東京電力福島第1原発事故の被災者が国と東電に損害賠償を求めた集団訴訟は、横浜地裁でも国に賠償が命じられた。各地裁では責任を認定する判断が続いているが、「国はいつ規制権限を行使すべきだったか」をめぐっては、判断にずれもある。控訴審でも審理が続いており、今後の司法判断が注目される。
判断にあたって横浜地裁判決が着目したのは、平成21年9月に東電が原子力安全・保安院(当時)に津波の試算結果を報告した「21年報告」だ。
判決は、この時点で「国は原発の敷地の高さを超える津波の到来を予見すべき義務があり、予見も可能だった」と指摘。原発の非常用電源設備などを高所に移設するよう、東電に対してただちに規制権限を行使していれば「遅くとも22年末までには移設可能」で、事故も回避できたと判断した。
一方、多くの判決は、14年7月に公表された地震予測「長期評価」を重視している。「マグニチュード8クラスの津波地震が30年以内に20%程度の確率で発生する」との内容で、福島地裁(29年10月)は、長期評価などを根拠に、規制権限を行使すべき時期は「14年末まで」だったとした。
また、京都地裁(30年3月)は「14年以降で遅くとも18年末ごろ」、東京地裁(同月)も「18年末まで」とした。
控訴審でも国側は長期評価のとらえ方について争っており、東京、仙台、大阪の各高裁で審理が進められている。(滝口亜希)
「今さら何を言っているのか」
「人間が数十秒で死亡するレベル」
そんな恐ろしい見出しが様々なメディアで躍った。
1月30日、福島第一原発2号機の原子炉の真下をカメラで調べたところ、溶けた核燃料である可能性の高い黒い堆積物があったほか、格子状の足場の一部がなくなっていた。
その後、画像を分析した結果、ほかにも1メートル四方の範囲で、足場がくぼんでいる場所があることがわかった。
格納容器内部の線量は最も高いところで、
1時間あたり530シーベルト。
人間は積算6〜7シーベルト以上の被曝量で99%が死ぬとされているため、1時間あたり530シーベルトならば30秒から1分弱で人が死ぬほどの高いレベルというわけだ。
まるで、この世の終わりのように伝えられている福島第一原発。しかし、『はじめての福島学』の著者で、立命館大の開沼博准教授は「今さら何を言っているのかと思う」とあきれたように語った。
「530シーベルトと言われて怖がる人が多い。2号機の格納容器内部へ行けば、高い放射線量ですよ。そりゃあ、『横に行けば数秒で死ぬわ』と思います。火力発電所の火の上に30秒いれば死にますよね。それと同じです」
こうした情報に触れるたび、一般の人に風評が広がっていくと開沼さんは危惧している。「伝えられている福島」と「実際の福島」には大きな乖離があるというのだ。
福島第一原発に向かうバス
カメラマンがまさかのインフルエンザに
福島第一原発の取材は管理が徹底されている。事前登録している記者しか構内に入れないのはもちろん、カメラも機材番号を事前登録しておかなければならない。しかも、持ち込むことができるカメラは、取材団全体で1台に制限されている。そのため、取材団の中にカメラマンが1人参加し、代表として撮影することになっていた。
ところが、カメラマンがインフルエンザに罹患。取材への参加ができなくなってしまった。事務局が東電に問い合わせたところ、カメラマンの代わりに別の誰かが撮影するのは構わないが、機材の変更は認められないという。カメラマンの所属する社から当該カメラを入手して事なきを得たが、厳重管理されているのを思い知らされた。
私自身は2011年の発災後から原発20キロ圏内の「警戒区域」や「帰還困難区域」にはほぼ毎年足を運んで取材をしているが、福島第一原発構内に入るのは今回が初めてだ。原発の周辺地域を取材するだけでも真っ白いタイベックに身を包んでいたことを思い出すと、構内を私服のままウロウロできるというのはかなり意外な感じがする。
筆者。
線量計を入れるポケットがなかったのでベストを借りて着用
「ポケモンGO禁止」という張り紙が掲示されているのを見ると、ここは異世界ではないのだと強く実感させる。
原発建屋に近づく前に、食堂で昼食をとった。プリペイドカードで払う形式で、どの定食も380円(税込)。ボリュームも味も申し分ない。「大人のお子様ランチ(おもちゃなし)」などという趣向を凝らした特別メニューもある。お子様ランチが大人用になっているように、構内に子どもの姿はないが、女性スタッフはあちらこちらで見られる。建屋付近を案内してくれた東電の職員も女性だった。
また、構内で買い物をしたければ、ローソンもある。
ICカード「スイカ」も、ポイントカード「PONTA」も使える普通のコンビニだ。サンドイッチには「40枚集めればもれなくお皿がもらえるシール」がついている。酒は置いていないが、タバコはあった。値段も普通の店舗と変わらず、うまい棒は1本9円、キリン生茶のペットボトルは119円だ。
東電職員以外の作業員アンケートで、80%以上の人が「労働環境に満足」と答えていると聞いた時には半信半疑だったが、確かに働いていく上での不自由はなさそうだった。
しかし、やはりここは日常の職場ではない。無用の被ばくを避けるために、建物には窓がない。駐車場を見ると、構内でしか走らないためナンバーをつけていない車が多い。その中には「保護衣回収車」「熱中症対策車」など、聞きなれない名前の車も見かける。「熱中症対策車」とは、夏の暑い時期に作業員が冷房で涼むための車らしい。
私服のまま建屋へ
「ご安全に!」
そんな独特な挨拶をされながら、原発建屋の100メートル圏内へ向かう。建屋から80メートルという近さの高台へ来ても、私服のまま。工事現場で使うヘルメットと、花粉症対策で使うような普通のマスクをするだけで外に出られる。
2号機建屋(写真左)から80メートル
除染をした上に、粉塵で放射性物質が飛び散ることがないよう、アスファルトで地面を固めていることなどで抑え込みができているという。
ここからさらに、水素爆発して壊れた建屋の真横へ向かう。バスを降りることはできないが、装備はヘルメットとマスクだ。3号機のすぐ横を通りかかると、壊れた様子がよく見える。
3号機の壁が壊れたあたりの線量が1時間当たり245マイクロシーベルト。東電職員によると、震災翌年のこの辺りは毎時800~1000マイクロシーベルトだったということなので、かなり下がっているのは間違いない。遮蔽やガレキ撤去が進んでいるほか、風が吹いても大丈夫なように飛散防止剤などを活用しているという。
3号機
“数十秒で死ぬ”と話題の2号機は、水素爆発も起こしていないので、見た目には大きな問題が起きているようには感じられず、こちらも普通にバスで近くを横切った。
もちろん、だから安全と言うつもりもない。福島第一原発では様々な場所で放射線量を計測していて、それを一覧で見られるモニターが設置されているのだが、1号機の排気塔付近では1時間当たり1528マイクロシーベルトという高い値を示していた。
バスの外に見える作業員は、数年前と変わらず、白いタイベックの衣装に身を包み、防護マスクをして作業をしていた。
ただ、3時間ほど建屋周辺を取材した私の積算線量は20マイクロシーベルトだった。胸部のX線検査で60マイクロシーベルトということなので、それよりもはるかに少ない。
東電職員によると、どこを通れば線量が少なくて済むのかなど、かなりコントールできるようになっているとのこと。必要以上に怖がることはないという印象を私自身は受けた。
「福島問題の語りにくさ」
冒頭で紹介した、「実際の福島」と「意識」の乖離について懸念する開沼博准教授は「福島の問題は『語りにくさの壁』がある」という。
「関西の高校生による福島視察の話が進んでいたんです。しかし、『学校に話を持っていったら、福島に行くということは原発推進で、教育の場でそれをやっていいのかという話になった。何も反論できなかったので、お断りしたい』と言うんです。こっちからしたらわけが分からない」
開沼博准教授は、
「福島に行く」→「安全性を認める」→「政府や東電の方針に従う」→「原発推進」
というロジックになっていたのだろうと分析している。
「語りにくさ」という点では、今回の福島第一原発取材も同じだ。正直、「コントロールできている」という原稿は書きにくい。避難を余儀なくされている人が今も大勢いるし、東電から出ている情報もそのまま信頼して良いものなのか疑問に思うこともある。
しかし、6年間の福島の状況を見れば、少なくとも悪化の方向に進んでいないことだけは確かで、程度の差はあれど、コントロールの方向にも進んでいる。
開沼博准教授もこう語ってくれた。
「今必要なのはデータと理論です。大人が理解していないことで様々な問題が起きているということから目をそらしてはいけないと思います」
きちんとしたデータを元に、正しく判断する。いま一度、福島の現実を見つめ直したい。
以上
今でも、多くの国民が放射能被害で命を落としているというの福島第一原発は風化してしまっている・・・。
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