身元不明の遺体の捜索で、歯医者のカルテが有力情報と聞く。
35歳の頃から“歯磨き”に目覚めた動機は不純だ。
男の間には昔から「歯、目、マラの順に年老いる」との“言い伝え”がある。
若年の砌だったジージはそれをそのまま信じ「だったら歯の老いを遅らせれば目、
マラも玉突き的に遅れるはず」との結論を導き出した。
日常できる歯の管理と言えば歯磨きしかないわけで、後は定期的に歯医者に出向き
歯垢の除去を含めた定期健診をする以外にはやりようがない。
こうして目覚めた歯磨きはこの後10年掛かって完璧を極めた。
今でも夜は2本の種類の異なる歯ブラシを30分程くわえているし、毎食後必ず磨いてい
る。
今は嫁いでしまった2人の娘に、父親としてこれと言って処世訓めいたものは何一つとし
て教え込んだ記憶もないが、唯一受け継いでくれたものは「歯磨きの習慣」かもしれな
い。
姉は歯医者に「綺麗な歯だね」と写真を撮られたこともあると聞いた。
その孫達も歯磨きをイヤがらずにしているのを見ると嬉しくなる。
障害犬“ぺぺ”も子犬の頃からひっくり返して歯磨きをしているが、こちらは12年間も
やっているのにいっこうに慣れてはくれないので、全ての歯を一通り擦るのが精一杯だ。
あまり嫌がるので半年くらい止めたことがあるが、歯の根っこの方に茶色の硬い膜が付着
し出して爪で引っ掻くとぺロッとはがれる。
これはまずいと再開したらなくなった。
父親の甘い物好きが遺伝して幼少の頃から、このなく菓子パンや大福、だんごの餅菓子を
愛したものだから、歯医者は唯一のなじみの医者となっていた。
もともと「受け口」も遺伝で受け継ぎ、小学校低学年の頃には軽い矯正治療も受けたこと
があったのだ。
親の代から歯医者はU歯科と決まっていて50歳になるまで他に浮気することなくここに
通っていたのだが、年に1度、ちょうどゴールデンウィーク辺りに必ず奥歯の歯茎が炎症
を起こすようになったのは、45歳を過ぎた頃からだった。
U歯科でその奥歯を治療していた関係もあり、その都度お世話になっていたが、行く度に
治療する内容は、「これは効くよ」と薬を塗布し痛み止めの薬の処方箋をよこすだけだ。
さすがに、年に一度必ずはおかしいのでは、と思って別の歯医者に行ってみようと決断し
たのは50歳の頃だったのだ。
若先生は老先生に比べて腕が悪い、という評判を聞いていた影響もあった。
この決断がその後、ジージの歯に大きな影響を与えることとなる。