もじもじ猫日記

好きなこといっぱいと、ありふれない日常

「ヨコハマメリー」

2006-08-12 22:40:14 | 映画
横浜の伝説。
顔を真っ白に塗って白いフリルのドレスを着て、
白髪を結い上げ、街角に立つ老婆の街娼。
”ハマのメリー”

戦後横浜に溢れた娼婦の中で、
将校しか相手にせず、気品を漂わせていた彼女は、
その頃からすでに伝説だったのだ。
彼女の本名も歳も誰も知らないまま、
彼女は戦後を生きてきた。
街から娼婦たちが姿を消した後も、
異形のモノとして。
若者達には”白いオバケ”と呼ばれていた。

映画はメリーだけではなく、
住む場所も定まらない彼女を温かく見守る街の人々、
とりわけ
病に冒され、みずからも重い過去を持つシャンソン歌手、
長登元次郎を追いかけてゆく。
そして、横浜という街の持つ猥雑さを見事に描き出す。
二つある外人墓地の意味。
さらに、人々がなかったことにしてしまった戦後をも
痛いくらいにくっきりと映し出す。

ヨコハマメリーは色々なものの象徴でもあったのだろう。

そして彼女は街角に立つことに疲れて、
田舎へ帰って行った。
50年以上もただ一人でメリーとして生きてきた人生。
どれほどの孤独だったのか。
彼女はなにひとつ語らないままだ。

一切の経歴を明かさないメリーの
老人ホームから元次郎に宛てた手紙の達筆さに驚く。
そして、そこに歌を歌いに訪れた彼を見つめるのは、
白粉をとった童女のような品のいい笑顔の老女。
良くも悪くも、
周りの老女達のような生活によって刻まれたものが彼女にはない。

素顔は映さないだろうと思っていたので、
ふいをついた彼女の邪気のない笑顔に、
何故だか涙が出そうになった。
ヨコハマメリーを脱いだ彼女は
今も元気でいるのだろうか。
コメント (4)
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