ドイツ政府専用機の会議室で取材に応じるハベック副首相兼経済・気候相(26日)
ドイツのハベック副首相兼経済・気候相が日本経済新聞の単独インタビューに応じ、中国経済への依存度を減らすデリスキング(リスク低減)を「必ず継続する」と語った。
景気低迷にもかかわらず、中国離れを進める強い政治的な意志を示した。
ハベック氏は環境政党の緑の党出身。ドイツの連立政権内でショルツ首相に次ぐ実力者であり、欧州全体の通商・環境政策に大きな影響力がある。
10月下旬にショルツ首相らとインドを訪問した帰路、ドイツ政府専用機内で取材に応じた。
ドイツ経済が低迷する中、デリスキングを断行するのかとの問いに対し、ハベック氏は「必ず、絶対にやる」と即答した。
「経済安全保障という観点で、経済政策は景気と連動しない」とも断言し、「投資先を分散し(特定国への)強い依存を是正するのが私の目標」と述べた。
ドイツ経済が「安価なロシア産ガスと永遠に拡大を続ける中国市場」に頼りすぎていたとの反省が底流にある。
「ドーピングのようなものだった」と悔いる胸中を漏らした。エネルギー高騰などでドイツの国際競争力が低迷したのは「ツケを払っているから」と認めた。
投資優遇措置の見直しなどでドイツ企業に中国以外への投資を促すという。
「中国から撤退すべきだということではない」と強調する一方、「すでに対中投資を減らした企業もある」と明らかにした。中国企業との公平な競争条件が確保されていないとの不満が高まっているとした。
欧州連合(EU)とインドやインドネシアとの自由貿易協定(FTA)の交渉が進めば「分散を後押しすることになる」との認識も示した。
代替市場としてベトナムにも注目する。
今年のドイツ経済はマイナス成長の見通し。屋台骨の自動車産業の業績は厳しく、フォルクスワーゲン(VW)は工場閉鎖を視野に入れる。
米大統領選でトランプ氏が当選すれば、欧米の貿易摩擦が再燃し、景気がさらに減速する恐れがある。
ただドイツが構造不況に陥るとの見方は否定し、包括的な景気刺激策を講じたことで「来年には成長が戻る」と強調した。
国防やイノベーション、デジタル化のために財政出動で投資を増やすのが望ましいと語った。
ハベック氏は日本の新政権と経済安保で協力し、インド太平洋の秩序維持に貢献する意向も明らかにした。同氏の発言は欧州のアジア外交の変化を象徴する。
ドイツ海軍の艦隊は9月、22年ぶりに台湾海峡を通過し、中国と領土を争うインドには潜水艦を輸出しようとしている。
同氏は国際秩序の維持に積極的にかかわるべきだと考える。以前は紛争のある地域の安全保障にかかわることに消極的だったが「ロシアのウクライナ侵略でドイツは方針転換した」。
欧州では中国への警戒感が強まり、日韓豪などインド太平洋の民主主義国家の重みが増す。新しい政権を探る日本を「価値観をともにするパートナー」と位置づけ、「経済安保政策について日本から学びたい」と述べた。
(欧州総局長 赤川省吾)
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ニッセイ基礎研究所 経済研究部 常務理事
緑の党のハーベック副首相は、先日も、経済気候相として独自の基金構想を打ち出すなど、炭素中立の経済・社会モデルへの転換のための財政の活用に積極的な立場をとる。
他方、自由民主党のリントナー財務相は債務ブレーキ堅持の立場。 同じ日に、首相と財務相が、別々に産業界との対話の場を持つなど、連邦議会選挙まで1年を切ったドイツでは、もともとギクシャクしていた連立3党間の遠心力が一段と強まっているように思う。
産業界が求める構造転換を支えるような思い切った政策対応が動き出す望みは薄い。
「来年には景気回復」と昨年の今頃も言われていた。
来年の今頃も同じことを言っているのではないかとの懸念を抱いている。
ドイツ政府専用機で私は唯一の非ドイツ人。インドからの帰路、全ての外交日程を終えた副首相に機内先頭部にある会議室で向き合いました。
中国依存を減らし、アジアの民主主義国家と連携するーー。
そう語るハベック氏に私は問いかけました。
「アジアで有事が起きたら、ドイツも巻き込まれてしまうのではないですか」。
すると次の答えが。「中立だったら罪に問われないという考えは間違っている」。
つまり事なかれ主義だった過去のドイツ外交は「罪」だというのです。
ドイツ政府の覚悟は固まってきました。
でも企業は?市場を手放すのは「もったいない」と考える企業もまだ多く、今後は政府と企業の軋轢が予想されます。