書店で偶々見かけた本ですが、一気に読ませるものがありました:
藤堂具紀 2012 「最新型ウイルスでがんを滅ぼす」 文春新書
著者の現職は東京大学医科学研究所先端医療研究センター(脳腫瘍外科)教授。
単純ヘルペスウイルスI型に遺伝子操作を加え、G47Δと呼ぶウイルスを開発し、臨床試験を行って3年になるそうです。
ウイルスをジェームズ・キャメロン監督の「ミクロの決死隊」に喩えた段があって、想像を押してくれました。
がんの治療法は外科手術、化学療法、放射線療法があり、どれにもメリットとデメリットが有ることは周知です。「毒を以って毒を制す」だと言えるようです。
ウイルスでがんを滅ぼすというのも、初期には同じ発想だったようです。
がんがウイルスに弱いらしいということは100年ほど前から知られており、イギリスなどで1950年代には野生の麻疹ウイルスを使った臨床試験が盛んに行われていたそうです。
しかし、当時はウイルスの病原性をコントロール出来なくて、がんが治るほど大量のウイルスを使えば、そのウイルスによって別の病気に罹ってしまう。
余計な病気を引き起こさないように、少量の弱いウイルスを使ったのではがんが退治できない。
「毒」の匙加減が難しくて研究はしばらく途絶えていたが、1980年代に入って遺伝子組み換えの技術が発達し、ウイルスの持っている遺伝子のさまざまな機能が解明され、ウイルスの病原性をコントロールしてがんの治療に使えるようになってきたのだそうです。
単純ヘルペスウイルスは日本人の8割が体内に持っているが、口唇ヘルペスなどが発症するのは10人に1人ぐらい。
あらゆる種類のヒト細胞に感染するが、発症しても早い段階なら抗ウイルス薬が使える。
このウイルスには約80の遺伝子はあり、がんを死滅させる新薬として開発されたG47Δは3遺伝子について組み換えが行われている。
通常のウイルスはがん細胞だけでなく、正常細胞をも攻撃する。
G47Δはがん細胞を攻撃する機能が強くなっているが、正常細胞は傷つけない。
がん細胞の中だけで増殖し、感染したがん細胞を死滅させたら、周囲に拡散し、別のがん細胞を次々に破壊する。
単純ヘルペスウイルスI型に変異を加えると、毒性が弱くなる。
遺伝子組み換えを行う前の野生型ウイルスが毒性最強だが、組み替えたウイルスが野生型に戻ることは無い。
体内にがん細胞が出来ると、初期なら免疫機能が働いて大きくならない内に退治するが、がん細胞はそうした免疫機能を弱める物質を放出したり、免疫機能を抑制するリンパ球を自分の周りに集めたりして免疫から逃れようとする。
α47という遺伝子がこれに関わっており、その機能をストップさせたのがG47Δの最も画期的な特徴。
開発から既に10年経ているが、3つの遺伝子を改変したものはまだないらしい。
「副作用も後遺症もない革命的がん治療」だという説明には説得力が有りました。
しかし、現段階では実用化に関してさまざまな壁が有ると言い、気になります。
障壁のひとつには、われわれユーザーになる人々の無理解と誤った先入観も有るようです。
2007年に国際ウイルス療法学会が開かれる直前に、麻疹ウイルスを遺伝子組み換えした治療薬を開発したというSF映画「アイ・アム・レジェンド」が日米で同時公開されたそうです。
10,009人の患者に試験投薬し、10,009人が完治したというマスコミ発表シーンがあり、一転して舞台は廃墟と化した3年後のマンハッタンになる。
そのウイルスが突然変異し、致死率90%の殺人ウイルスになり、生き残った人々も凶暴なゾンビのようになっている、と。
「ウイルスでがんを滅ぼす」というタイトルを最初に見たとき、まさかと疑いました。
もしかしたら、この映画のことをニュースか何かで知り記憶の底に残っていたのかも知れません。
そうでなくても何故かわれわれ日本人は遺伝子組み換えに対してネガティブな傾向を持っているようです。
著者によれば、医薬品に使われているタンパク質のほとんどは遺伝子組み換えで作られており、欧米人の多くはそれを知っているが、日本人はほとんど知らない、とか。
G47Δの着想と治療用ウイルスの完成に到るまでの道のりや、知財をアメリカから日本に持ってきて、関係機関に申請し、大学の倫理委員会の承認を得て、臨床試験に漕ぎ着けるまでの経緯には、多くのドラマが有り、興味深く読みました。
基礎研究で新しい医薬品候補がみつかってから、製薬会社が引き受けるまでの間を「死の谷」と言うのだそうです。
ほとんどの医薬品の卵は「死の谷」を越えられず、消えていく。
G47Δも今その「死の谷」の真ん中にいる、と。
官民の作っている障壁が撤去され、ハードルを越えて、広く実用される日が来るよう期待しています。
藤堂具紀 2012 「最新型ウイルスでがんを滅ぼす」 文春新書
著者の現職は東京大学医科学研究所先端医療研究センター(脳腫瘍外科)教授。
単純ヘルペスウイルスI型に遺伝子操作を加え、G47Δと呼ぶウイルスを開発し、臨床試験を行って3年になるそうです。
ウイルスをジェームズ・キャメロン監督の「ミクロの決死隊」に喩えた段があって、想像を押してくれました。
がんの治療法は外科手術、化学療法、放射線療法があり、どれにもメリットとデメリットが有ることは周知です。「毒を以って毒を制す」だと言えるようです。
ウイルスでがんを滅ぼすというのも、初期には同じ発想だったようです。
がんがウイルスに弱いらしいということは100年ほど前から知られており、イギリスなどで1950年代には野生の麻疹ウイルスを使った臨床試験が盛んに行われていたそうです。
しかし、当時はウイルスの病原性をコントロール出来なくて、がんが治るほど大量のウイルスを使えば、そのウイルスによって別の病気に罹ってしまう。
余計な病気を引き起こさないように、少量の弱いウイルスを使ったのではがんが退治できない。
「毒」の匙加減が難しくて研究はしばらく途絶えていたが、1980年代に入って遺伝子組み換えの技術が発達し、ウイルスの持っている遺伝子のさまざまな機能が解明され、ウイルスの病原性をコントロールしてがんの治療に使えるようになってきたのだそうです。
単純ヘルペスウイルスは日本人の8割が体内に持っているが、口唇ヘルペスなどが発症するのは10人に1人ぐらい。
あらゆる種類のヒト細胞に感染するが、発症しても早い段階なら抗ウイルス薬が使える。
このウイルスには約80の遺伝子はあり、がんを死滅させる新薬として開発されたG47Δは3遺伝子について組み換えが行われている。
通常のウイルスはがん細胞だけでなく、正常細胞をも攻撃する。
G47Δはがん細胞を攻撃する機能が強くなっているが、正常細胞は傷つけない。
がん細胞の中だけで増殖し、感染したがん細胞を死滅させたら、周囲に拡散し、別のがん細胞を次々に破壊する。
単純ヘルペスウイルスI型に変異を加えると、毒性が弱くなる。
遺伝子組み換えを行う前の野生型ウイルスが毒性最強だが、組み替えたウイルスが野生型に戻ることは無い。
体内にがん細胞が出来ると、初期なら免疫機能が働いて大きくならない内に退治するが、がん細胞はそうした免疫機能を弱める物質を放出したり、免疫機能を抑制するリンパ球を自分の周りに集めたりして免疫から逃れようとする。
α47という遺伝子がこれに関わっており、その機能をストップさせたのがG47Δの最も画期的な特徴。
開発から既に10年経ているが、3つの遺伝子を改変したものはまだないらしい。
「副作用も後遺症もない革命的がん治療」だという説明には説得力が有りました。
しかし、現段階では実用化に関してさまざまな壁が有ると言い、気になります。
障壁のひとつには、われわれユーザーになる人々の無理解と誤った先入観も有るようです。
2007年に国際ウイルス療法学会が開かれる直前に、麻疹ウイルスを遺伝子組み換えした治療薬を開発したというSF映画「アイ・アム・レジェンド」が日米で同時公開されたそうです。
10,009人の患者に試験投薬し、10,009人が完治したというマスコミ発表シーンがあり、一転して舞台は廃墟と化した3年後のマンハッタンになる。
そのウイルスが突然変異し、致死率90%の殺人ウイルスになり、生き残った人々も凶暴なゾンビのようになっている、と。
「ウイルスでがんを滅ぼす」というタイトルを最初に見たとき、まさかと疑いました。
もしかしたら、この映画のことをニュースか何かで知り記憶の底に残っていたのかも知れません。
そうでなくても何故かわれわれ日本人は遺伝子組み換えに対してネガティブな傾向を持っているようです。
著者によれば、医薬品に使われているタンパク質のほとんどは遺伝子組み換えで作られており、欧米人の多くはそれを知っているが、日本人はほとんど知らない、とか。
G47Δの着想と治療用ウイルスの完成に到るまでの道のりや、知財をアメリカから日本に持ってきて、関係機関に申請し、大学の倫理委員会の承認を得て、臨床試験に漕ぎ着けるまでの経緯には、多くのドラマが有り、興味深く読みました。
基礎研究で新しい医薬品候補がみつかってから、製薬会社が引き受けるまでの間を「死の谷」と言うのだそうです。
ほとんどの医薬品の卵は「死の谷」を越えられず、消えていく。
G47Δも今その「死の谷」の真ん中にいる、と。
官民の作っている障壁が撤去され、ハードルを越えて、広く実用される日が来るよう期待しています。
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