USスチールのモンバレー製鉄所
日本製鉄が米鉄鋼大手USスチールへの2度目の追加投資計画を発表した。
直近では著名政治家のアドバイザー起用など買収に向けて外堀を埋めてきたが、業績や雇用に直結するカードを新たに切った。
背景には2024年内の買収完了に向けて、買収計画に反対する全米鉄鋼労働組合(USW)を懐柔する思惑が透ける。
29日の発表では13億ドル(約1870億円)超を新たに投じるとした。
具体的にはペンシルベニア州のモンバレー製鉄所では製鉄の熱延設備の新設または補修に少なくとも10億ドルを投資し、同製鉄所を数十年以上稼働する計画だとした。
インディアナ州のゲイリー製鉄所では約3億ドルを投資して第14高炉を改修し、同高炉の稼働を今後さらに20年ほど延長するとしている。
日鉄は23年12月に2兆円での買収計画を公表し、USスチールがUSWと結ぶ26年までの労働協約を承継するとしていた。
この協約に盛り込まれていた10億ドルの設備投資計画に加えて、24年3月には14億ドルを追加投資すると発表。さらに今回13億ドルの新たな投資を発表した。
買収計画はUSWの関与で政治問題化している。
米大統領選を前に85万人が所属するUSWの組織票に秋波を送るトランプ前大統領らが買収計画を批判してきたためだ。
日鉄はこうした批判を軽減しようと国務長官経験者のマイク・ポンペオ氏をアドバイザーとして起用するなど買収機運の醸成に努めてきたが、直接的な追加投資を公表し一段とアクセルを踏んだ。
これまでとの大きな違いは「27年以降も大規模な支出を見込む」として、両製鉄所を今後20年以上にわたって長期稼働すると明記したことだ。
従来は既存の労働協約の期間内の26年までの投資としていた。長期間の製鉄所稼働を保証することで、長期の雇用維持をアピールする狙いだ。
新たな設備投資は製鉄所の操業効率の向上にもつながる。
ただ、USWのデービッド・マッコール会長はまだ満足していない。日鉄が日本時間の29日早朝に追加投資を発表すると、すぐさま「プレスリリースは契約ではない」と題した書面で意見表明した。
書面では「組合の懸念事項の一つにリップサービスをしているが、日鉄はUSWの意見を無視している」などと記した。
今後はUSスチールとUSWの間で8月から実施中の労働協約を巡る仲裁の結論が注目点となる。
日鉄は「仲裁の詳細は開示できない」としているが、労働協約ではUSスチールを承継する買収企業の規定を定めており、解釈などを争っているもよう。仲裁の結論次第では、日鉄とUSWの対話が前進する可能性もありそうだ。