このお話は妄想から生まれた物語です。実在する人物や団体とは無関係です
*はじまり*
♪ Dancin’ to the music,baby Wanna take you higher ♪
今、お気に入りのバンドの歌が最近の私のアラームだ。
これは一緒に寝ている夫にはとても不評だ。
おはよう、おはよう。ちょ、お前な~、朝からあのアラーム音は無いやろ~。
どうして?
やかましいやんけ~。
あれ位の感じでテンション上げないと起きられないんだもん。
俺も目が覚めてまうからさ~・・・もっかい寝直すのもな~。
・・・・・・
ちょ、何で無視しとんねん!
自分だけ疲れてるみたいな言い方して。
忙しいねん。
私だって忙しいよ。
何がいな!エイトかて夜泣きもせんと、最近は朝までぐっすり寝とるやん。
そうだけど・・・。
何や、寂しいんか?がはははは!仕事が出来る男を亭主に持ったら、多少の寂しさはしゃあないやんけ!!
ちょっと前までは二人でゆっくり話す時間もあって、疲れた~って甘えたら、頭をナデナデしてくれたのにね。今はもう、まずは、何でやねん!二言目には何がいな!トドメの言葉は知らんがな!!
ほんだら、わしゃわしゃしたるで!
せっかくセットしたのに止めてよ。
なんでやねん!止めてって。お前がしてほしい、言うたからやないかい。
エイトとも遊ばないとアナタの顔忘れるわよ。
ほんでも仕事が忙しくてしゃあないねん。
そのうち、テレビに出てくるゴリラを見てパパって言うかもよ、ね~エイト!
お前、そんなネタどこで仕入れとんねん!朝からもう、お前のしょうもない愚痴に付き合ってる時間なんて無いねんぞ~。
行ってらっしゃい!!
おいおい、まだ行くって言うとらんぞ。
早よ、会社へいってまえ~!!
今日はママは御機嫌ナナメやぞ~、エイト~気ィつけや~。
ウホウホ言ってないで、早よ行け!ボケェ~。
二つ年下の彼と結婚したのは2年前。
元からラブラブだった訳じゃないけど、子供がうまれてからは私は家事と育児、彼は仕事で忙しい。
ねえ、エイト。パパみたいな男になっちゃダメよ。エイトは優しくて思いやりがあって・・・ママの理想の男性に育て上げるんだもん!
ママの理想はね・・・・。
これがよくよく考えてみると、私自身も私の理想がどんなタイプなのかが、まだ判らないのだ。
これまで好きになった人は、みんな違うタイプで誰一人として共通点を見出せないのだ。
好きになった人がタイプ・・・それが原因なのか愛や恋では痛い思い出ばかりだ。
*初恋・幼稚園*
私の初恋は幼稚園の年長さんの時。同じクラスの彼だった。
お弁当の時間に向かい合わせの席になった時の事。
彼は私のお弁当をじーーーーっと覗き込んでいた。
なあに、どうしたの?
から揚げ、ええな。うまそうやな~。
ひとつなら、あげるよ。
わ~、ありがとう!めっちゃうまい!
そうでしょう!ママのから揚げ美味しいんだから。
ねえ・・・。
ん?
チュッ!
さっきのから揚げのお礼のチュウね~!
から揚げの油が付いたままの唇でほっぺにチュウしてきた彼。
ママのから揚げを天使の様な笑顔で食べて、食後にお礼のチュウをしてきた彼が私の初恋の人だった。
それからは、お弁当の時間になって、から揚げが入っていると私も嬉しかった。
ひとつ、ちょうだい。
いいよ。
それが二人の合言葉になっていた。
夏休み明けの最初のお弁当の時間。
彼とは違うグループになってしまったけれど、ママはちゃんと私のリクエスト通りに、から揚げを入れてくれていた。
でも、後ろのグループから聞こえてきた合言葉・・・
ひとつ、ちょうだい。
いいよ。
彼は別の子から、から揚げをもらって、油でベトベトな唇で、その子のほっぺにチュウをしていた。
私の初恋はあっけなく終わった。
ちなみに彼の弟も同じ様に、から揚げをもらってはお礼にチュウをしていたっけ。
*片思い・小学生~中学生*
本当の意味で恋をしたのは、小学校の高学年だった。
クラスというよりは、学校の人気者だった彼。
だれにでも優しくて、ムードメーカーだった彼は、いつだって皆の中心で笑っていた。
5年生で初めて同じクラスになって、嬉しかったな~。
彼と同じ係りや委員会はいつだって、彼目当ての女子の希望が殺到していた。
じゃんけんも弱く、クジ運の無い私は、そんなチャンスに恵まれる事もなく、あの日もみんなの輪の中心で笑っている彼を見ているだけだった。
クラスのお楽しみ会で、ドッジボール大会があった時に彼の投げたボールに当たった・・・接点はそれ位しか無かった。
運動会のフォークダンスも、あと二人という所で曲は終わった。
ただのクラスメートとして彼を思い続けて二年が経って、卒業間近の教室はサイン帳が飛び交っていた。
これ、書いてくれる?
おお、ええよ。いつ俺んとこに持ってくんのか、ずーっと待ってたんやで~。
翌日、彼が書いて来てくれたサイン帳を見てドキドキした。
運動会ではフォークダンスが踊れなくて残念でした。
もしも踊れたら、君の手を一番強く握ったのにな。
私は彼からのページを誰にも見せる事なく、手提げにしまい込んでそれ以降宝物にした。
同じ中学に入学してからも、彼は変わらず、その人柄と容姿も手伝ってか益々モテていた。
私は彼からのサイン帳に特別な思い入れがあり、中学に入ってからも彼が好きだった。
中学2年の時の宿泊研修の時・・・・
クラスの女子の間で、誰と誰が付き合っているとか、誰が告白したとか恋話で盛り上がっていた。
当然、彼が誰の事が好きなのかという話題になった時。
アイツの卒業ん時のサイン帳、ウケルよね~。
ああ、あれね!!
フォークダンスの時は、君の手を誰よりも強く握ったよ!
でしょ!?アイツさ、☆★が好きなんでしょう?
☆★は顔は可愛いけど、性格は最悪で同性に嫌われる典型的なタイプの女子だった。
思春期の恋とは不思議なもので、私はこの夜を境に、彼に対する好意も興味もすっかり無くなってしまった。
*憧れ・高校生*
高校に入学した私は、分かりやすくちょっとワルな先輩に憧れた。
新入生の歓迎会でバンドを組んでギターを弾きながら歌っていた彼だ。
彼にはファンクラブも存在しており、私は迷うことなくその仲間に入っていた。
体育祭でも文化祭でも仲間たちと一緒にキャーキャー騒いでいるのが楽しかった。
そして、そんな私たちに対して、愛想を振りまかない彼が最高にかっこいいと思っていた。
バレンタインが近づいたある日の事。
みんなでチョコレートを渡そうかと相談していた放課後。
一人の子が話し始めた。
あの先輩、毎年いっぱいチョコレート貰うから全部捨ててるって噂があるよ・・・。それに他の学校に彼女いるみたいだし。
捨てられるなら、チョコは止めにしようと皆で決めて、抜け駆けは無し!と約束をした。
しかし私は友達を裏切って、抜け駆けをした。
ちょっと後ろめたい気持ちもあったけれど・・・。
中学時代にモテていた女子はみんなこんな手を使っていたし・・・。
私は彼にバレンタインのプレゼントを渡そうと、一人準備していた。
バレンタインの当日、彼の家までチョコを届けようと自転車を走らせていた。
家に着く前に、公園のトイレで髪を梳かして、ちょっっとだけメイクをして・・・そう思って公園に入っていった。
・・・・ん?
あっ・・・・。
なんて事!!自転車で飛ばして来たから、髪はボサボサだし風は冷たかったから鼻は赤いだろうし。
抜け駆けしたバチが当たったと思った瞬間だった。
彼の周りには小学生が集まっていて、紙袋の中を皆で覗き込んでいた。
どれでも好きなの持ってってええから。
小学生たちは紙袋に群がっていた。
おい・・・。
・・・はい。チョコ捨ててないんですね。
当たり前や。全部は食べられへんし…捨てるのは悪いやろ、気持ち入ってんねから。
お兄ちゃん、ありがとう。
俺から貰ったって話したらアカンで。あっ、お前もな~。
はい。
そんで、お前は何しとんねん?
あっ、これを渡しに先輩の家に行こうと思いまして・・・。
途中でトイレを我慢できなくなったんか?ははははは。
あっ、いえ、違います。
なんでもええわ。お前もチョコ持ってきたんか・・・。
これは・・・さきいかと柿ピーです。
・・・俺な、甘いもの苦手やねん。これなら食えるわ。さんきゅ!
それじゃ、さよなら。
待って、送っていくわ。寒かったやろ。
大丈夫です、ありがとうございます。
あんなやさしい顔、初めて見たかも。彼、いい人なんだ。
帰り道の冷たい風は気にならない位、私の心も体も上気していた。
それから彼は、時々・・・
今日は公園におるから。
とこっそり教えてくれた。
時々公園で話すだけで嬉しかった。
そして、いつも自転車での帰り道で思うのだった。
抜け駆けして良かった!彼が甘いものが嫌いだって事、リサーチしておいて良かった!
女は時として、強かに生きなければと思うのだった。
*つづく*
*はじまり*
♪ Dancin’ to the music,baby Wanna take you higher ♪
今、お気に入りのバンドの歌が最近の私のアラームだ。
これは一緒に寝ている夫にはとても不評だ。
おはよう、おはよう。ちょ、お前な~、朝からあのアラーム音は無いやろ~。
どうして?
やかましいやんけ~。
あれ位の感じでテンション上げないと起きられないんだもん。
俺も目が覚めてまうからさ~・・・もっかい寝直すのもな~。
・・・・・・
ちょ、何で無視しとんねん!
自分だけ疲れてるみたいな言い方して。
忙しいねん。
私だって忙しいよ。
何がいな!エイトかて夜泣きもせんと、最近は朝までぐっすり寝とるやん。
そうだけど・・・。
何や、寂しいんか?がはははは!仕事が出来る男を亭主に持ったら、多少の寂しさはしゃあないやんけ!!
ちょっと前までは二人でゆっくり話す時間もあって、疲れた~って甘えたら、頭をナデナデしてくれたのにね。今はもう、まずは、何でやねん!二言目には何がいな!トドメの言葉は知らんがな!!
ほんだら、わしゃわしゃしたるで!
せっかくセットしたのに止めてよ。
なんでやねん!止めてって。お前がしてほしい、言うたからやないかい。
エイトとも遊ばないとアナタの顔忘れるわよ。
ほんでも仕事が忙しくてしゃあないねん。
そのうち、テレビに出てくるゴリラを見てパパって言うかもよ、ね~エイト!
お前、そんなネタどこで仕入れとんねん!朝からもう、お前のしょうもない愚痴に付き合ってる時間なんて無いねんぞ~。
行ってらっしゃい!!
おいおい、まだ行くって言うとらんぞ。
早よ、会社へいってまえ~!!
今日はママは御機嫌ナナメやぞ~、エイト~気ィつけや~。
ウホウホ言ってないで、早よ行け!ボケェ~。
二つ年下の彼と結婚したのは2年前。
元からラブラブだった訳じゃないけど、子供がうまれてからは私は家事と育児、彼は仕事で忙しい。
ねえ、エイト。パパみたいな男になっちゃダメよ。エイトは優しくて思いやりがあって・・・ママの理想の男性に育て上げるんだもん!
ママの理想はね・・・・。
これがよくよく考えてみると、私自身も私の理想がどんなタイプなのかが、まだ判らないのだ。
これまで好きになった人は、みんな違うタイプで誰一人として共通点を見出せないのだ。
好きになった人がタイプ・・・それが原因なのか愛や恋では痛い思い出ばかりだ。
*初恋・幼稚園*
私の初恋は幼稚園の年長さんの時。同じクラスの彼だった。
お弁当の時間に向かい合わせの席になった時の事。
彼は私のお弁当をじーーーーっと覗き込んでいた。
なあに、どうしたの?
から揚げ、ええな。うまそうやな~。
ひとつなら、あげるよ。
わ~、ありがとう!めっちゃうまい!
そうでしょう!ママのから揚げ美味しいんだから。
ねえ・・・。
ん?
チュッ!
さっきのから揚げのお礼のチュウね~!
から揚げの油が付いたままの唇でほっぺにチュウしてきた彼。
ママのから揚げを天使の様な笑顔で食べて、食後にお礼のチュウをしてきた彼が私の初恋の人だった。
それからは、お弁当の時間になって、から揚げが入っていると私も嬉しかった。
ひとつ、ちょうだい。
いいよ。
それが二人の合言葉になっていた。
夏休み明けの最初のお弁当の時間。
彼とは違うグループになってしまったけれど、ママはちゃんと私のリクエスト通りに、から揚げを入れてくれていた。
でも、後ろのグループから聞こえてきた合言葉・・・
ひとつ、ちょうだい。
いいよ。
彼は別の子から、から揚げをもらって、油でベトベトな唇で、その子のほっぺにチュウをしていた。
私の初恋はあっけなく終わった。
ちなみに彼の弟も同じ様に、から揚げをもらってはお礼にチュウをしていたっけ。
*片思い・小学生~中学生*
本当の意味で恋をしたのは、小学校の高学年だった。
クラスというよりは、学校の人気者だった彼。
だれにでも優しくて、ムードメーカーだった彼は、いつだって皆の中心で笑っていた。
5年生で初めて同じクラスになって、嬉しかったな~。
彼と同じ係りや委員会はいつだって、彼目当ての女子の希望が殺到していた。
じゃんけんも弱く、クジ運の無い私は、そんなチャンスに恵まれる事もなく、あの日もみんなの輪の中心で笑っている彼を見ているだけだった。
クラスのお楽しみ会で、ドッジボール大会があった時に彼の投げたボールに当たった・・・接点はそれ位しか無かった。
運動会のフォークダンスも、あと二人という所で曲は終わった。
ただのクラスメートとして彼を思い続けて二年が経って、卒業間近の教室はサイン帳が飛び交っていた。
これ、書いてくれる?
おお、ええよ。いつ俺んとこに持ってくんのか、ずーっと待ってたんやで~。
翌日、彼が書いて来てくれたサイン帳を見てドキドキした。
運動会ではフォークダンスが踊れなくて残念でした。
もしも踊れたら、君の手を一番強く握ったのにな。
私は彼からのページを誰にも見せる事なく、手提げにしまい込んでそれ以降宝物にした。
同じ中学に入学してからも、彼は変わらず、その人柄と容姿も手伝ってか益々モテていた。
私は彼からのサイン帳に特別な思い入れがあり、中学に入ってからも彼が好きだった。
中学2年の時の宿泊研修の時・・・・
クラスの女子の間で、誰と誰が付き合っているとか、誰が告白したとか恋話で盛り上がっていた。
当然、彼が誰の事が好きなのかという話題になった時。
アイツの卒業ん時のサイン帳、ウケルよね~。
ああ、あれね!!
フォークダンスの時は、君の手を誰よりも強く握ったよ!
でしょ!?アイツさ、☆★が好きなんでしょう?
☆★は顔は可愛いけど、性格は最悪で同性に嫌われる典型的なタイプの女子だった。
思春期の恋とは不思議なもので、私はこの夜を境に、彼に対する好意も興味もすっかり無くなってしまった。
*憧れ・高校生*
高校に入学した私は、分かりやすくちょっとワルな先輩に憧れた。
新入生の歓迎会でバンドを組んでギターを弾きながら歌っていた彼だ。
彼にはファンクラブも存在しており、私は迷うことなくその仲間に入っていた。
体育祭でも文化祭でも仲間たちと一緒にキャーキャー騒いでいるのが楽しかった。
そして、そんな私たちに対して、愛想を振りまかない彼が最高にかっこいいと思っていた。
バレンタインが近づいたある日の事。
みんなでチョコレートを渡そうかと相談していた放課後。
一人の子が話し始めた。
あの先輩、毎年いっぱいチョコレート貰うから全部捨ててるって噂があるよ・・・。それに他の学校に彼女いるみたいだし。
捨てられるなら、チョコは止めにしようと皆で決めて、抜け駆けは無し!と約束をした。
しかし私は友達を裏切って、抜け駆けをした。
ちょっと後ろめたい気持ちもあったけれど・・・。
中学時代にモテていた女子はみんなこんな手を使っていたし・・・。
私は彼にバレンタインのプレゼントを渡そうと、一人準備していた。
バレンタインの当日、彼の家までチョコを届けようと自転車を走らせていた。
家に着く前に、公園のトイレで髪を梳かして、ちょっっとだけメイクをして・・・そう思って公園に入っていった。
・・・・ん?
あっ・・・・。
なんて事!!自転車で飛ばして来たから、髪はボサボサだし風は冷たかったから鼻は赤いだろうし。
抜け駆けしたバチが当たったと思った瞬間だった。
彼の周りには小学生が集まっていて、紙袋の中を皆で覗き込んでいた。
どれでも好きなの持ってってええから。
小学生たちは紙袋に群がっていた。
おい・・・。
・・・はい。チョコ捨ててないんですね。
当たり前や。全部は食べられへんし…捨てるのは悪いやろ、気持ち入ってんねから。
お兄ちゃん、ありがとう。
俺から貰ったって話したらアカンで。あっ、お前もな~。
はい。
そんで、お前は何しとんねん?
あっ、これを渡しに先輩の家に行こうと思いまして・・・。
途中でトイレを我慢できなくなったんか?ははははは。
あっ、いえ、違います。
なんでもええわ。お前もチョコ持ってきたんか・・・。
これは・・・さきいかと柿ピーです。
・・・俺な、甘いもの苦手やねん。これなら食えるわ。さんきゅ!
それじゃ、さよなら。
待って、送っていくわ。寒かったやろ。
大丈夫です、ありがとうございます。
あんなやさしい顔、初めて見たかも。彼、いい人なんだ。
帰り道の冷たい風は気にならない位、私の心も体も上気していた。
それから彼は、時々・・・
今日は公園におるから。
とこっそり教えてくれた。
時々公園で話すだけで嬉しかった。
そして、いつも自転車での帰り道で思うのだった。
抜け駆けして良かった!彼が甘いものが嫌いだって事、リサーチしておいて良かった!
女は時として、強かに生きなければと思うのだった。
*つづく*