(本頁は「鳥海山の花図鑑/盛夏1」の続きです。)
本項では、概ね七月中旬から八月上旬にかけて咲く花のうち、稜線のお花畑に咲くものを扱ってみた。
場所的には西鳥海山の長坂道分岐付近から御浜までの稜線と扇子森、御田ヶ原まで、
滝の小屋ルートでは八丁坂や薊坂の一部、祓川ルートでは康新道の下部あたりが該当するように思う。
長坂道分岐から御浜の稜線は初夏、ハクサンイチゲの白にびっしり覆われているが、
七月半ば近くになるとニッコウキスゲの橙黄色の絨毯が出現する。
他にはヨツバシオガマ(紅紫)やトウゲブキ(黄)、ハクサンシャジン(薄青紫)、ハクサンフウロ(桃)などが加わり、
たいへん賑やかなお花畑になる。鳥海山ではこの頃が(花に関しては)最も充実した季節だと思う。
ところで、このような構成パターンのお花畑は他に見たことが無い。
少なくとも北アルプスや大雪山には無いようだ。
強いて挙げれば、東北の近場、月山の一部や(奥羽山系では)乳頭山、笊森山の一部や
和賀山塊の和賀岳山頂部と薬師岳西斜面くらいか。
しかし厳密には構成種が微妙に違っている(和賀山塊ではヨツバシオガマを欠いている)。
長坂道稜線のお花畑。2018/07/20
ニッコウキスゲ(ゼンテイカ) Hemerocallis dumortieri var. esculenta
場所によって群生する。開花量は年によってばらつきがあり、2018年、2020年は当たり年だった。
西鳥海山稜線部に多く、千畳ヶ原や滝の小屋ルートでは見かけるが、山頂部や東斜面には無い。
ただし東山麓のお花園湿原と下玉田川沿い岩壁に飛び地的に生育している。
長坂道稜線、ニッコウキスゲが濃いエリア。2020/07/17
長坂道稜線、ヨツバシオガマが混生するエリア。2020/07/17
オオバギボウシ Hosta sieboldiana
鳥海山ではあまり多くない。長坂道稜線や扇子森の南斜面で少し見かける。
コバイケイソウ Veratrum stamineum
代表的な高山植物。湿った斜面に群生するが、花が咲くのは数年に一回程度。
不作の年にはほとんど花を見ないこともある。
オオバギボウシ 2020/07/17 コバイケイソウ 2018/07/20
ヨツバシオガマ Pedicularis japonica
鳥海山では全体に多く、中腹から山頂部まで広く生育。花は美しいが半寄生植物なので園芸化は困難。
なお月山や焼石、早池峰で見られるミヤマシオガマは鳥海山には無いようだ。
2020/07/17
ヨツバシオガマと鳥海山南面。2019/07/06
タカネアオヤギソウ Veratrum maackii var. longibracteatum
コバイケイソウと同属、花は黄緑と紫褐色、その中間と地味だが、個体数は非常に多い。
2018/07/20 トウゲブキやハクサンシャジンと混生。 2020/07/30
ハクサンシャジン(タカネツリガネニンジン) Adenophora triphylla var. hakusanensis
ニッコウキスゲ、ヨツバシオガマと並び、真夏の鳥海山お花畑を代表する植物だが、
開花時期は二種よりやや遅め。
花色は薄青紫だが、株によって濃淡があり、まれに純白も見かける。
下界に生えるツリガネニンジンの高山型。
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)ではツリガネニンジンと差がないことから、
変種として認めないとの見解だが、今回は従来の見解に従い、ハクサンシャジンとして扱っている。
2020/07/30 長坂道稜線にて。廻りにヨツバシオガマ、タカネアオヤギソウ、シロバナトウウチソウなど。
2008/08/12 八丁坂にて。
ハクサンシャジンの濃色タイプ。八丁坂にて。2008/08/12 トウゲブキ 2020/07/30
トウゲブキ Ligularia hodgsonii
開花はハクサンシャジンとほぼ同時期。盛夏のお花畑第二陣の主役級の花と言える。
北海道、東北の高山や海岸に生育し、分布の南限は月山と言われる。
東北の高山では鳥海山、焼石岳、和賀山塊に特に多いように感じる。
ウサギギク Arnica unalascensis var. tschonoskyi
雪田や雪渓近くのガレ場などで見られる。雪消えの遅い場所では初秋に開花する。
ミヤマリンドウ Gentiana nipponica
リンドウの仲間としては比較的早い時期から初秋にかけて咲いている。
ウサギギク 2020/07/30 ミヤマリンドウ 2020/07/30
御浜付近のお花畑。
2020/07/30 クルマユリ、ハクサンフウロに混じってミヤマアキノキリンソウが咲き出していた。
ハクサンフウロ Geranium yesoemse var. nipponicum
鳥海山には多く、あちこちで咲いている。月山のものに較べると、花径がやや小さめ。
クルマユリ Lilium medeoloides
鉾立ルートでは鉾立付近にも咲いているが、御浜まで登るとまた現れる。
ハクサンフウロ 2020/07/30 御浜付近にて。
ネバリノギラン Aletris foliata
従来ユリ科だったが、新分類ではヤマノイモ目のノギラン科となった。
地味な花だが、鳥海山のお花畑では重要な構成要素。秋の紅葉時はよく目立つ。
シロバナトウウチソウ Sanguisorba albiflora
ワレモコウの仲間。穂花は通常、白や汚白色だが、ときに赤みの強い株も見かける(後出の予定)。
ネバリノギラン 2020/07/17 シロバナトウウチソウ 2018/07/20
ありがとうございました。
暗い世情の中、明るい画面を大勢の皆さんが愉しんでいると思います。
今年こそ、花いっぱいの山歩きを楽しみたいですね。
綺麗なお花に楽しませていただきました
この景色を見に行きたいです✨
冬場は山に行けないので、かつての山歩き記録を再編集したり、花の写真を並べたりしてヒマつぶししております。
このシリーズ、これでやっと半分を越えました。
まだ少し続きますのでよろしくお願いします。
鳥海山は花の多い山ですが、この時期(7月中旬~8月アタマ)が一番みごとだと思います。
ぜひお出で下さいませ。
いつも綺麗な山々や高山植物など楽しませていただいております。
懐かしい昔の思い出と言っても、高い山に登ってした。いた訳ではないですが、中央自動車道界隈が主で
鳥海山や早池峰山などいつかと思っていましたが、
とうとう行けずじまいで、今では裏山に登るのも怪しい状態です。
自然の与えてくれる癒しは何のものにも代えがたいですね、ありがとうございます。
四年前リタイアしてからは山三昧、可能ならば
若い頃ホンの少しだけ齧った日本アルプスや北海道の山々をと
思っていましたが、家族の介護、そして昨年からはコロナ禍で
遠出が難しく、近場の山ばかりに終始しております。
さいわい鳥海山や早池峰など花の多い山が近くに有りました。鳥海山が終わったら、
他の山の花図鑑に着手したいと思っております。
引き続きよろしくお願いします。