今までバイクに乗っていたというH様にSJ30V(2スト)をお買い上げいただいた。
この手のクルマを誰にでも売るわけには行かない。
“この手”とは今回の場合は「チョーク付」と「2スト」だ。
昨今ではオートチョークを含め、チョークを知らない世代が圧倒的に増えた。
YJラングラーを業者オークションにて落札し馴染みの陸送屋に頼んだ時のことだ。
当店前で積載車から下ろす際、エンジンが掛からないと言う。
これはオートチョークだ。
ジープJ59を出品するため会場への搬入を依頼した時もそうだ。
キーを渡して横で見ていたが掛けられない。
こちらは手動チョークだ。
YJの時とはドライバーは違うがいずれも20歳代に見えた。
どちらも私が掛けてやった。
これが原因とは思わないが、その頃以降、旧車の引き取りで手間取る場合は割増料
金にして欲しいと言い出した。
冗談じゃない!
何でドライバーの力量不足をこちらが面倒見た上、追加の金まで払わなければならない
のだ!
時を前後して他の陸送屋からも同様の通知が来ていたことを知っていたので、ちょ
っとばかりぐちゃぐちゃ文句を言った上でやむなく了承した。
チョークの役目はエンジンが冷えている時の始動時、燃料を濃くして掛かり易くす
ることだ。
このため“かぶる”危険と隣りあわせなわけで、セルの回し始めはチョークを効かせて濃
く、掛からずにかぶりそうなら戻して薄く、このタイミングが問題だ。
オートチョークはこれを“オート”でやるのではない。
アクセルペダルを踏むことによって利かせたり解除したりする必要があるのであっ
て、車がかってに“自動”でやってくれるのは電気制御のインジェクション以降
なのだ。
チョークを利かせたり解除したりは経験に基づく感覚に頼るからややこしい。
もちろん一旦掛かってしまえばエンストしないようにすればいいのだからなんとな
く判る。
それでも今風のようにすぐ走り出してエンストでもさせるとややこしいが。
問題は掛からないときだ。
ついついアクセルペダルをパタパタあおってしまう。
燃料ポンプ付きの場合はこれでプラグはびしょびしょで、外して掃除をしなければ
まず掛からない。
また、チョークが効いているまま掛からないからとセルを回し続けてもそうなる。
こう説明していてもとても説明しきれるものではないのでもうやめる。
これは言葉ではなく、身をもって経験しないととても理解できない世界なのだ…。
もう一つは2ストロークエンジンだ。
オートバイには馴染みのこのメカニズムも、車から外されてすでに20年にはな
る。
とにかくエンジン音が独特だ。
そして青味がかった白い排気ガスを出す。
スロー回転もなんとなく不安定なことが多い。
そこら辺を若い女性客なんかに「エンジンがヘンですね」なんと言われた時などは
無性に腹が立つ。
「2ストはこんなもんですよ」と言うと「なんですかそれ」ときたもんだ!
いつの頃からか、車はキーをひねればエンジンが掛かり、そのまますぐに走り出せ
る便利な機械になった。
作る側も女性客を重要なターゲットに据えた車造りをして台数を伸ばそうと躍起
だ。
それはそれでもちろん理解できるし、それで良いのだろう。
そんな車が一般的になったためか、形からストレートに車選びをする若い女性客
には「2スト」も「チョーク」も関係なく“数多くの車の中の一種類”に過ぎな
い。
先日もYJラングラーを見たい、と来店された女性がいた。
「これはやめた方がいいですよ」
「なぜですか」
「説明は難しいけどオートチョークだから面倒ですよ」
「そんな車は存在価値がないですね」
「・・・。」
“この手”の車は誰にでも売るわけにはいかないのだ。
クルマに乗り手を選ぶ権利はなく、商売でやる以上は売り手も買い手を選ぶ権利は
ない。よしんば権利はあっても、売れても売れなくてもどちらでもいい、という余裕が
ないと欲しいお客様を断ることなどできるはずがない。
大切な商品を“存在価値がない”とまで言われて心の中で泣いても、そのクルマの
存在価値を認めてくれるお客様に出会うことを祈りながら、今日も頑張ろうと思
う。