展開する米海軍。写真は着艦するF-35B
バイデン政権は、貿易、ハイテク、安全保障、人権の分野で対中強硬姿勢を継続するであろう。
尖閣諸島を巡って中国と対立している日本にとって、ジョー・バイデン政権の対中外交・安全保障政策は最大の関心事である。
また、日本の平和と安全に直結する台湾・北朝鮮政策も同様に大きな関心事である。
1月20日、米国の第46代大統領に民主党のバイデン氏(78)が就任した。バラク・オバマ政権で副大統領であったバイデン氏は、副大統領時代には対中関与政策を支持していたが、その後対中姿勢を硬化させている。
大統領選挙運動中は中国政府の香港での行動を激しく非難するとともに、新疆ウイグル自治区のイスラム教徒住民に対する政策が「良心に照らして受け入れ難い」と語り、習近平国家主席を「悪党(thug)」とさえ呼んだ(詳細は後述する)。
また、1月20日の大統領就任演説では「同盟を修復し、再び世界に関与する」と述べ、国際協調を重視する姿勢を示した。
バイデン新大統領が、同盟国との関係を改善し、中国の無法な行動や傲慢な態度を抑え込むことを期待したい。
さて、米国では大統領就任から最初の100日間は「ハネムーン期間」とされ、大統領の政策や行動を市民やメディアがある程度、好意的に見る伝統があるそうである。
現在は就任2週間足らずであり、バイデン政権の政策を云々するのは時期尚早と思われるかもしれないが、バイデン大統領をはじめ政権の主要メンバーから主要な政策を示唆する様々な発言がなされている。
本稿は、それらの発言からバイデン政権の対中政策を推測することを目的としている。
はじめに、バイデン氏の略歴等について述べ、次に、大統領選挙中に、バイデン氏が習近平氏および北朝鮮の金正恩氏を悪党(thug)と呼んだ発言を紹介する。
次に大統領就任後のバイデン政権の主要メンバーの発言を述べ、最後にバイデン政権の対中・対台湾・対北朝鮮政策を推測する。
1.バイデン氏の略歴等
オバマ政権時代に副大統領を8年間務めていたとはいえ、その人となりや政治的な立ち位置、実績はあまり知られていない。その略歴等を簡単に取りまとめた。
・ジョセフ・ロビネット ・バイデン・ジュニア(短縮形名:ジョー・バイデン)氏は、1942年11月20日にペンシルベニア州スクラントンのアイルランド系カトリックの中産階級の家庭の4人兄弟の長男として生まれ、現在78歳である。
・デラウェア大学で学んだ後、ロースクールを経て1969年に弁護士となり、1970年にデラウェア州のニューキャッスル郡議会議員に選出された。それ以来、政治家の道を歩んできた。
・副大統領に就任する2009年まで、36年間にわたってデラウェア州の上院議員を務めたバイデン氏は、民主党中道派の重鎮として知られる。
長年、司法委員会に在籍したほか、外交委員会にも所属して委員長も務め、外交・安全保障のエキスパートでもある。
上院議員として1991年の湾岸戦争に反対し、東ヨーロッパへのNATO(北大西洋条約機構)の拡大と1990年代のユーゴスラビア紛争への介入を支持した。
2002年のイラク戦争承認決議を支持したが、2007年の米軍増派には反対した。
・2008年大統領選挙でオバマ大統領とともに副大統領に当選した後に上院議員を辞任した。オバマ氏とバイデン氏は2012年大統領選挙においても再選され、2期8年にわたって務めた。
2009年に副大統領に就任してからは、外交経験が浅いオバマ大統領を支えた。副大統領として、外交政策ではアメリカ合衆国およびロシア連邦との間で新START条約の成立に向けた取り組みを主導し、リビアへの軍事介入を支持し、2011年の米軍の撤兵までイラクに対する米国の政策を指導した。
2015年12月28日の「慰安婦」問題に関する日韓最終合意は、バイデン副大統領の強力な圧力によってもたらされたものであることはよく知られている。
・2019年4月25日、2020年大統領選挙へ出馬することを正式に公表した。動画での声明では出馬の理由について、以下のように述べた。
「この国の核となる価値や(中略)私たちの民主主義、アメリカをアメリカたらしめるすべてが危険にさらされている」
「歴史がこの4年を振り返ったとき、そこには異常さしか残っていないと思う。しかしトランプ氏が8年間ホワイトハウスに居座れば、トランプ氏はアメリカの本質や私たちの性質を永久に、根本的に変えてしまう。それを黙って眺めていることはできない」
バイデン氏はプロの政治家である。
オバマ元大統領は、例えば、核兵器のない世界の平和と安全を追求するという高い理念を述べたが、具体的な政策にはつなげられなかった。
トランプ前大統領は、外交交渉ではなく取引(ディール)にこだわった。圧倒的に立場が強い米国が、立場が弱い相手に譲歩を迫る方法である。
イスラエルとアラブ諸国の間の国交正常化では成功したが、メンツを重んじる中国および北朝鮮とのディールには失敗した。
さて、プロの政治家であるバイデン氏は、外交交渉には両者の譲歩が必要であると考えている。
例えば、2015年の慰安婦問題日韓合意の仲介者であったバイデン氏は、日韓両国に譲歩を求めた。
2013年12月初旬に日本、韓国を来訪した際、歴史問題について韓国を刺激するような行動は取らないとの約束を安倍晋三首相から取り付けたバイデン副大統領は、安倍首相との首脳会談に臨むよう、朴槿恵大統領に圧力をかけた。
そして、2014年3月25日、在オランダ米国大使公邸において日米韓3か国の首脳会談が開催された。
2015年11月に安倍首相と朴槿恵大統領とのソウルでの会談を受け、翌月(12月28日)の日韓外相会談において慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した歴史的な日韓合意が成立した。
バイデン米副大統領は2016年8月26日付の米誌「アトランティック」のインタビューで、安倍首相の依頼を受けて韓国の朴槿恵大統領との間を取り持ったと述べた(日経新聞2016年8月27日)。
ところで、韓国の文在寅大統領は、2021年1月18日の新年の記者会見で、「最終的かつ不可逆的に解決される」とした2015年の日韓合意を韓国政府は公式的な合意だったと認め、そうした土台の上に、(判決を受けた原告も)同意できる解決策を見いだす」と述べた。
文在寅大統領は、これまで2015年の日韓合意を事実上、白紙化してきた。
今回の文在寅大統領の豹変ぶりは、日韓合意成立の立役者であるバイデン氏の大統領就任が原因でなかろうかと筆者は見ている。
2.大統領選予備選挙中の発言
2020年2月25日に開催されたサウスカロライナ州チャールストンでの第10回民主党主催候補者討論会において、バイデン氏は、中国の習近平氏と北朝鮮の金正恩氏を悪人(thug)と呼んだことが、注目され報道された。
その発言記録の要旨(筆者の仮訳)は次のとおりである。
(1)金正恩氏に関する発言
司会者:副大統領、北朝鮮にどう対処しますか?
バイデン氏:金正恩が何をするつもりかを全く考えずに、独裁者と交渉すべきではない。彼に正当性(legitimacy)を与えることになる。
トランプ大統領は、この独裁者――彼は悪党(thug)である――に正統性を与えた。そして、それは国際社会の北朝鮮に対する制裁を弱めてしまった。
(2)習近平氏に関する発言
司会者:副大統領、中国企業が米国の重要なインフラストラクチャを構築することを許可しますか?
バイデン氏:いいえ、私は許しません。私は、私たち(オバマ政権)がオフィスを去るまでに、世界のどのリーダーよりも多くの時間を習近平氏と過ごした。習近平氏は、これっぽっちも民主主義者ではない。
彼は、100万人のウイグル人を「再教育施設」と呼ばれる強制収容所に閉じ込めている悪党(thug)である。
今回、バイデン氏は、人権問題を取り上げ、習近平総書記を悪党(thug)であると非難した。
中国との貿易合意への影響を考慮し、ウイグル族弾圧や香港問題などの人権問題への批判を控えたトランプ政権と異なり、バイデン政権は中国の人権問題を厳しく追及することが推測される。
3.バイデン政権主要メンバーの発言
本項は各種報道を取りまとめたものである。
(1)菅義偉首相は1月12日、アメリカ大統領選挙で勝利宣言したバイデン前副大統領と電話会談を行った。
会談冒頭、菅首相は、「日米同盟は、厳しさを増す、わが国周辺地域と、国際社会の平和と繁栄にとって不可欠であり、一層の強化が必要だ。『自由で開かれた』インド太平洋の実現に向けて、連携していきたい」と述べた。
これに対しバイデン氏は、「日米安保条約5条の尖閣諸島への適用について、コミットする。日米同盟を強化し、インド太平洋地域の『平和と安定に』向けて協力していきたい」と応じた。
両氏は、日米同盟の強化で一致するとともに、尖閣諸島が、米国による防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用範囲であることを確認した。
(筆者コメント)
バイデン氏が日本などアジア諸国の首脳との一連の電話会談で、インド太平洋のあり方についてトランプ政権時代の「自由で開かれた」でなく、「安全で繁栄した」との表現に変えたことから、バイデン次期政権が中国に対する姿勢を軟化させるのではないかという懸念が広がった。
「自由で開かれた」という表現が、中国の反民主的なシステムに反対する意図が明白なのに対して、中国を念頭においての「安全で繁栄」という用語は、中国に対してソフトで宥和的な政策を意味することになる。
共産党一党独裁でも「安全」や「繁栄」は得られるわけであり、中国を牽制するという意図が希薄になる。
この懸念はバイデン大統領就任後の菅首相との電話会談で解消された(詳細は後述)。
(2)米トランプ政権のオブライエン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は1月12日、2018年2月に政府内で認可され、先頃機密指定が解除された「インド太平洋における戦略的枠組み」と題された文書を公開したと発表した。
文書は、急速に軍事力を拡大する中国に対抗するため、①沖縄からフィリピンを結ぶ第1列島線の域内で、中国が制空・制海権を長期間確保することを防ぐ、②台湾を含む第1列島線に位置する国を防衛する、③第1列島線域外では陸海空など全領域を支配することを明記している。
対北朝鮮については、「金正恩体制に、生き残る唯一の道は核の放棄であると納得させることを目指す」とし、経済や外交、軍事などあらゆる分野で北朝鮮に「最大限の圧力」をかけて「完全かつ検証可能で不可逆的な朝鮮半島の非核化」に向けた交渉の下地を整えることを強調している。
オブライエン氏は機密文書を公開した理由について「米国民や同盟諸国に、米国が今後も長き将来にわたってインド太平洋を自由開かれた地域にするため永続的に取り組んでいくことを知ってもらうためだ」と説明した。
(筆者コメント)
「インド太平洋における戦略的枠組み」文書の内容は大変興味深い。バイデン政権がこの文書をどのように扱うかが注目される。
(3)国務長官に指名されたブリンケン元国務副長官は1月19日、上院外交委員会の指名承認公聴会において、トランプ政権の対中強硬策について「厳しいアプローチは正しかった」と述べた。
中国を「最も重要な課題」としつつ「打ち負かすことができる」と述べ、同盟国との連携強化を通じて中国に対処する姿勢を示した。
対北朝鮮政策に関して「(トランプ政権の)政策を検証する。この問題は改善せず、悪化している」と表明した。
「北朝鮮が交渉のテーブルに着くよう圧力をかける」とも語り、日本や韓国と緊密に連携して政策の見直しを進める考えを示した。
また、「マイク・ポンペオ前国務長官が19日に発表した(ウイグル族弾圧の)ジェノサイド認定に同意するか」と問われ、「イエス」と答えた。
(4)バイデン大統領の就任式(1月20日)には、台湾の駐米代表が主催者の招待を受けて出席した。
台湾の代表が就任式に正式に招かれたのは、1979年の米台断交後、初めてである。台湾への関与を強める米国の意思が明確に示された証左である。
(5)バイデン大統領の就任演説:
「世界が今、米国を注目している。だから私は、世界の人々にメッセージを送る。米国は試練を乗り越え、一層強くなった」
「私たちは同盟関係を修繕し、再び世界に関与する。私たちは力の見本としてだけでなく、模範の力を示すことによって、主導する。私たちは平和と進歩、安全保障のための強力で信頼されるパートナーになる」
(6)米国務省のプライス報道官は1月23日、台湾に対する中国の軍事的圧力が地域の安定を脅かしているとして、軍事、外交、経済的圧力を停止するよう中国に求める声明を発表した。台湾との関係強化も表明した。
台湾外交部は1月24日、米国務省の声明について「バイデン政権による台湾支持と台湾防衛重視」の表れだとして謝意を表明。
台湾の専門家は「バイデン政権は前政権の方針を引き継ぎつつ、より緻密に中国対抗策を推進していくだろう」と分析している。
プライス報道官の声明に対し、中国外務省の趙立堅報道官は1月25日の記者会見で「台湾は中国の不可分の一部だ。台湾独立や外部勢力の干渉に断固として反対する決意が揺らぐことはない」と述べた。
そのうえで「アメリカには、台湾に関する問題を慎重かつ適切に処理し、台湾独立勢力に誤ったメッセージを送らないよう求める」と反発した。
(7)岸信夫防衛相は1月24日、米国のオースティン国防長官と電話会談した。
両氏は、日米安全保障条約5条が尖閣諸島に適用されることを確認し、尖閣での日本の施政を損なう「いかなる一方的な行動」にも反対することで一致した。
(8)中国の習近平国家主席は1月25日、世界経済フォーラム(WEF)のオンライン会議(ダボス・アジェンダ)で講演した。発言のポイントは次のとおりである。
①「今の世界は岐路に立っており、仮に対立対抗の道に進み、冷戦や戦争・貿易戦争・科学技術戦争に向かえば、 最終的には、各国の利益が損なわれ、国民の福祉が犠牲にされる」と述べ、米中の緊張緩和を訴えた。
②「単独主義や自己陶酔で傲慢になるいかなるやり方も必ず失敗する」と述べ、トランプ前政権が掲げた「自国第一主義」をバイデン氏が継続しないように強く牽制した。
③「各国の違いを尊重し内政干渉をすべきではない」と述べ、バイデン政権のウイグル族の人権問題への干渉を牽制した。
④「中国は対話で意見の食い違いを埋める努力をする」とも語り、米政権との対話の再開に意欲をにじませた。
(8)米国のサキ大統領報道官は、世界経済フォーラムでの習近平国家主席の発言に反論し、1月25日の記者会見で、「我々は中国と重大な競争関係にある」「我々の中国へのアプローチは過去数か月間と同じものだ」と述べ、バイデン政権は同盟国と連携し、トランプ前政権の対中強硬姿勢を維持する方針を強調した。
また、サキ報道官は、中国は「ここ数年、国内ではより権威主義的に、国外ではより独断的になり、我々の安全や繁栄、価値観に挑戦している」との対中認識も示した。
同盟国や与野党と協議しながら「戦略的忍耐」(注1)で中国と向き合うとした。制裁関税や通信機器大手・ファーウェイなど中国企業への輸出規制といったトランプ前政権の取ってきた対抗措置を継続するかどうかについては、「見直しを進めている」と述べるにとどめた。
(注1)「戦略的忍耐」はオバマ元政権が用いた対北朝鮮政策のキーワード。北朝鮮が非核化に向けた具体的な取り組みに動くまで交渉には応じない姿勢を意味した。これは北朝鮮に核開発を進展させる時間を与えるだけに終わった。サキ氏は当時、国務省報道官を務めていた。(日経新聞2021年1月26日)
(9)中国の国営メディアと政府関係者は1月26日、バイデン政権が中国に対して、トランプ前大統領と「実質的に同じ」対決姿勢をとる可能性があるとの懸念を示した。
中国大手紙の環球時報は26日の論説記事で、「(25日の記者会見の)サキの発言は、バイデン政権の中国に対する見方や性格づけが、トランプ政権と実質的に同じであることを示している」と述べた。
「『中国と激しい競争関係にある』というのは、アメリカにおける超党派の合意事項だ」と報じた。
(10)商務長官に指名されたレモンド氏は1月26日、上院外交委員会での指名承認公聴会において、対中国政策に関して「不公正な貿易慣行に対抗するため、積極的に行動する」と述べ、強硬な姿勢で臨むことを強調した。
また、中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)を名指しして「中国の介入から通信網を守るため、あらゆる手段を使う」と述べ、米中が覇権を争うハイテク分野で強硬路線を続けると表明した。
(11)菅首相は1月28日、バイデン大統領と電話会談を行い、日米同盟を強化し、覇権主義的な動きを強める中国を念頭に「自由で開かれたインド太平洋」を推進することで一致した。
両首脳は、米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約5条が尖閣諸島に適用されることも確認した。
また、両首脳は、安保理決議に従い、北朝鮮の非核化が実現するよう、日米で緊密に連携していくことで一致した。
4.対中・対台湾・対北朝鮮政策
(1)対中政策
現在進行中の米中対立の根底には、覇権国米国と新興国中国よる覇権争いが存在していると筆者は見ている。
そして、この米中対立は75%の確率で武力衝突に至るであろう。これは筆者の言葉でない。米国の著名な政治学者であるグレアム・アリソン氏がその著書『米中戦争前夜』(2017年発刊)において言わんとしていることである。
(詳細は拙稿『歴史検証が弾き出した米中戦争勃発確率75%』(2020.8.5)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61554を参照されたい)
中国が増大する経済力と増強する軍事力を背景に世界における米国の覇権を急速に侵食しつつある状況を目のあたりにしたのとほぼ時を同じくして、「アメリカを再び偉大に」を選挙スローガンとするトランプ大統領が就任(2017年1月20日)した。
トランプ政権は、覇権国に留まる決意し、米中新冷戦時代に突入したのである。
トランプ政権でエスカレートしてきた対中強硬策はトランプ政権単独によるものではなく、超党派のコンセンサスである。
例えば、2020年1月、米中経済・貿易協定の第1段階の合意直前、議会民主党幹部のシューマー上院院内総務はトランプ大統領に宛てた公開書簡で、産業補助金、強制的な技術移転などの中国の構造的な課題是正に対する具体的なコミットがなしでの合意には断固反対する、と警告を発した。
こうしたことから、政権が交代しても、米国政府・議会の対中強硬姿勢は継続されることが見込まれていた。
事実、(3)項で既述したバイデン大統領および政権主要メンバーの発言からも、バイデン政権が、中国との貿易戦争、ハイテク戦争、南シナ海問題、台湾問題および香港・ウイグル族を巡る人権問題について強い姿勢で臨むことが明らかになった。
(2)対台湾政策
米国と台湾は、1979年に締結した「台湾関係法」に基づき台湾の防衛を支援する道義的義務を負っている。いうなれば米国とって台湾は準同盟国である。
また、第1列島線のほぼ真ん中に位置する台湾は米軍にとって極めて重要な戦略的要衝である。
これらの理由から、筆者は、台湾海峡危機が発生した場合、米国は台湾に軍事的支援を提供すると確信している。
(詳細は拙稿『一触即発の台湾海峡、危機勃発の全シナリオ』(2020.12.17)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63288を参照されたい)
また、2020年3月に台湾への支援を拡大する「台湾同盟国際保護強化イニシアチブ法」(注2)が超党派の強い支持により成立したことは、米台関係は実質的な深化を遂げてきたことを示している。
とりわけ、バイデン大統領が、1979年の米台断交後初めて、大統領就任式に台湾の駐米代表を招待したことは、台湾への関与を強めるというバイデン政権の意思が明確に示された証左である。
(注2)英語名「Taiwan Allies International Protection and Enhancement Initiative」の頭文字をとって通称TAIPEI法とよばれる。同法案は、米政府に対して、台湾との経済・貿易関係をさらに強化し、台湾の国際組織への参加を支持することを求めている。
(3)対北朝鮮政策
バイデン政権の対北朝鮮政策は、いわゆる「戦略的忍耐」へ戻るであろう。
そして、「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)」を求め、国連の経済制裁による問題解決を図ろうとすると思われる。
「対話と圧力」というが、バイデン大統領は予備選挙で独裁者とは交渉しないと語っている。金正恩氏が米国との交渉を望むならば、核放棄の意思を明確にすることが必要であろう。
米国は、北朝鮮に対して経済や外交、軍事などあらゆる分野で北朝鮮に「最大限の圧力」をかけて、北朝鮮が非核化に向けて具体的行動をとるように仕向けるであろう。
おわりに
尖閣諸島を巡って中国と対立している日本にとってバイデン政権の対中政策は、極めて重要である。
バイデン政権が対中強硬姿勢を維持して中国の無法な行動や傲慢な態度を抑え込むことを期待したい。
ところで、バイデン大統領およびオースティン国防長官が、日米安全保障条約5条が尖閣諸島に適用されることを明言していることは心強い限りである。
しかし、米軍は無条件で日本の支援に駆け付けない。
なぜなら、日米安保条約に基づく防衛協力の具体的なあり方を取り決めた「日米防衛協力のための指針(2015.4.27)」(いわゆるガイドライン)には、「自衛隊は、防勢作戦を主体的に実施する。米軍は、日本を防衛するため、自衛隊を支援し及び補完する」と定められているからである。
自衛隊(日本)が主体的に戦わない限り、米軍(米国)が支援に来ることはないということを我々は肝に銘じておくべきである。
最後に一つ提言したい。
2019年の夏頃、トランプ前大統領が「もし日本が攻撃されたら、我々は、全軍で日本のために戦うのに、アメリカが攻撃された場合、日本は戦う必要がない。これは不公平であるので見直しが必要だ」などの発言が大きな波紋を呼んだことは記憶に新しい。
2015年に日本は米国に対する武力攻撃が発生した場合に限定的な集団的自衛権の行使を容認する平和安全法制を整備した。
しかし、日本の存立や国民の生命、自由、幸福追求の権利が脅かされるときのみ集団的自衛権の発動が可能であるというある意味中途半端である。
たとえるならば、「風上にある隣の家が火災になったときは消火に当たるが、風下にあった場合は消火に当たらない」というものである。
早急に現行の日米安保条約を相互防衛条約へ改定すべきである。