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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
寝たきりとは言え、頭は喜助ジィさんや白太ちゃんよりは、
まだしっかりしているし、目も老眼とはいえ、
美代さんに比べると月とスッポンのような違いがあります。
口も達者です。この船では、貴重な存在のようですね。
ご飯の炊き方まで、「始めちょろちょろ、中ぱっぱ・・」と、
叫んでくれているようです。
お嬢さん育ちの秋乃さんにとっては、
とってもありがたいお声のようですね。
朝ご飯も出来上がりましたので、みんなで船倉での朝食が
始まりました。おカネ婆さんは、下の世話のお返しにと、
美代さんに食べさせてあげるというのですが、
高さが合いません。
1~2回箸を運んで、
「手がだるい、こりゃあかんわ。ごめんね、美代ちゃん」
と止めてしまいました。
「いいのよ」
「オイラ、食べさせてあげるよ」
「いいのよ。私、いつも一人で食べていたのだから」
ご飯に味噌汁をかけてもらうように頼んでから、
自力で食べております。右手にお茶碗を持って口にあてたまま、
左手の指でかき込んでおります。
その方が食べやすいのでしょうね。
美代さんの知恵でもあるのでしょう。左手は不浄という国も
ありますが、美代さんの右手は、美代さんにとっては、
不浄なのかもしれません。右手は、下の方でお世話になる
手なのですから。
ご飯は少しシンが残って固く、味噌汁は薄味でしたが、
誰も文句はいいません。
白いお米のご飯は、みんなには大ご馳走なのです。
秋乃さん以外の者は、白いお米ばかりのご飯など口にするのは
珍しかったのでしょう。
稗や粟や麦のご飯が大半だったのではないのでしょうか。
それよりも、秀作さんのあの嬉しそうな顔、
みなさんにお見せしたかった。
生まれて初めて愛する人の手料理を食べる男の人の顔って、
いいものですね。あんな顔、一生続けてあげたら夫婦げんかなど
無くなるでしょうね。本当に、人間っていい表情を
たくさん持っているのですね。
「お姉ちゃん、お代わりっ」
キーやんが、お代わりを要求します。
「おジィさん、そんなに食べて大丈夫?」
「オラ、キーやん。お腹ちっとも太らねえ」
「こいつ、5杯めだよ。もう、止めとき。ご飯は一杯以上、食うもん
じゃねえ。オイラ、いつも水飲んでるんだ。
こんな白いママ、何年も食ってねえ。昨日だってお粥さんだったん だよ」
白坊は、一杯だけ食べてから、水をごくんごくんと飲み始めました。
「白太ちゃん、何杯お代わりしてもいいのよ」
「もういいよ。だって、オイラ、アホだもん」
皆は、しゅんとしてしまいました。
おカネ婆さんは、秋乃さんに食べさせてもらって、
一箸ごとに、
「もったいなや」と手を合わせております。
お米と村長の娘さんという、雲の上のような存在が
二つも揃ったので大感激しているようです。
つづく