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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
「白太坊はいい子だねえ。坊のような子は、
観音さまに可愛がられ るよ。お膝にダッコもしてくれるかな。
ぽたらのお国はな、年中暖ったかいんだよ。
裸で、いつでも泳げるんだよ。
それにバナナと言ってな、
一口食べると、舌がとろけそうになる、
おいしい果物だってあるんだよ。
バナナは黄色くてな、坊やの腕ぐらいあって、
手で皮をむいで食べるんだそうだよ。
実は柔らかくて、がぶりとかじると、
もうお江戸が見えるぐらいのおいしさだそうだよ。
そのバナナが、木にいっぱいぶらさがっていて、
いくらでも食べていいそうだよ」
「おしょさん、オイラそんな所へ連れてってくれるの」
言葉が、少しだけ不自由なようです。
眉は愛敬のある八の字で、眼球はかなり寄っていて、
赤い唇が印象的でありました。
「そうだよ。坊やは素直なよい子だから、
観音さまがお出って呼んで下さるんじゃよ」
「わーっ、やったぁ」
乳のみ児を抱えた白太の母親は、ほつれ毛で隈を落とした
目に涙を浮かべております。
ぽたら送りをしても、皆がみんな、死んでしまうというわけでは
ありません。現に、生きて帰って来ている人もいるということも
聞かされております。
観音さまのご慈悲で、白太の頭も人並みに働き出すようになる
かも知れません。このまま、大きくなっても、他人にいいように
振り回されて、人間らしい生活など出来るかどうかも、
わかりません。
きっと嫁になるような女の子もいないでしょう。
悪の手先となって人の言うままになり、
お上のご厄介にならないとも限りません。
兄弟の足も、引っ張ることでしょう。
人間として生まれきたのに、家畜のような生活を
送らせるのには、忍びなかったこともありましょう。
それに、小作料を6割近くも取られる家計では、
5人もの子供を養っていくのが、土台無理なのでございます。
白太にもう少し知恵があり、身体も頑丈でありましたなら、
町に出して丁稚にでもという手立てもあったのでしょうが、
この子を受け入れてくれるような、おおらかな世では
ありませんでした。
白太坊のぽたら送りには、そんな事情もあったようです。
12才にもなって、満足に弟や妹の子守一つ出来ない
ものですから、両親も思い余ってのことと思います。
次は、おカネ婆さんの番でございます。
1年ほど前に、床についたきり、最近では「死にたい」を
口癖にしているようです。
身体が思うようにならないものですから、気むずかしくなって
いて、とても扱いにくいようです。
ほっそりとした身体に、落ち窪んだ目が力なくついている
ような感じでございます。
下の世話は、嫁の手を借りねばなりません。
実の娘も、近在に二人ばかり嫁いでいるのでございますが、
昼間、見舞いに来てはそそくさと帰るようでございます。
実の親が寝込んでいましても、泊まって下の世話をしようなど
とは、夢にも思っていないのでしょう。
自分は家を出た人間なのだから、家の中のことは、
家の中で始末すればいいと、己の都合のいいように
割り切っているのでしょうか。
見舞いの最中に、母親が便意をもよおしてきても、
嫁を呼びつけるような始末です。
おカネ婆さんの亭主は、3年ほど前に老衰で亡くなりました。
それからのおカネ婆さんは、魂の抜けたような生活をして
おりました。
病魔は、そんな状態のおカネ婆さんを狙い打ちにした
のでしょうね。
つづく
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
「白太坊はいい子だねえ。坊のような子は、
観音さまに可愛がられ るよ。お膝にダッコもしてくれるかな。
ぽたらのお国はな、年中暖ったかいんだよ。
裸で、いつでも泳げるんだよ。
それにバナナと言ってな、
一口食べると、舌がとろけそうになる、
おいしい果物だってあるんだよ。
バナナは黄色くてな、坊やの腕ぐらいあって、
手で皮をむいで食べるんだそうだよ。
実は柔らかくて、がぶりとかじると、
もうお江戸が見えるぐらいのおいしさだそうだよ。
そのバナナが、木にいっぱいぶらさがっていて、
いくらでも食べていいそうだよ」
「おしょさん、オイラそんな所へ連れてってくれるの」
言葉が、少しだけ不自由なようです。
眉は愛敬のある八の字で、眼球はかなり寄っていて、
赤い唇が印象的でありました。
「そうだよ。坊やは素直なよい子だから、
観音さまがお出って呼んで下さるんじゃよ」
「わーっ、やったぁ」
乳のみ児を抱えた白太の母親は、ほつれ毛で隈を落とした
目に涙を浮かべております。
ぽたら送りをしても、皆がみんな、死んでしまうというわけでは
ありません。現に、生きて帰って来ている人もいるということも
聞かされております。
観音さまのご慈悲で、白太の頭も人並みに働き出すようになる
かも知れません。このまま、大きくなっても、他人にいいように
振り回されて、人間らしい生活など出来るかどうかも、
わかりません。
きっと嫁になるような女の子もいないでしょう。
悪の手先となって人の言うままになり、
お上のご厄介にならないとも限りません。
兄弟の足も、引っ張ることでしょう。
人間として生まれきたのに、家畜のような生活を
送らせるのには、忍びなかったこともありましょう。
それに、小作料を6割近くも取られる家計では、
5人もの子供を養っていくのが、土台無理なのでございます。
白太にもう少し知恵があり、身体も頑丈でありましたなら、
町に出して丁稚にでもという手立てもあったのでしょうが、
この子を受け入れてくれるような、おおらかな世では
ありませんでした。
白太坊のぽたら送りには、そんな事情もあったようです。
12才にもなって、満足に弟や妹の子守一つ出来ない
ものですから、両親も思い余ってのことと思います。
次は、おカネ婆さんの番でございます。
1年ほど前に、床についたきり、最近では「死にたい」を
口癖にしているようです。
身体が思うようにならないものですから、気むずかしくなって
いて、とても扱いにくいようです。
ほっそりとした身体に、落ち窪んだ目が力なくついている
ような感じでございます。
下の世話は、嫁の手を借りねばなりません。
実の娘も、近在に二人ばかり嫁いでいるのでございますが、
昼間、見舞いに来てはそそくさと帰るようでございます。
実の親が寝込んでいましても、泊まって下の世話をしようなど
とは、夢にも思っていないのでしょう。
自分は家を出た人間なのだから、家の中のことは、
家の中で始末すればいいと、己の都合のいいように
割り切っているのでしょうか。
見舞いの最中に、母親が便意をもよおしてきても、
嫁を呼びつけるような始末です。
おカネ婆さんの亭主は、3年ほど前に老衰で亡くなりました。
それからのおカネ婆さんは、魂の抜けたような生活をして
おりました。
病魔は、そんな状態のおカネ婆さんを狙い打ちにした
のでしょうね。
つづく