29日、カベラシビリ氏の大統領就任式直後に議会前でレッドカードを掲げて抗議する市民
【トビリシ=田中孝幸】
東欧・カフカス地方のジョージアで29日、国会議員らの間接選挙で大統領に選出された親ロシア与党「ジョージアの夢」所属のミハイル・カベラシビリ氏の就任式が開かれた。
親欧米派のズラビシビリ大統領は選出は不当として退任を拒否。両氏がそれぞれ自らの正統性を主張する異例の事態になった。
元サッカー選手のカベラシビリ氏は29日午前に議会で就任宣誓した。
西側諸国がジョージアを戦争に引き込む陰謀を企てていると主張してきたカベラシビリ氏は「国民は平和が生存と発展の第一条件であることを理解してきた」と強調した。
対抗する形でズラビシビリ氏は同時刻に大統領宮殿前で演説した。「私は正統性と国旗、皆さんの信頼を携えていく」と表明。
宮殿は明け渡したものの、不正な議会選挙を経て選ばれた大統領には正統性がないと述べ、公正な選挙が実施されるまで退任を拒否する考えを示した。
ジョージアの大統領は儀礼的な権限しか持たないが対外的な国家の代表者で、軍の最高司令官も務める。
同国メディアによると、就任式には外交団は招待されなかった。日本を含めた各国は今後、どちらを正統性のある大統領として認めるか姿勢を問われることになる。
今回の混乱の発端は10月の議会選だった。
選挙戦では市民団体に抑圧的な法律を制定するなど権威主義的な親ロの現政権と、欧州連合(EU)への早期加盟を訴える親欧米の野党勢力が対決する構図となった。選管当局は与党のジョージアの夢が約54%の得票で勝利したと発表した。
ただ、複数の出口調査と大きく異なる得票率になったことや投票所での不正の事例が報告されたことで、現政権が投票結果を操作した疑惑が広がった。
欧州安保協力機構などが加わった合同選挙監視団の代表者は、選挙で二重投票などの不正行為が報告されたと発表した。
EUの欧州議会も11月28日、重大な不正があったとして選挙のやり直しを求める決議を採択した。
政権側は強く反発し、コバヒゼ首相は同日の記者会見でEU加盟に向けた交渉の開始を2028年末まで見送ると表明した。
これが現政権への抗議デモに火を付ける結果となった。
これまで1カ月以上にわたりトビリシなどで大規模なデモが続き、治安部隊によって400人を超える市民や記者が拘束された。29日も議会前で複数の市民が連行された。
現政権は強硬姿勢を崩さないが、ロシアへの接近やデモ隊への弾圧を問題視する米欧の圧力は徐々に強まっている。
バイデン米政権は27日、ジョージアの夢の創設者で最高実力者と目されているイワニシビリ元首相に対する金融制裁を発動した。
トランプ次期米大統領にも近い米共和党のウィルソン下院議員は28日、ジョージアの現政権に対する米政府の承認を禁止し、自由で公正な選挙が実施されるまでズラビシビリ氏を唯一の正当な指導者として認める法案を近く提出すると表明した。
一方、野党勢力の政治家もデモに参加する親欧米の市民からは古い既成勢力の代表とみなされ、支持は十分に集まっていない。ズラビシビリ氏は29日の演説で、次の選挙に向けて若い世代が新党を結成する必要性を訴えた。
政権側はデモ隊を疲弊させ、新体制を既成事実にすることを狙っているとみられる。
最近は治安部隊もデモ隊へのあからさまな暴力を控え、死者が出て反政権運動が盛り上がる事態にならないように配慮している。
人口約370万人のジョージアは欧州の東端部で南北をトルコとロシアに挟まれた地政学的要衝にある。
カフカス地方への影響力の拡大を目指してきたロシアのプーチン政権に加え、中国も広域経済圏構想「一帯一路」の一部として重視する。
世論調査によると国民の8割はEUへの統合を支持するが、陸上の国境を接する大国ロシアとの良好な関係を望む市民も少なくない。
ジョージアが欧米とロシアのどちらを志向するかは、西側の民主主義諸国と中ロの権威主義陣営との攻防にも影響を及ぼす。
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日経記事2024.12.30より引用