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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
人間以外の目を必要とする動物なら、何年も生きられないので
ありましょうが、盲目でも生きられるということが、人の世の
いいところであり、素晴らしいことでもあるのでしょう。
モノが見えるということは、普通の人にとって
当たり前のことではあっても、数十万人も、この国にいるという
盲目の人にとっては、咽喉から手の出るほど欲しい
人間の一つの機能なのであります。
私も、医学の力で何とかならないものかと日夜祈り続けて
おりますが、いくら経っても祈りは通じないようであります。
こればかりはどうしようもありません。
いや、私に出来ることなど何一つないと言った方が
あたっているのでございましょう。
それだからこそ、多くの事を知り学びたいのでございます。
皆様のお役に立てるような日など、
果たしてやってくるのでしょうか。
今は、ただひたすら努力するのみでございますが・・・
「お美代さんとか言ったね。私は、観在寺という寺の坊主で、
ありがたい観音様にお仕えしているものだよ」
「これは、お坊さま。初めまして。また、私に何か?」
声は可愛らしく、穏やかな顔つきをしております。
きっと大事に育てられているのでしょう。
「壷阪寺の観音さまのお話は、ご存じかな」
「はい、最近流行のお話でございますね。沢市さんのような、
ご加護がもらえますようにと観音さまのみ名を、
毎日お唱え申しあげております。
両親と大和の国の壷阪さまにもお参りにゆきました。
けれど・・・」
「それは、感心なことじゃのう。それより、
その観音さまが住んでおられるという国に行って見る気は
ないかい?」
「えっ、観音さまがいらっしゃるんですか?」
「そうじゃ、インドという海を越えた国にな。
ぽたらかという八角形の、それは美しい光輝くお山が
あるのじゃ。よい香りのする草花、きれいな泉、色鮮やかな
鳥たちのさえずり。それはもう見事なものじゃそうな。
それに、インドというお国はな、お釈迦さまのふるさとでな、
そのお足元に観音様が住んでおられるのじゃ。
その観音さまに直接会って、お願いすれば、
お前の目など一発で、パッと開くぞ」
「ええっ! ほんとうに。お坊さま、
いいことを教えて下さいました。
ぜひ、そのぽ・・とか申す国に行ってみたい。
どうすれば行けるのでしょう」
頬が紅潮しております。
「愚僧にまかしておけ、お前の両親にも頼んでおいてやろう」
ニッと笑った唇からは、いつも出ている下歯が、
さらに見えておりました。この話は、お美代さんの
両親から持ちこまれたものです。
それを、大権和尚の力で説得したようにすることで、
手数料の何割かのアップになるものですから、
和尚は、あの手この手で攻めてゆきます。
だんだん場慣れもしてきているのでしょう。
本人をその気にさせて扇動するだけ扇動しておいて、
小舟に乗る気にさせればいいのです。
舟が沈めば、それで一巻の終りです。
しかし、クソ坊主に騙されたとは、ほとんどの者が
思っていないでしょう。
運が悪くて、ぽたら浄土には行けなかったと、
溺れ死ぬまでの数分間に、
思い起こすような余裕があるのかどうか疑問ですが、
例えそうなったとしても和尚の所為とは、
恐らく考えないでしょう。
この世からつまはじきされたり、生きる望みの薄くなった
者ばかりですので、危険を承知で出掛けて行くのです。
うすうすと感じてはいるのでしょうが、ぽたら浄土への
憧れの方がが大きく膨らんでいますから、
救われているのでありましょう。
お美代さんの両親にしましても、可愛い娘をぽたらなどというわけ
のわからぬ、あるかどうかも知れない国に送りたくはなかったの
ですが、盲目の女が、この世でまっとうに暮らしていけるとは思っ
ておりません。
悪い男に騙され身を玩ばれる可能性もあります。
始終一緒に いてやるわけにもまいりません。それに一生お嬢さま
ぐらしをさ せるほど裕福でもありません。
ゆくゆくは自分たちが死ぬ時には、道連れにしようと相談もしてい
たようです。
しかし、親として娘を直接手に掛けるわけにもまいりません。
年を取れば、力も無くなり、そんなことも出来なくなるやも
しれません。それならば、娘ざかりになるまでに、
何とかしてやろう ということになったようです。
年は14才になったばかりでございま す。
大権和尚の悪知恵努力の結果、今年も何とか円満に、
ぽたら送りが出来ることと相成りました。
つづく
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
人間以外の目を必要とする動物なら、何年も生きられないので
ありましょうが、盲目でも生きられるということが、人の世の
いいところであり、素晴らしいことでもあるのでしょう。
モノが見えるということは、普通の人にとって
当たり前のことではあっても、数十万人も、この国にいるという
盲目の人にとっては、咽喉から手の出るほど欲しい
人間の一つの機能なのであります。
私も、医学の力で何とかならないものかと日夜祈り続けて
おりますが、いくら経っても祈りは通じないようであります。
こればかりはどうしようもありません。
いや、私に出来ることなど何一つないと言った方が
あたっているのでございましょう。
それだからこそ、多くの事を知り学びたいのでございます。
皆様のお役に立てるような日など、
果たしてやってくるのでしょうか。
今は、ただひたすら努力するのみでございますが・・・
「お美代さんとか言ったね。私は、観在寺という寺の坊主で、
ありがたい観音様にお仕えしているものだよ」
「これは、お坊さま。初めまして。また、私に何か?」
声は可愛らしく、穏やかな顔つきをしております。
きっと大事に育てられているのでしょう。
「壷阪寺の観音さまのお話は、ご存じかな」
「はい、最近流行のお話でございますね。沢市さんのような、
ご加護がもらえますようにと観音さまのみ名を、
毎日お唱え申しあげております。
両親と大和の国の壷阪さまにもお参りにゆきました。
けれど・・・」
「それは、感心なことじゃのう。それより、
その観音さまが住んでおられるという国に行って見る気は
ないかい?」
「えっ、観音さまがいらっしゃるんですか?」
「そうじゃ、インドという海を越えた国にな。
ぽたらかという八角形の、それは美しい光輝くお山が
あるのじゃ。よい香りのする草花、きれいな泉、色鮮やかな
鳥たちのさえずり。それはもう見事なものじゃそうな。
それに、インドというお国はな、お釈迦さまのふるさとでな、
そのお足元に観音様が住んでおられるのじゃ。
その観音さまに直接会って、お願いすれば、
お前の目など一発で、パッと開くぞ」
「ええっ! ほんとうに。お坊さま、
いいことを教えて下さいました。
ぜひ、そのぽ・・とか申す国に行ってみたい。
どうすれば行けるのでしょう」
頬が紅潮しております。
「愚僧にまかしておけ、お前の両親にも頼んでおいてやろう」
ニッと笑った唇からは、いつも出ている下歯が、
さらに見えておりました。この話は、お美代さんの
両親から持ちこまれたものです。
それを、大権和尚の力で説得したようにすることで、
手数料の何割かのアップになるものですから、
和尚は、あの手この手で攻めてゆきます。
だんだん場慣れもしてきているのでしょう。
本人をその気にさせて扇動するだけ扇動しておいて、
小舟に乗る気にさせればいいのです。
舟が沈めば、それで一巻の終りです。
しかし、クソ坊主に騙されたとは、ほとんどの者が
思っていないでしょう。
運が悪くて、ぽたら浄土には行けなかったと、
溺れ死ぬまでの数分間に、
思い起こすような余裕があるのかどうか疑問ですが、
例えそうなったとしても和尚の所為とは、
恐らく考えないでしょう。
この世からつまはじきされたり、生きる望みの薄くなった
者ばかりですので、危険を承知で出掛けて行くのです。
うすうすと感じてはいるのでしょうが、ぽたら浄土への
憧れの方がが大きく膨らんでいますから、
救われているのでありましょう。
お美代さんの両親にしましても、可愛い娘をぽたらなどというわけ
のわからぬ、あるかどうかも知れない国に送りたくはなかったの
ですが、盲目の女が、この世でまっとうに暮らしていけるとは思っ
ておりません。
悪い男に騙され身を玩ばれる可能性もあります。
始終一緒に いてやるわけにもまいりません。それに一生お嬢さま
ぐらしをさ せるほど裕福でもありません。
ゆくゆくは自分たちが死ぬ時には、道連れにしようと相談もしてい
たようです。
しかし、親として娘を直接手に掛けるわけにもまいりません。
年を取れば、力も無くなり、そんなことも出来なくなるやも
しれません。それならば、娘ざかりになるまでに、
何とかしてやろう ということになったようです。
年は14才になったばかりでございま す。
大権和尚の悪知恵努力の結果、今年も何とか円満に、
ぽたら送りが出来ることと相成りました。
つづく