copyright (c)ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
どうやら、二人は知り合いのようだったようですね。
若い時に恋人同士だったようです若い頃、隣村同士に
住んでいたようですが、カネさんは、百姓の娘、喜助さんは
の生まれ。身分の違いから、二人は結婚出来なかった
ようです。いろいろとあったんでしょうね。
「そうか、こんなところで」
「ぽたらじゃ、ぽたらじゃ。長生きしてよかった。
喜助さんに会えるなんて」と言いながら、激しく泣き始めました。
薄い白髪の頭に寝たきりでも、心は15~6の娘盛りに
還っているのでしょうね。
「昔の罪滅ぼしじゃ。儂が面倒みてやる。先程はすまなかったのう。
こんな干涸び男で、歯も無いハゲじゃが、辛抱しておくれ」
「もったいなや。もったいなや。なも、カンボー」
両の手を擦り合わせております。
喜助ジィさんは、手桶を取り、上に捨てにゆこうとした途端、
またひっくり返ってしまいました。
運が悪いことに、今度は手桶の中のものを体中に浴びて
しまったようです。頭も打ったのでしょう。またまた、
幼い子供のような泣き声をあげて泣き始めました。
「痛いよう、おバァちゃん」
「よしよし、こちらにおいで」
おカネさんの喜助さんを見る慈愛に満ちた眼差し、
とても真似のできるようなものではありません。
頭を撫でてもらっている喜助さんの安らかなこと。
やはり、ここはぽたらなのでありましょうか。
さきほどの尿が私を入れた箱にもかかりましたので、
白太ちゃんが、上に上がって潮水ででも洗い流そうとして、
くれるのでしょう。上に連れられてまいりました。
その時です。甲板に置いてあった綱に足が取られたのでしょう。
私を入れた箱が、ぽたーんと海の中に落ちてしまいました。
すさまじいほどの白太ちゃんの叫び声を後にしながら、
私は、海水に少しばかり沈み加減で、みんなと別れて、
一人漂う身となりました。
「ああー。オイラ、アホのままだーっ。
ぽたらに行っても、カンノンさまに、
言うこと聞いてもらえねぇーっ」
海の中に飛び込もうとしているのを、
秀作さんに抱き止められているようです。
白太ちゃんの叫び声が、
今も耳の中でじんじんと響いております。
あれから、あの人たちはどうなったのでしょう。
私は何日か漂流の後、
小さな島の浜辺に打ち上げられました。
そして、今は、その島の小さな観音堂の中の片隅で、
ぽたら観音としての生活を送っているのであります。
あの人たちの教えてくれた人の暖かさというものを、
しみじみと味わいながら、私なりのぽたらの国の建設を、
思い描いているのでございます。
そろそろ、このあたりで筆を置きたいと存じます。
それからの私は、お堂の中に篭もりっきり。
取り立てて書くこともございせん。
ただ、ぽたら送りが、今も行なわれているのかどうか、
定かではありませんが、風のたよりでは、
いい風習であったという声も聞かれる、
今日このごろであります。
Praying hands
おわり