「なかのよい子供たちが遺産分割でもめることはないはずで
わざわざ遺言など必要ないのでは…」
「多額な遺産があるならまだしも
もめようにももめられない程度の財産だから…」
意外に多くの方がそうおっしゃるように
波平もそう思っていたかもしれません。
たとえ僅かであっても(磯野家は僅かではありません)
宝くじと違って目の前に確実に手に入るお金やモノがあるですから
もらう側からすると「もらえるものなら少しでも多く」と思うのが人情というものですし
それよりもなによりも、波平が死んでしまった後のことは
まったく分からないと考えた方がよいのです。
「家族を信じたい」「ウチの家族はうまくやってくれる」という想いが
フネはともかく、サザエやカツオ、ワカメのすべてに届くとは限りませんし
そもそも、親が思っているほど、子供たちの仲が良いとは限らないのでは?
さらにそこに、マスオさんのような相続人の配偶者などによる
「10歳代の子供と同じだけしかもらえないなんて」などの
“第三者の思惑”も加わってくる上、磯野家の場合
未成年のカツオとワカメには代理人が立ってくるのです。
こうしたトラブル回避のため、「ウチには必要ない、という考えは
すぐに捨ててください」とほとんどの専門家はアドバイスなさいます。
一方で、遺言を残すことによって
「何を相続させたいか」という意志を伝える効果も重要です。
世話をしてくれたサザエに
カツオやワカメよりも多くの財産を残したい場合や
「この土地と建物はフネにあげたい」
「この大切な宝石はサザエに持っていて欲しい」など
相続させる財産を指定するには、遺言で指示しなければ叶わないのです。
(もちろん、遺留分の侵害には注意が必要です*)
そうしなければ、相続人全員が集まって
法律に定める相続分に従った画一的な振り分けになってしまい
波平の意志が実現することはないでしょう。
それはそうで、波平の意思そのものが
はっきりと伝わっていないのかもしれないのですから。
たとえ子供たちの仲がそれほど悪くない場合でも
こうした話し合いがまとまらなければ
時間も労力も長期に渡り、精神的な負担は大きなものになるでしょうし
その後の仲に悪い影響を及ぼしたり、さらには疎遠になることも考えられます。
このように、遺言の直接の効果はたくさんあるのですが
結果として、間接的に家族を守ることにつながるのです。
(*)… 遺留分を侵害しているからといって遺言書が無効になることはないのですが
遺留分減殺請求がされた場合にはそれに従わなければなりません。