プーチン氏は12日の会議でもいらだちをあらわにした=スプートニク提供・ロイター
ウクライナ軍が6日に始めたロシア西部クルスク州への越境攻撃は、旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身で情報工作にたけたプーチン大統領のお株を奪った格好になった。
核大国に対する史上初の大規模侵攻はロシアの核の脅しの空疎さも印象づけた。今回の奇襲劇は各国の安全保障の論議にも影響を及ぼす。
「我々はクルスク州でさらに前進を続けている」。ウクライナのゼレンスキー大統領は14日のSNSのメッセージで強調した。
同国軍幹部は欧州とロシアのガスパイプラインが通る要衝スジャの制圧を終えたと語った。
ウクライナ政府は同日、同州の国境地帯をロシアの攻撃から自国を守るための「緩衝地帯」にすると発表した。
ウクライナ軍は15日には占領地域の管理にあたる軍司令官事務所の設置を公表した。戦闘の長期化に備え、防衛陣地の建設も急いでいる。
ウクライナ側は今回の作戦にあたり、徹底した情報統制をしいた。作戦に参加した兵員は日本経済新聞に「情報漏洩の防止のため、部隊の大半は直前まで越境攻撃することを知らされなかった」と明かした。
攻撃前に国境近くに軍部隊を集結させたが、ウクライナ側のスムイ州を防衛するための訓練の一環とされた。米メディアによると、情報漏れを防ぐため米国など同盟国への事前通告も控えたという。
ロシア側は同国との対立激化を恐れるバイデン政権がウクライナ軍の越境攻撃を容認しないとみていたようだ。このためクルスク州の防衛は徴集兵など練度の低い少数の兵力に任されていた。
これらの部隊は越境攻撃に完全に不意を突かれ、多数が潰走し捕虜にとられる事態になった。
ロシアの軍事ブロガーからは、事前に国境近くのウクライナ軍の集結を知りながら無策だった軍指導部への批判が相次いだ。
身内すらだます高度な偽装工作は、冷戦時に西側と敵対してきたKGBの得意分野だった。プーチン氏にとって今回の失態は屈辱的だったようだ。
12日の政権幹部との会議で「西側は我々と戦争状態にある」と述べ、敵に裏をかかれたことへの怒りをにじませた。
越境攻撃は核大国ロシアとの全面対決につながる「レッドライン」を恐れ、ウクライナ支援を慎重に判断してきた西側諸国の姿勢にも一石を投じた。
プーチン氏は2022年、ウクライナで占領した「ロシアの土地」を奪回するいかなる試みも核攻撃による報復につながると警告し「これははったりではない」と語った。
今回の攻撃では、西側が関与していると断定する一方、従来のような核の脅しを控えている。同州の戦闘を「対テロ作戦」と位置づけ、ウクライナの攻撃を軽視するかのような構えをみせる。
政権の管理下にある国営メディアも、クルスク情勢について詳細な報道を控えている。インスブルック大のゲルハルト・マンゴット教授(国際関係学)は「情勢を見る限り、今回の攻撃の報復として核兵器が使用される可能性はない」と分析する。
実際、ロシアには米欧と軍事的に事を構える余力はなく、プーチン氏の脅しをブラフだとする見方も少なくなかった。
今回の攻撃でこうした認識が広がることで「ロシアを追い詰めるべきでない」とする融和論が後退するのは間違いない。
バイデン政権はなお、米供与の長距離ミサイルを使ったロシア領内への攻撃をウクライナに認めていない。
ただ米議会でも今回の攻撃を評価する声が広がっており、解禁を求める意見も出始めている。
核の非保有国が保有国の本土に侵攻した事例ができたことで、今後の核抑止の議論にも影響を及ぼす可能性がある。米国はかねて、ロシアにウクライナへの核使用を控えるよう強く警告してきた。
核使用は自国への多大な経済・軍事的打撃を伴うため、実際に踏み切るのは容易ではない。
1982年のフォークランド紛争でもアルゼンチンは英国領の島に侵攻したが、英国は核使用を控えた。欧州連合(EU)加盟国の高官は「今回の攻撃は、核の有効性を巡る幻想を問い直す機会になる」と語る。
(ウィーン=田中孝幸)
ひとこと解説
ロシアは、モスクワまで攻め込まれても敵を押し返した経験を何度もしているので、今回の攻撃もそれほど打撃に感じていないかもしれません。
中期的には押し戻せると思っていれば、米中印が反対している核を使用する意味がありません。
米からの制裁の警告と、中国がロに対する支援を減らす恐れの両方があると、なかなか使いにくいでしょう。
ゼレンスキー氏は和平交渉に備えて、交渉材料としてロ領土を押さえているという説もありますが、おそらくは複数の可能性を同時に考えつつ、戦略的曖昧性を保って米大統領選の行方を眺めているのでしょう。
現状は奇襲が成功していますが、ウ軍とて人員が足りないですから、勢いがそうそう続くとは思えません。
<button class="container_cvv0zb2" data-comment-reaction="true" data-comment-id="44936" data-rn-track="think-article-good-button" data-rn-track-value="{"comment_id":44936,"expert_id":"EVP01050","order":1}">80</button>
ひとこと解説
ロシアの核戦略は、通常兵器による攻撃であっても、国家存続にかかわるような状況の場合には核兵器の使用がありうるというものです。
今回のように「国家存続にかかわる」レベルではない攻撃にロシアはたじろいでいます。
このレベルの攻撃には核の脅しが通用しないことを示しました。
核はやはり「使えない兵器」という認識も高まるでしょう。結局は通常兵器の増強が必要だということになってしまうのですが。
<button class="container_cvv0zb2" data-comment-reaction="true" data-comment-id="44926" data-rn-track="think-article-good-button" data-rn-track-value="{"comment_id":44926,"expert_id":"EVP01003","order":2}">153</button>
2022年2月、ロシアがウクライナに侵略しました。戦況や世界各国の動きなど、関連する最新ニュースと解説をまとめました。
日経記事2024.08.16より引用
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どのみち、プーチン・ロシアの勝利はない。 核を使えば、自動的にアメリカ、NATO諸国、イスラエルなどから自動的にクレムリンにむけて核ミサイルが発射される。
それでプーチン終了。
後は、トランプらが国家反逆罪で逮捕。