暴走事件が起きたマクデブルクの現場を訪れたショルツ首相(21日)=ロイター
【ベルリン=南毅郎】
ドイツで2025年2月の総選挙に向けた選挙戦が本格的に始まる。シュタインマイヤー大統領は27日、連邦議会(下院)の解散を正式に表明した。
東部マクデブルクの暴走殺傷事件で極右政党は反移民の主張を強めており、政策論議の行方は早くも混沌としている。
シュタインマイヤー氏は27日、議会の解散と総選挙の実施を正式に公表した。ドイツでは不信任になった首相の提案に基づき大統領が議会を解散する。
ショルツ首相は16日に議会の信任投票で不信任となり、シュタインマイヤー氏に解散を提案していた。
主要政党は総選挙に向け、有権者に訴える政策の中身を詰める。ドイツ経済は23年から2年連続でマイナス成長に陥る可能性が高く、構造改革や競争力の底上げが急務だ。
ウクライナへの軍事支援やトランプ次期米政権との貿易交渉など外交・安全保障のかじ取りも論点になる。
ショルツ氏が所属する中道左派のドイツ社会民主党(SPD)は財政拡張寄りの経済政策を前面に打ち出す。
選挙公約の草案では育児手当の拡充や年金制度の安定など社会保障を重視した政策が並ぶ。1000億ユーロ(約16兆円)規模の投資基金も立ち上げる方針だ。
国政最大野党で保守陣営のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は、メルケル前政権以来となる4年ぶりの与党復帰へ減税を柱に据える。
具体的には残業手当を非課税にし、法人税の引き下げを訴える。SPDは食料品の消費減税を目指す半面、富裕層には課税強化を検討中だ。
ドイツ経済の屋台骨である自動車の産業政策も方向が異なる。
SPDは電気自動車(EV)の推進を目指すのに対し、CDU・CSUは内燃機関車の禁止撤回を打ち出す。CSUは自動車産業を抱えるバイエルン州が地盤で現実路線を優先した形だ。
反移民感情は選挙戦の行方を左右する。影を落とすのが、マクデブルクで20日に起きた暴走殺傷事件だ。
サウジアラビア出身の50歳の男が運転する車が家族連れなどでにぎわうクリスマスマーケットに突入。子どもを含む5人が死亡、少なくとも200人が負傷した。
事件の動機は不明な点がなお多いものの、捜査当局は同胞の難民に対するドイツの対応に不満を抱いていた恐れを指摘した。
民間人を狙った無差別襲撃の可能性があり、ドイツ社会に動揺が広がった。
独調査会社の選挙研究グループが実施した世論分析によると、ドイツで重視される問題は経済状況との回答が34%で首位だ。次いで移民・難民対策が23%と続き、年金の9%やロシアによるウクライナ侵略の8%より関心は格段に高い。
事件に素早く反応したのが極右ポピュリズム政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」だ。ワイデル党首は「無秩序な移民の受け入れがなければマクデブルクの事件は起きなかった」と訴える。事件後の23日には現地で演説集会を開いた。
独メディアによると、AfDは選挙戦で国境管理の徹底と難民支援の削減を掲げる。
欧州連合(EU)と単一通貨ユーロからの離脱に加え、原子力発電への回帰も訴える方針だ。移民管理を巡ってはCDU・CSUも不法移民の流入阻止を表明する。
AfDはウクライナ侵略を続けるロシアへの経済制裁を解除し、ドイツと結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム」を通じた安価なガスの調達再開も呼びかける。
独国内総生産(GDP)の4%に相当する年1820億ユーロ規模の大減税も主張する見通しだ。
政党別の支持率はCDU・CSUが33%と首位で、AfDは19%で2番手として追い掛ける。
単独過半数の議席を握れる政党がなければ連立交渉が焦点となるが、主要政党はAfDとの連立を否定している。
原発への回帰やガスパイプラインの再開など、AfDが掲げる主張は実現可能性が低いものの一見するとドイツ経済が抱える問題の解決策と映りやすい。
選挙戦では偽情報の拡散や政治家への襲撃にも懸念が高まる。他の主要政党はAfDの訴えに反論できるだけの政策が試される。
日経記事2024.12.29より引用