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絵じゃないかぐるーぷ
* タタラ丘の不可思議な壁画
そんなある日のこと、オヅヌは、
竹の生えた小高い丘の斜面で、
小さな穴を見つけた。
その丘は、タタラ丘と呼ばれていて、
ほとんど人は近づいてゆかなかった。
オヅヌは、タタリを恐くはなかった。
それよりも、悪友のイジメに遭う方が、
よほど辛かったのである。
その丘のそばには、子供は絶対に寄りつかなかった。
数日前、数人の子供に追われて、
この丘に逃げ込んだのである。
丘の数10m手前で、その悪がきたちは、
「タタラの丘に逃げ込みおった。
タタラれるぞ。逃げろ。逃げろ」と言って、
蜘蛛の子を散らすように、去っていったのである。
オヅヌは、そんな彼らの様子を見ていて、
いい場所を発見したと思った。
誰にも邪魔されず、自由にのびのびと、
過ごせる場所のように思えた
穴は、薄暗く斜めに走っていて、
奥の方に、かすかな明かりが見えていた。
這って数mも進むと、石に囲まれた、
小さな部屋に滑り落ちた。
さいわい擦り傷程度で済んだ。
足を拡げて滑り止めにした事も幸いしたのだろう。
どこからともなく、明かりがさしていた。
その明かりの方に向かって、さらに進んだ。
少し開いた石のドアがあった。
光は、そこから漏れてきているのである。
そっと覗きこんでみた。
真ん中に石の棺が置かれ、四方の壁や天井が、
光っていたのである。
その壁を、よく見ると、亀や鳥や虎の、
色鮮やかな絵が、書かれていた。
その時である。
正面の亀に巻きついた蛇の眼が、
キラリと、光った。
「坊、よく来たな。入ってこい」
蛇は、顔に似ず、優しい声で、
呼び掛けてきた。
それとともに、石のドアが、するすると開いて、
オヅヌの身体は、宙を浮いて、
中に引き込まれていった。
オヅヌは、震えた。
「恐がらなくともよい。
お前には、何もしない。ちょっと心を見せろ」
後の壁、ドアの石の裏には、赤い鳥の絵があった。
その四方の壁から、まばゆいばかりの光線が放たれ、
オヅヌの身体を照らしだした。
「見たところ、根はそう悪人でも無さそうだしかし、
お前の心は、汚れて切っておる。その汚れている心が、
私たちの活力なのだ。その汚れをくれ。
その代わり、お前の願い事を、一度だけ聞いてやろう。
私たちを呼び出す呪文は、
クルクルカルマン、
チャラチャラ、
シジュウシンだ。
一語でも間違えるなよ。
3回唱えてから、願い事を言え。
心の底から、呼び掛けるのだぞ。わかったか!」
「はい、クルクルカルマン、チャラチャラ、シジュウシン」
「そうだ。間違えるなよ。それから、もう二度と、
ここへは来るな。念を押しておくが、
私たちが、出てゆくのは、一回きりだぞ。
それも忘れるな。では、汚れを貰うぞ」
オヅヌは、すっと身体が軽くなったように感じた。
心の中から、腹立たしさが消えて、
さっぱりした気分になった。
四獣神とは、
儒家の教典の五経の一つである、
「礼記」に出てくる、
4匹の怪獣のことである。
礼記は、
儀礼の解説などが書かれた、
中国の唐の時代に出来た古い書物であり、
四獣神は超能力を持って、天の世界の支配者を、
東西南北、それぞれの持ち場で守っている、
守護獣のことをいうらしい。
壁画に書かれた奇妙な絵は、
この四獣神を、描いていたのである。
つづく