Statisticsを利用すると、
この間の失業率は、6.8から9.4、9.8から9.1、7.8から6.7となっている。
2008年から発して2009年10月をピークに、なだらかに下降している。
つまり、量的緩和は大して効き目が無かった。
効き目があるなら、実施されている時期に実施以前と比べて顕著な下降が見られるはず。
それが無い以上、量的緩和は雇用創出の絶対の武器ではないと言える。
(効果がある場合も存在する※1)
失業率だけを取り上げて言えば、
実施直後(6.8%)と実施終了後(6.7%)の失業率に差はないし、
むしろ実施したことで失業率が上昇し、
実施以前にまで戻すのに5年の歳月が必要になったことを示している。
この結果は金融緩和絶対効果あるマンたちにとっては、非常に手痛いデータだろう。
なぜ、このようになるかと言うと、
量的緩和で干渉出来るのは、銀行までの資本の流れであり、
そこから先の銀行から企業への流れは実体経済に依存しなければならないからである。
(企業が事業資金を、個人が住宅ローン等を借りなければならない)
では、2013年度における金融緩和はマネーストックを増やしたのだろうか?
日銀統計を用いると、
2013年4月から2014年3月までのベースマネーは、
149.6兆円から208.6兆円へと増加した(増加率39.4パーセント)が、
他方で、実体経済のなかで流通している通貨(マネーストック)は
この間、1486.5から1535.2、すなわち3.3パーセントしか伸びていない。
前年度の増加が3.0パーセントであることを踏まえれば、
実際に銀行から法人・個人へと渡った通貨量は
アベノミクスの前後で大差ないことがわかる。
(なお、エコノミストの野口悠紀雄氏は、この点について私と同意見だ。
目標の2年が経過した異次元金融緩和を総括する)
「ひどい不況の時、金融緩和で作ったお金は、
直接には使われず銀行にため込まれてしまう。
だから、そのお金が世の中に回る仕組みをつくるために、
安倍政権は旧来型の公共事業を第2の矢として実行し、それが効いた(※2)」
と○氏は述べているが、消費税実施以前の2013年第Ⅰ
4半期以後の国民経済の実質成長率を見ると、
4.5⇒4.1⇒0.9⇒0.7と劇的に減っている。
これは上記のマネーストックのデータと符合するもので、
第二の矢は大して効果が無かったことが言える。
それは設備投資のデータにも通じるもので、
金融・保険業を除く全規模、全産業の設備投資は、
財務省の『法人企業統計』をもとにすると停滞している。
http://www.dbj.jp/investigate/equip/national/detail_201306.html
http://www.dbj.jp/investigate/equip/national/detail.html
日本政策投資銀行がまとめた
2012年度、2013年度の全国設備調査(大企業)をもとに、各年度の前年比を示すと、
2012年度がプラス2.9%、2013年度がプラス3.0%である。
設備投資の増減率推移を見ると、2011年ー2012年度のほうが傾きが高い。
なお、2015年1月12日の「平成27年度の経済見通しと経済財政政策の基本的態度」では、
13年度の設備投資見通しがプラス4パーセント、
14年度の設備投資見通しがプラス1.2パーセントとなっている。
これはマネーストックに大した変化がないことからも裏付けられるだろう。
アベノミクス下での量的緩和が実際の設備投資に与える影響は微々たる物だった。
統計のデータを見る限りでは、そう言える。
もちろん、プラスだからえーじゃないかという話だが、
2013年度の設備投資(計画)が前年比プラス10.3パーセント、
実績が3.0パーセントだったことを考えれば、この数値は楽観視できない。
しかし、それよりももっと重要なのが、設備投資に大した変化がない一方で、
有効求人倍率がゆるやかに上昇していることである。
(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000044792.html)
さらに注視すると、実は有効求人倍率自体は
アベノミクスの前から上昇していたことがわかる。
つまり、設備投資の増減とは関係なしに有効求人倍率は上がっている。
とするならば、量的緩和が雇用を増やしたという主張は、
少なくとも日本においては、実態と異なっていると言えよう。
有効求人倍率(年度ごとの平均値)
2010 2011 2012 2013 2014
0.52 0.65 0.80 0.93 1.09
+0.13 +0.15 +0.13 +0.16
(厚生労働省 一般職業紹介状況より)
このように有効求人倍率の増加値は
アベノミクス前後で変化が全くない。
ダメ押しで失業率も併記する。
2010 2011 2012 2013 2014
5.04 4.57 4.33 4.02 3.58
-0.47 -0.24 -0.31 -0.44
(IMF World Economic Outlook Databaseより)
実は2013年度から2014年度までの減少値は
2010年度から2011年度までのそれより少しだけ低い。
マイナス傾向だったのがプラス傾向へと変化したとか、
微々たる増加だったのが急に大きく上昇したと言うなら話はわかる。
だが、実際には、有効求人倍率や失業率の傾向が
アベノミクスに左右されていないのは明らかである。
雇用は確かに増えたが、それは自然回復の範疇だ。
(なお、別記事で後述するように雇用の質は劣化している)
アベノミクスを最大限に褒めるのであれば、
「失業率の減少や求人倍率の上昇傾向をストップさせなかった」とでもなる。
ここで、立教大学名誉教授の小西一雄氏の論文
「異次元金融緩和の2年」『経済』2015年5月号から一文を引用する。
----------------------------------------------------
-黒田日銀総裁が、異次元の金融緩和政策を発表した2013年4月4日から、
まもなく2年になります。成功だったのか、失敗だったのか、どう見ておられますか。
マスコミの注目は、消費税増税の影響を除くと、
2%の物価上昇目標の達成は無理になった、失敗だったという点に集中しています。
そのとおりなのですが、ただ、物価上昇が自己目的ではなかったはずですので、
実体経済はどうだったのかという角度で評価してみましょう。
(中略)
2014年度の実質GDP成長予想はマイナス0.5%であると記されています。
(注:前述の「平成27年度の~基本的態度」を参考に述べている)
個人消費はマイナス2.7%、住宅投資マイナス10.7%、
設備投資見通しはプラス1.2%です。設備投資はプラスになっていますが、
13年度がプラス4%ですから、3分の1以下に落ち込んでいます。
ですから、資本市場(株式市場・為替市場など)は膨らんだが
その効果を実物史上に波及させることができず、
日本経済は軽微のスタグフレーション(インフレと不況の併存)に陥っている、
これがとりあえずの結論だといえます。
ですから2年間の結果がどうだったかと問うならば、
明らかに「失敗だった」というのが答えです。
ところが、このリーマンショック後の09年度以来のマイナス成長という
現実について、甘利担当大臣の談話は、
「平成26年度の我が国経済は、緩やかな回復基調が続いているもの…」と述べています。
黒田日銀総裁も、記者会見で、
「ゆるやかな回復基調にある」という同じフレーズをくり返したのですが、
これは「詐欺」に等しいと思います。
-「ゆるやかな回復基調」なんて言えないと……
そうです。にもかかわらず、マスコミはこの点での突っ込みが弱いのです。
それは何故なのか。
1つは、マイナス成長は、
去年4月の消費税増税の影響だという見方が強いからだと思うのです。
3月までの駆け込み需要の反動で、4~6月期は反動減になる、
7~9月期は一定回復するというのが大方の見方でしたが、そうはならなかった。
消費税増税の影響が長引いているという見方が根強い。
もう1つは、求人倍率が上がった、失業率が下がったというわけです。
とにかく労働市場は改善している、という思い込みがあるわけです。
だから、マスコミは政府・日銀の「詐欺」を追及できないのです。
----------------------------------------------------
この論文を読み、私はようやく頭の中にモヤモヤとあった違和感に気づいた。
つまり、こういうことだ。
「マスコミなどでは、「景気回復の実感はない」と決まり文句のように言っていますけど、
そんなふうにおっしゃる人はたいてい、もともと安定して、
比較的まともな賃金の職の人なんですよね。過去20年の
「改革」不況で最も苦しんできた層の人たちの間では、明らかに事態が動いています。
「実感はない」派の人たちは、景気回復がコケて安倍さんに失脚してほしいあまり、
現実から目をそむけているのかもしれませんが、今後、景気回復を
否定するようなことを言えば言うほど、私たちが最も依拠すべき
こうした層の人たちを、かえって安倍さんの側に追いやる結果になるでしょう。」
まさに政府・日銀の「詐欺」を追及できないパターンではないか。
(上のコメントは有効求人倍率のグラフを参照した上での発言)
そもそも、「アベノミクスのおかげで雇用が改善されたんだ」と説明されたら、
まともな神経を持っている限り、過去20年の改革不況で
最も苦しんできた人たちは喜んで自民党を支持するだろう。
自分たちの希望に直に応えているのだから。私が失業者だったらそうする。
仕事をくれる政府をわざわざ裏切る馬鹿はいない。
○はアベノミクスの効果を否定すれば貧困者を自民党支持者へ変えるというが、
どう考えたって、アベノミクスの効果を肯定したほうが支持者は増える。
しかも、この発言は2014年5月、まさに消費税が実施された直後の話で、
知人が就職に成功しただの、派遣の賃上げもあるらしいだの、
ブラック企業の人間も今まで再就職先が見つからなかったから
やめられなかったけど、これからは安心だねといった超お気楽な…いや、いい。
…でも、言う。
「すっかり「ブラック企業」の汚名がついてしまっているワタミさんですが、
とうとうこんなことに追い込まれているとは。
これまで不況の間は、辞めても代わりの職が簡単には見つからないから、
いくら過酷な職場でもしがみついているしかなかったのですね。
それが今や事態は一変しつつあるわけです。」
ワタミの2009年4月入社社員の3年以内に離職する率は48.9だ。
アベノミクスが実施される前から、新入社員の半分はやめている。
こんな弱小ブログの素人が適当に書いたつぶやきに逐一反応する一方で、
これはないだろう、これは。日本の場合は、介護職が顕著だが、
募集があっても、労働条件が悪すぎて敬遠される場合がしばしばある。
つまり、ワーキングプアにも通じるが、
日本の雇用労働状況を改善するには、労働の質を上げるのを第1としなければいけまい。
○氏の発言からは批判的に現状を把握するというよりは、
アベノミクスのおかげで雇用アップじゃイエーイという声で満たされているのである。
(しかも、修正完全失業率で観ると、この時期は10%~12%を行き来している)
その肝心の有効求人倍率が実施前と伸び率が大して変わらないのは指摘したとおり。
こればっかりは、本人と同じデータをもとに論じているのだから間違いあるまい。
それまで下がっていたり、たいした伸び率でなかったのなら、
私だって、アベノミクス最高ヒャッホーイと騒ぎたいが、データが違う
と言っているのだから、仕様が無い。
もっと言ってしまえば、増えたところで雇用が不安定で賃金が安い非正規職
になれたぞ、ワッショーイなどとは、とてもじゃないが言えない。
言えるというなら今すぐ辞職して非正規雇用に就いてくれと言う話。
以上、③の部分を検討してきたが、基本的な統計を見るだけでも、
アベノミクスが特別、雇用改善に貢献したようには見えない。
これは言ってみれば、
「雨が止んだのは、オレが祈ったからだ!」
「いや、お前が祈ろうと祈るまいと、いつしか雨は止み、空には虹がかかるんだよ」
という話だ。
人によっては、失業率が上がるか下がるか、求人倍率が上がるか下がるかといった
AかBかでしか判断できない人もいるかもしれないが、
実際の問題、どう上がったか下がったかを論じなければならないだろう。
※1
実は、イギリスでもインフレ・ターゲットは長期的に見ると失敗している。
「アナリストの大半が2012年初めにプラス成長を確保することを見込んでいたが、
建設支出が3年来の落ち込みを記録したことが押し下げ要因となった。
サービス業も伸び悩んでおり、鉱工業生産も縮小した。」
「イギリスの消費者は、依然として続く不況感と、
価格高騰によるインフレの懸念という、2重の苦しみに直面している」
特に後者のコメントは今の日本経済に通じるものではないだろうか?
なお、現在、ヨーロッパで行われている量的緩和は今のところ
経済の回復に貢献しており、失業率の低下を指摘する者もいるが、
実は、原油安の影響もあり、物価はそれほど上昇していない。
フランスのように上手くいっていないケースもある。
これら英米仏の事情を知ると、物価上昇⇒雇用創出説は怪しく思える。
※2
野口氏や小西氏が指摘するように量的緩和は効果がなかった、
正確にはマネーストックに影響を与えなかった。
つまり、第二の矢は効いていない。
にも関わらず、真逆の言葉を述べるのはいかがだろうか?
○hihan
6月10日、当サイトは某氏が
朝日新聞のインタビューに答えたコメントについて、3点の指摘を行った。
その際、2つのテクニカル・タームを混同して記述してしまったが、
記事投稿直後に、○氏からこの点を指摘され、抗議を受けた。
誤解に基づいて中傷発言をした件については申し訳なく思う。
ここに改めて、謝意を示したい。
しかしながら、私が彼のインタビュー発言や、その他の媒体での発言を読み、
ふつふつと浮かんできた感情、それは不信感を伴うものであったが、
それ自体に関しては恥じることの無いものであったと断言できる。
(http://bylines.news.yahoo.co.jp/inoueshin/20150526-00046052/)
というのも、その箇所以外の言及、
①正社員の雇用者数が減少する一方で、非正規の雇用者数が増加している
②共産党は何も高齢者の支持を狙ってアベノミクスに反対しているわけではない
③金融緩和は雇用を言うほど増やさなかった
という3点の指摘自体は正しいからである。
①、②は後述するとして、
○氏の主張である「量的緩和をすれば雇用が増える」
と言う点について検証してみよう。
アメリカでは量的緩和が2008年11月~2010年6月(QE1)、
2010年11月~2011年6月(QE2)、2012年9月~2013年12月(QE3)と
3期に渡って実施された。 U.S. Bureau of Labor Statisticsを利用すると、
この間の失業率は、6.8から9.4、9.8から9.1、7.8から6.7となっている。
2008年から発して2009年10月をピークに、なだらかに下降している。
つまり、量的緩和は大して効き目が無かった。
効き目があるなら、実施されている時期に実施以前と比べて顕著な下降が見られるはず。
それが無い以上、量的緩和は雇用創出の絶対の武器ではないと言える。
(効果がある場合も存在する※1)
失業率だけを取り上げて言えば、
実施直後(6.8%)と実施終了後(6.7%)の失業率に差はないし、
むしろ実施したことで失業率が上昇し、
実施以前にまで戻すのに5年の歳月が必要になったことを示している。
この結果は金融緩和絶対効果あるマンたちにとっては、非常に手痛いデータだろう。
なぜ、このようになるかと言うと、
量的緩和で干渉出来るのは、銀行までの資本の流れであり、
そこから先の銀行から企業への流れは実体経済に依存しなければならないからである。
(企業が事業資金を、個人が住宅ローン等を借りなければならない)
では、2013年度における金融緩和はマネーストックを増やしたのだろうか?
日銀統計を用いると、
2013年4月から2014年3月までのベースマネーは、
149.6兆円から208.6兆円へと増加した(増加率39.4パーセント)が、
他方で、実体経済のなかで流通している通貨(マネーストック)は
この間、1486.5から1535.2、すなわち3.3パーセントしか伸びていない。
前年度の増加が3.0パーセントであることを踏まえれば、
実際に銀行から法人・個人へと渡った通貨量は
アベノミクスの前後で大差ないことがわかる。
(なお、エコノミストの野口悠紀雄氏は、この点について私と同意見だ。
目標の2年が経過した異次元金融緩和を総括する)
「ひどい不況の時、金融緩和で作ったお金は、
直接には使われず銀行にため込まれてしまう。
だから、そのお金が世の中に回る仕組みをつくるために、
安倍政権は旧来型の公共事業を第2の矢として実行し、それが効いた(※2)」
と○氏は述べているが、消費税実施以前の2013年第Ⅰ
4半期以後の国民経済の実質成長率を見ると、
4.5⇒4.1⇒0.9⇒0.7と劇的に減っている。
これは上記のマネーストックのデータと符合するもので、
第二の矢は大して効果が無かったことが言える。
それは設備投資のデータにも通じるもので、
金融・保険業を除く全規模、全産業の設備投資は、
財務省の『法人企業統計』をもとにすると停滞している。
http://www.dbj.jp/investigate/equip/national/detail_201306.html
http://www.dbj.jp/investigate/equip/national/detail.html
日本政策投資銀行がまとめた
2012年度、2013年度の全国設備調査(大企業)をもとに、各年度の前年比を示すと、
2012年度がプラス2.9%、2013年度がプラス3.0%である。
設備投資の増減率推移を見ると、2011年ー2012年度のほうが傾きが高い。
なお、2015年1月12日の「平成27年度の経済見通しと経済財政政策の基本的態度」では、
13年度の設備投資見通しがプラス4パーセント、
14年度の設備投資見通しがプラス1.2パーセントとなっている。
これはマネーストックに大した変化がないことからも裏付けられるだろう。
アベノミクス下での量的緩和が実際の設備投資に与える影響は微々たる物だった。
統計のデータを見る限りでは、そう言える。
もちろん、プラスだからえーじゃないかという話だが、
2013年度の設備投資(計画)が前年比プラス10.3パーセント、
実績が3.0パーセントだったことを考えれば、この数値は楽観視できない。
しかし、それよりももっと重要なのが、設備投資に大した変化がない一方で、
有効求人倍率がゆるやかに上昇していることである。
(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000044792.html)
さらに注視すると、実は有効求人倍率自体は
アベノミクスの前から上昇していたことがわかる。
つまり、設備投資の増減とは関係なしに有効求人倍率は上がっている。
とするならば、量的緩和が雇用を増やしたという主張は、
少なくとも日本においては、実態と異なっていると言えよう。
有効求人倍率(年度ごとの平均値)
2010 2011 2012 2013 2014
0.52 0.65 0.80 0.93 1.09
+0.13 +0.15 +0.13 +0.16
(厚生労働省 一般職業紹介状況より)
このように有効求人倍率の増加値は
アベノミクス前後で変化が全くない。
ダメ押しで失業率も併記する。
2010 2011 2012 2013 2014
5.04 4.57 4.33 4.02 3.58
-0.47 -0.24 -0.31 -0.44
(IMF World Economic Outlook Databaseより)
実は2013年度から2014年度までの減少値は
2010年度から2011年度までのそれより少しだけ低い。
マイナス傾向だったのがプラス傾向へと変化したとか、
微々たる増加だったのが急に大きく上昇したと言うなら話はわかる。
だが、実際には、有効求人倍率や失業率の傾向が
アベノミクスに左右されていないのは明らかである。
雇用は確かに増えたが、それは自然回復の範疇だ。
(なお、別記事で後述するように雇用の質は劣化している)
アベノミクスを最大限に褒めるのであれば、
「失業率の減少や求人倍率の上昇傾向をストップさせなかった」とでもなる。
ここで、立教大学名誉教授の小西一雄氏の論文
「異次元金融緩和の2年」『経済』2015年5月号から一文を引用する。
----------------------------------------------------
-黒田日銀総裁が、異次元の金融緩和政策を発表した2013年4月4日から、
まもなく2年になります。成功だったのか、失敗だったのか、どう見ておられますか。
マスコミの注目は、消費税増税の影響を除くと、
2%の物価上昇目標の達成は無理になった、失敗だったという点に集中しています。
そのとおりなのですが、ただ、物価上昇が自己目的ではなかったはずですので、
実体経済はどうだったのかという角度で評価してみましょう。
(中略)
2014年度の実質GDP成長予想はマイナス0.5%であると記されています。
(注:前述の「平成27年度の~基本的態度」を参考に述べている)
個人消費はマイナス2.7%、住宅投資マイナス10.7%、
設備投資見通しはプラス1.2%です。設備投資はプラスになっていますが、
13年度がプラス4%ですから、3分の1以下に落ち込んでいます。
ですから、資本市場(株式市場・為替市場など)は膨らんだが
その効果を実物史上に波及させることができず、
日本経済は軽微のスタグフレーション(インフレと不況の併存)に陥っている、
これがとりあえずの結論だといえます。
ですから2年間の結果がどうだったかと問うならば、
明らかに「失敗だった」というのが答えです。
ところが、このリーマンショック後の09年度以来のマイナス成長という
現実について、甘利担当大臣の談話は、
「平成26年度の我が国経済は、緩やかな回復基調が続いているもの…」と述べています。
黒田日銀総裁も、記者会見で、
「ゆるやかな回復基調にある」という同じフレーズをくり返したのですが、
これは「詐欺」に等しいと思います。
-「ゆるやかな回復基調」なんて言えないと……
そうです。にもかかわらず、マスコミはこの点での突っ込みが弱いのです。
それは何故なのか。
1つは、マイナス成長は、
去年4月の消費税増税の影響だという見方が強いからだと思うのです。
3月までの駆け込み需要の反動で、4~6月期は反動減になる、
7~9月期は一定回復するというのが大方の見方でしたが、そうはならなかった。
消費税増税の影響が長引いているという見方が根強い。
もう1つは、求人倍率が上がった、失業率が下がったというわけです。
とにかく労働市場は改善している、という思い込みがあるわけです。
だから、マスコミは政府・日銀の「詐欺」を追及できないのです。
----------------------------------------------------
この論文を読み、私はようやく頭の中にモヤモヤとあった違和感に気づいた。
つまり、こういうことだ。
「マスコミなどでは、「景気回復の実感はない」と決まり文句のように言っていますけど、
そんなふうにおっしゃる人はたいてい、もともと安定して、
比較的まともな賃金の職の人なんですよね。過去20年の
「改革」不況で最も苦しんできた層の人たちの間では、明らかに事態が動いています。
「実感はない」派の人たちは、景気回復がコケて安倍さんに失脚してほしいあまり、
現実から目をそむけているのかもしれませんが、今後、景気回復を
否定するようなことを言えば言うほど、私たちが最も依拠すべき
こうした層の人たちを、かえって安倍さんの側に追いやる結果になるでしょう。」
まさに政府・日銀の「詐欺」を追及できないパターンではないか。
(上のコメントは有効求人倍率のグラフを参照した上での発言)
そもそも、「アベノミクスのおかげで雇用が改善されたんだ」と説明されたら、
まともな神経を持っている限り、過去20年の改革不況で
最も苦しんできた人たちは喜んで自民党を支持するだろう。
自分たちの希望に直に応えているのだから。私が失業者だったらそうする。
仕事をくれる政府をわざわざ裏切る馬鹿はいない。
○はアベノミクスの効果を否定すれば貧困者を自民党支持者へ変えるというが、
どう考えたって、アベノミクスの効果を肯定したほうが支持者は増える。
しかも、この発言は2014年5月、まさに消費税が実施された直後の話で、
知人が就職に成功しただの、派遣の賃上げもあるらしいだの、
ブラック企業の人間も今まで再就職先が見つからなかったから
やめられなかったけど、これからは安心だねといった
…でも、言う。
「すっかり「ブラック企業」の汚名がついてしまっているワタミさんですが、
とうとうこんなことに追い込まれているとは。
これまで不況の間は、辞めても代わりの職が簡単には見つからないから、
いくら過酷な職場でもしがみついているしかなかったのですね。
それが今や事態は一変しつつあるわけです。」
ワタミの2009年4月入社社員の3年以内に離職する率は48.9だ。
アベノミクスが実施される前から、新入社員の半分はやめている。
こんな弱小ブログの素人が適当に書いたつぶやきに逐一反応する一方で、
これはないだろう、これは。日本の場合は、介護職が顕著だが、
募集があっても、労働条件が悪すぎて敬遠される場合がしばしばある。
つまり、ワーキングプアにも通じるが、
日本の雇用労働状況を改善するには、労働の質を上げるのを第1としなければいけまい。
○氏の発言からは批判的に現状を把握するというよりは、
アベノミクスのおかげで雇用アップじゃイエーイという声で満たされているのである。
(しかも、修正完全失業率で観ると、この時期は10%~12%を行き来している)
その肝心の有効求人倍率が実施前と伸び率が大して変わらないのは指摘したとおり。
こればっかりは、本人と同じデータをもとに論じているのだから間違いあるまい。
それまで下がっていたり、たいした伸び率でなかったのなら、
私だって、アベノミクス最高ヒャッホーイと騒ぎたいが、データが違う
と言っているのだから、仕様が無い。
もっと言ってしまえば、増えたところで雇用が不安定で賃金が安い非正規職
になれたぞ、ワッショーイなどとは、とてもじゃないが言えない。
言えるというなら今すぐ辞職して非正規雇用に就いてくれと言う話。
以上、③の部分を検討してきたが、基本的な統計を見るだけでも、
アベノミクスが特別、雇用改善に貢献したようには見えない。
これは言ってみれば、
「雨が止んだのは、オレが祈ったからだ!」
「いや、お前が祈ろうと祈るまいと、いつしか雨は止み、空には虹がかかるんだよ」
という話だ。
人によっては、失業率が上がるか下がるか、求人倍率が上がるか下がるかといった
AかBかでしか判断できない人もいるかもしれないが、
実際の問題、どう上がったか下がったかを論じなければならないだろう。
※1
実は、イギリスでもインフレ・ターゲットは長期的に見ると失敗している。
「アナリストの大半が2012年初めにプラス成長を確保することを見込んでいたが、
建設支出が3年来の落ち込みを記録したことが押し下げ要因となった。
サービス業も伸び悩んでおり、鉱工業生産も縮小した。」
「イギリスの消費者は、依然として続く不況感と、
価格高騰によるインフレの懸念という、2重の苦しみに直面している」
特に後者のコメントは今の日本経済に通じるものではないだろうか?
なお、現在、ヨーロッパで行われている量的緩和は今のところ
経済の回復に貢献しており、失業率の低下を指摘する者もいるが、
実は、原油安の影響もあり、物価はそれほど上昇していない。
フランスのように上手くいっていないケースもある。
これら英米仏の事情を知ると、物価上昇⇒雇用創出説は怪しく思える。
※2
野口氏や小西氏が指摘するように量的緩和は効果がなかった、
正確にはマネーストックに影響を与えなかった。
つまり、第二の矢は効いていない。
にも関わらず、真逆の言葉を述べるのはいかがだろうか?
○hihan