花ぐもり
花ぐもりというのだろう。薄い雲の上にぼんやりと日が透けて見えながら、空は一面に
くもっていた。ただ空気は暖かい。もうこの間ように、つめたい北風が吹くことはないだ
ろう。
墓参りをすませて寺の門を出たとき、左手に見える野道を歩いて帰ろうかと思った。細
い野道は、曲がりくねって丘の下を通り、その先の丘の陰に消えている。初めての道だが、
歩いて行けばいずれ町はずれに出るだろう。
丘の斜面から一カ所。道に覆いかぶさるように花がしだれているのが見える。薄い紅い
ろをふくんだ花は、ひょっとしたら桜かと思われたが、桜が咲くにはまだ北国では早い気
もした。
薄日のあたたかさと、遠くに見える花に誘われるように、丘沿いにのびる道に降りて行
った。雑木の斜面と、丘のすぐ下まで耕してある水田にはさまれて、ところどころ途切れ
るほどに補足なったり、また道らしくひろがったりしながらつづいている。
丘が内側に切れ込んで、浅井い間のようになっている場所に出た。谷間の奥には、まだ
汚れた雪がへばりついていて、そこからにじみ出た水が道を横切って田に落ちこんでいた。
ぬかるみを渡りそこねて、足を少し汚した。
だが、人陰もなく静かな道だった。枝の先が紅くふくらんでいる雑木の奥から、小鳥の
声が漏れて来る。その声はウグイスだろうか。
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