2008年のリーマンショック以来となるアメリカの銀行の破綻が起きた。
その後にアメリカの100以上の銀行の危機が伝えられ、なおかつそれがスイスのクレディ・スイスに波及し、破綻を引き起こし、今ではドイツ銀行も危機だと伝えられている。
人々は、これがリーマンショック以来の世界恐慌になるのではないかと、危惧している状況だ。
もちろん、アメリカのバイデン大統領はすぐに信用不安を取り除く発言を行い、イエレン財務長官も不安の除去に躍起となっている。
さて、今回の出来事は次の点でリーマンショックとまったく違っている。
それは、バブルの破綻といういわば自業自得の問題ではなく、その背景にアメリカのドルの価値低下と、アメリカの国債の信用低下が関連している点である。
ドル基軸体制の危機
信用不安の大きな理由は、アメリカという戦後経済を支えてきたドルを基軸とする世界システムが危機に瀕していることにある。
戦後経済体制は、1944年のブレトンウッズ体制で始まった。ドルを基軸通貨としたIMF(国際通貨基金)体制は、強い経済力をもつアメリカと圧倒的に多くの「金」を持つアメリカによる支配体制でもあった。
1国の通貨ではなく、どの国のものでもない客観的通貨を作ろうとするケインズ案は葬り去られ、アメリカという国家の通貨を基準とした国際通貨システムができあがったのだ。
それは、当時のアメリカの圧倒的経済力からすれば当然のものであった。
人類の歴史は、獲得した富を貨幣によってどう維持し、発展させるかで悩んできた歴史といってよい。
資本主義の根幹こそ、この貨幣の探求なのだが、その貨幣となるものの価値が安定していないのだ。
結局、人類は歴史的に金や銀といった産出量が限られていて、世界中の誰もが認める金属を貨幣だと考えるしかなかった。
あるものが貨幣となるには、5つの貨幣の機能を充足しなければならない。
①頭の中だけで存在し、現実的価値の実体を持たなくてもいい観念的貨幣、つまり計算の単位としての価値尺度機能、
②流通を円滑にする流通手段としての機能、
③現実に存在し価値を体現している実体的貨幣、すなわち価値を蓄蔵する蓄蔵貨幣としての機能、
④国際決済において支払い手段として承認される機能、最後は
⑤誰もが認める世界貨幣としての機能だ。これをすべて満たすものは、今の時代でもやはり金や銀しかないともいえる。
1971年、当時のアメリカのニクソン大統領がドルと金との兌換一時停止を宣言した「ニクソンショック」までは、ドルは金とのリンクをもっていたことで、間接的であるが、この5つの機能を持つことができた。
世界中の誰もがドルを信頼し、いざというときにドルを金に変換すればいいので、安心してドルを使うことができた。
ドルは信用貨幣であり、一種の手形である。その意味でそれ自体に実体的価値を持っているのではない。
国家による信用の裏付けが価値なのである。しかし、金にない利点もあった。
それは金と違って経済成長に合わせてどんどん自由に発行できることで、貨幣不足を避けることができるという特徴だ。
ほころぶSWIFT体制
もちろん金に価値の実体があるといっても、それはその産出に必要な労働の費用にすぎず、金を価値として認める人々の信用がなければ意味がない。「猫に小判」という言葉にあるように、猫にとっては金であろうとドルであろうと無価値である。
しかし、金はそれを生産する膨大なコストがかかることで、信用のみならず実際にも大きな価値を持っている点がドルのような通貨と異なっている。
だからこそ、絶大なる生産力を持つことで信用を獲得したアメリカのドルは、金に代替できる信用を勝ち得ることができたともいえる。
価値尺度として、流通手段として、蓄蔵貨幣として、支払い手段として、世界貨幣として、アメリカという体制が世界経済の中心にある限り、あたかもドルは金のような役割を持つことができた。
しかし、国家というものは成長することもあれば、没落することもある。アメリカ経済はすでに世界経済を牛耳るレベルにはない。
その実態を暴露したのが、2022年から始まった経済制裁のつまずきである。
アメリカはドルによる決済体制「SWIFT」を持つことで、すべての国の貿易にドルの使用を義務づけることができていた。
だからこそ、この支払い体制からある国がはじかれると、その国は国際貿易決済が不可能となり、経済が立ちいかなくなる。
アメリカはヘゲモニー(覇権)国家として、この方法を弱小国に多用してきた。
しかし、何度もその制裁の対象になったロシアや中国などが、このやり方にいつまでも我慢し続けるわけではなかったのだ。
ウクライナ戦争に対するロシアへの制裁が功を奏さなかったのは、制裁慣れしたロシアがその抜け道をすでに見つけていたことにある。
もうずいぶん前から、ロシアや中国などは金の備蓄を始め、自国通貨の価値の安定を図り始めていた。
そして、ドルによる多国間決済制度に代わるものとして2国間決済制度を導入し、国際貿易を維持することに成功する。
そしてBRICSという新興国の経済グループの制度を拡大し、中国の元を中心とした新しい多国間決済制度を模索し始めた。
もちろん、その先には人民元でもない、新しいデジタル通貨というものも構想されている。
ロシア、中国が世界通貨をつくったら
かつて社会主義体制では「振替ルーブル」という決済制度があった。
この制度は社会主義国で相互の互恵貿易を前提にしていて1国が豊かになることを避ける決済制度であり、帳簿上でお互いが黒字、赤字にならないように調節するメカニズムであった。
ただ、この振替ルーブルは、IMF体制のドルより世界貨幣としての流通性がなかったことによって、最終的には崩壊してしまった。
ロシアや中国が元もしくはルーブルなどにより、新たな世界貨幣としての制度作りを始めたら、いったいどうなるだろうか。
そうなるとドルの世界貨幣としての流通性は限定される。
とりわけ、エネルギー資源や原料の多くがBRICSに賛同する諸国にあることで、ドルによる資源や原料の購入ができなくなるのだ。
ペトロダラーという言葉は、アメリカが自国で刷った通貨で、石油資源を安く叩いて買うという制度であった。それが機能しなくなったらどうなるか。
もっといえば、すでに金融やサービスに特化している西側諸国は、農作物や工業製品をBRICSの諸国に大きく依存している。
アメリカは財政赤字と貿易赤字を抱えながら、どんどんドルを乱発し、これらの諸国から製品を買っていたのだが、それができなくなるのだ。
こうして起こった現象が、世界貨幣であったドルの価値低下である。流通領域が狭まり、価値ある通貨として認められなくなれば、ドルは売られ、金に代わっていく。
アメリカの国債を売っている中国などの国は、国債を売って得たドルを、金へ交換することで、ますますドルの価値は低下している。
では、なぜ金を求めるのかといえば、金にはとてつもない魅力があるためだ。
それは、金の生産は容易ではなく大量に生産できないこと、また腐敗することもなく、また細かく分割することもできることで、これまでの産出した金が価値を失わず残っていることだ。
18世紀イタリアの経済学者フェルディナンド・ガリアーニは『貨幣論』の中で、金を「神の授けもの」といっているが、まさに人間が人工的に作れないという点でその名にふさわしいといえる。
もちろん今後も、金が通貨として流通することはもはやないだろう。
すでに、1オンス(約28.35グラム)=2000ドル以上という時代を迎え、金は稀少であり、通貨として流通する可能性はない。
しかし金が、ある通貨の準備金になる可能性は十分ある。
だから、今多くの国が準備金としての金を追い求めているのだ。
「世界市場はただひとつの富である貨幣を求めて叫ぶ」
今回のアメリカの銀行システムの危機は、IMF体制の危機問題と関係している。マルクスは、恐慌が起こったときに多くの者が「金」を求めることをこう述べている。
確かに、今回の銀行破綻で求められているのはドルであり、金ではない。しかし、ドルが国際通貨として不安定であることがインフレを招き、そのインフレが利上げを呼び、その利上げが資金ショートと預金引き出しを導き出したのだとすれば、問題は簡単ではない。
インフレを避けるためにドルを強くすべく利上げをすれば、資金需要は高まり、銀行預金のショートは加速される。
しかし利下げをすれば今度はインフレが加速し、早く通貨を使おうと銀行の預金ショートは進む。まさに王手飛車取り、トレードオフの関係だ。
今の危機を乗り越えるには、経済制裁を解除し、ドルから離れていった国々を元のドル決済の国に戻すしかない。
とはいえ、アジアやアフリカ、ラテンアメリカ諸国にはこれまでの強いドルで何度も経済破綻をした国々が多く、ドルへの不信は大きい。
復帰は簡単ではないだろう。
もはやG7による世界経済支配の体制は終わりに近づきつつあることを理解したほうがいい。
円安でも「円は安全通貨」世界が認める歴史的背景アメリカドル・スイスフランに並ぶ納得の理由
「老後2000万円問題」「社会保障費の増大」「円安」「高校での金融教育の必修化」……不安にさせる経済トピックに欠かない今日この頃ですが、とはいえ、今まで経済について目を背けていた人にとっては「よくわからないだらけ」なのも事実でしょう。
お金の価値って、どうやって決まるの?
金本位制の時代まで、お金には「金と交換できる」という価値がありました。でも、現在はそうではありません。よく考えてみると紙幣自体に大きな価値は無く、実際はただの紙。
それでも買い物ができるのは、そこに“信用”があるからです。そして、お金の価値は常に変動しています。かつてはゆるぎない「金」という共通の後ろ盾がありましたが、いまはそれがありません。では、お金の価値はどうやって決まるのでしょうか。世界の「基軸通貨」であるアメリカドルの変遷とともに、考えていきましょう。
第二次世界大戦後期の1944年、アメリカドルを基軸とした「ブレトン・ウッズ体制」が始まりました。これは、アメリカドルと各国の通貨をほぼ固定のレートで結びつけるという体制です。アメリカドルと各国通貨のレートを固定することにより、第二次世界大戦後の経済を発展させることを目的としていました。
アメリカドルが基軸通貨になるまでは、イギリスポンドが事実上の国際通貨として機能していました。当時のイギリスは海外に植民地を有しており、交易を積極的に行っていたことがその背景になっています。
また、金本位制によりポンドの裏付けとなる金が存在し、信用力が高かったことも後押ししました。しかし、植民地との活発な貿易によってイギリスの金が海外に流出し、結果的に国力を削がれることとなりました。
対してアメリカドルは、ブレトン・ウッズ体制の中で金本位制を採用しつつ、ドルと金の価値を固定しました。これによりドルを仲立ちとして外国通貨と金の価値が固定されるという2段構えの仕組みが作られ、実質的にアメリカドルが基軸通貨となる体制が整ったのです。
ブレトン・ウッズ体制下で、日本円は1米ドル360円に固定されました。もともと終戦直後に設定された軍用交換レートは1米ドル15円でしたが、日本のインフレ(円の価値が下落)が急速に進み、1948年には1米ドル270円まで上昇。
実際は、急激な価格変動により1米ドル160円~600円の間で複数レートが混在していました。
1米ドル360円の単一レートに固定されたのは、1949年2月。当時の池田大蔵大臣とGHQ経済顧問であるジョセフ・ドッジの合意によるものです。これは「ドッジ・ライン」と呼ばれる財政金融引き締め政策で、目的は日本経済の自立・安定でした。
アメリカドルの信用崩壊
1960年以降アメリカの金保有量が激減したため、金とアメリカドルの交換が困難となりました。それまで世界的に優位に立っていたアメリカですが、なぜ金保有量が減ってしまったのでしょうか。それには大きく分けて2つの理由があると言われています。
①ベトナム戦争の長期化 揺れ動く通貨価値
1955年11月から、ベトナム戦争が始まりました。この戦争が長期化し、アメリカの財政状況が悪化。軍費が増大し、アメリカからドルが流出しました。
②アメリカへの輸出増加
第二次世界大戦後、アメリカはヨーロッパ諸国に多額の融資を行いました。それによりヨーロッパは復興に向かい、段々と輸出量が増加。比例して、たくさんのアメリカドルが外国に流出しました。
上記2つの理由により、アメリカからどんどんドルが出ていったのです。
諸外国はドルの過剰供給を不安視し、金本位制に基づき金との交換を進めました。その結果、アメリカが保有していた金の量が減ってしまったのです。
基軸通貨であるアメリカドルの信用が揺らぎ、ブレトン・ウッズ体制の継続は不可能となりました。その結果、1971年8月にニクソン大統領が「金とドルの交換停止」を発表(ニクソンショック)。
それまでの固定相場制は崩壊し、同年12月に新しい通貨体制(スミソニアン体制)が採用されました。
狙いは、ドル安によるアメリカの輸出増加・外貨獲得です。日本円の価値も、1ドル360円から308円まで上昇しました。
しかし、スミソニアン体制は長続きしません。1973年以降、日本を含む各国は「変動相場制」に移行しました。
揺れ動く通貨価値。お金の価値の決まり方
変動相場制に移行し、通貨の価値は常に変動するようになりました。
では、変動相場制においては通貨の価値はどのように決まるのでしょうか。
答えは、市場原理。すなわち需要と供給です。
多くの人が必要としている通貨の価値は上昇し、逆に魅力のない通貨の価値は下落します。グローバル化した社会では貿易や投資などさまざまな目的で、国境を越えるお金の取引が日常的に行われています。
お金のやり取りは主に銀行の「決済機能」を使って行われており、銀行間で異なる通貨をやりとりする「外国為替市場」が形成されています。
東証プライム市場の取引高が1日250~350億米ドルであるのに対し、外国為替市場の取引高は1日約6兆米ドルと桁違いの金額になります
。このように莫大な金額が取引されるなかで、金融政策や経済状況、企業の業績などのさまざまな要素が交錯しながら通貨の価値が決定されていくのです。
外国為替市場で取引を行うには、いかに速く正確な情報を手にできるかが大変重要になるのです。
各通貨の相対価値は常に変動しており、それは「通貨強弱」という見方で比較することができます。
これは為替レートをもとに、過去の変動率から通貨の強弱を可視化したツール。
最も勢いのある通貨は「最強通貨」。逆に下落率が高いと「最弱通貨」と呼ばれます。
コロナ禍で大きく変動する通貨価値
実は2021年、円は世界的に見て「最弱通貨」でした。その背景には、新型コロナウイルスの感染拡大の市場への影響があります。
2020年に世界的に景気が低迷し、そこから回復する中で欧米の株価は順調に推移。特にアメリカ企業の株を買う動きが強まったことでドルを買う市場参加者が増加、円は相対的に売られることが増えました。
この動きが年間を通して継続したことで、世界的に見て円が弱くなってしまったのです。
世界にはたくさんの通貨があり、外国為替市場を通じて常に取引されています。各通貨の価値は情勢によって変動しており、円を基準に考えると、タイミングにより「円安」になったり「円高」になったりしています。
では、世界から見て特に安定感のある通貨というものはあるのでしょうか?
実は、円は多くの市場関係者から「安全通貨」と認識されています。その理由を紐解いていきましょう。
外国為替市場で中心的な役割を担うのが、基軸通貨。外国為替や国際金融取引の中心を担う通貨です。
ブレトン・ウッズ体制以降、事実上の基軸通貨は一貫してアメリカドル。
アメリカドルが基軸通貨である理由は、「各国政府が持つ外貨の残高が最も多い」から。
では、そもそもなぜ基軸通貨が必要なのでしょうか。
それは、「ハブとして機能する通貨があると効率的」だからです。
例えば、日本円からハンガリーフォリントに交換をするとき。まずドル=円のレートでドルに交換し、そのドルを今度はドル=ハンガリーフォリントのレートでハンガリーフォリントに交換するという取引をします。
円=ハンガリーフォリントの取引は一般的にはあまり多く行われないため、アメリカドルというハブを経由することで、効率的、かつコストを抑えた取引が可能になるのです。
戦争や主要国の金融政策の大幅変更など、予測が難しい変動が起きたとき、特に買われやすいのがアメリカドル・スイスフラン・日本円です。
アメリカドルは基軸通貨のため、多くの市場関係者からの信頼の厚い通貨です。また、スイスは永世中立国。
政治的に安定しており、他国の影響を受けにくいとされています。このように、アメリカドル・スイスフランには政治的・経済的に買われやすい基盤があります。
世界マーケットで「安定通貨」と呼ばれていた「円」
では、なぜ日本円は国際的に見て「安全通貨」と言えるのでしょうか。
そこには、大きく分けて3つの背景があります。
●低金利である
低金利通貨である日本円は、世界情勢が落ち着いている局面においては魅力的な通貨ではありません。
比較的高金利のアメリカドルやユーロに投資するほうが有利だからです。
その際に投資家は、“金利の低い通貨で資金を調達し、金利の高い通貨に交換して運用”するという取引を行います。
この取引は「キャリートレード」と呼ばれており、“日本の金融機関から円を借りる→円を売る→高金利通貨を買う→投資する”という流れです。
ところが世界情勢が緊迫すると、多くの投資家はリスクを低減するために持ち高を手仕舞います。
「キャリートレード」も例外ではなく、“投資していた株や債券などを売る→代金として受け取った高金利通貨を売る→円を買う→日本の金融機関に資金を返済する”という動きが活発になるのです。
●デフレ国である
デフレ国である日本では、モノの価格が下がり続けています。
これは逆の見方をすると、通貨の価値が上がり続けているとも言えます。
すなわち、通貨の価値がモノを通じて担保されているため、有事の際にも安全だろうという考え方です。
●世界最大の対外純資産がある
対外純資産とは、日本政府や企業・個人が外国に保有する資産(対外資産)から負債(対外負債)を差し引いたもの。
有事の際には、日本の投資家は海外の資産を売却して円に戻す可能性が高く、円が買われやすくなるという考え方です。
このように、有事の際には円が買われやすくなるため、「円は安全通貨」というのが市場の定説になっているのです。