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究極の石炭火力発電、「悪玉論」覆し安定供給守れるか   編集委員 高橋徹 Nikkei Views

2024-08-18 10:06:02 | 環境・エネルギー、資源


CO2を排出しない石炭火力技術の実証が進む(広島県大崎上島町)

 

 

石炭ほど毀誉褒貶(ほうへん)の激しい資源はないだろう。少し前まで豊富・安価で地政学リスクとも無縁ともてはやされていたのに、いまでは二酸化炭素(CO2)をまき散らす「地球沸騰の戦犯」の扱いだ。

ロシアによるウクライナ侵略以降、エネルギー安全保障が改めて重視されるなか、脱炭素の奔流と折り合うことは可能か。

 

 

瀬戸内海に浮かぶ広島県の大崎上島。かつては造船で栄え、ブルーベリー栽培で西日本の先駆けともなった自然豊かな離島で「究極の石炭火力発電」の実証試験が進む。

Jパワー中国電力の共同出資会社「大崎クールジェン」が開発するのは、石炭を蒸し焼きし、高温高圧のガスに変えて使う技術だ。ガスの圧力、余熱でつくる蒸気で二重に発電できる。

 

 

天然ガス火力に似た「石炭ガス化複合発電(IGCC)」はそれだけでも高効率で、CO2排出を15%減らせる。実証試験が見据えるのはその先の先だ。

発電前のガスからCO2を最大90%分離・回収する。さらに木質バイオマス燃料を10%超混ぜれば、大気中のCO2をむしろ減らしながら発電する「カーボンネガティブ」が視野に入る。

 

 

 

 

石炭ガスからCO2を取り除けば、残るのは水素。究極の石炭火力とは、水素火力と同義だ。

燃やしてもCO2が出ない水素は完全な脱炭素燃料だが、海外で安く生産し、極低温で液化して運ぶ供給網の整備には、20兆円規模の投資と10年単位の時間が必要とされる。水素輸送の「器」として石炭を使えば、その難題を回避できる。

 

 

実証成果はまずJパワーの松島火力発電所(長崎県)で活用する。近く休止する2号機(出力50万キロワット)を改造し、2028年度の商用運転を計画する。

ただし当初導入するのはガス化炉のみ。脱炭素まで一気に進められない制約が2つある。

 

 

ひとつはガスタービン。水素は天然ガスより燃焼が速く、今の技術では25〜30%の濃度でしか燃やせない。水素専焼タービンの実用化は早くて30年ごろとみられている。

もうひとつはコストだ。3年前の経済産業省の試算では、大崎のような「CO2分離回収型IGCC」の30年時点の発電コスト見込みは1キロワット時あたり14.3〜14.9円。20年時点の石炭火力より2割近く高い。CO2の回収・貯留(CCS)の費用が上乗せされるためで、価格競争力を得るには政府の支援が必要になりそうだ。

 

 

それらを勘案すれば、究極の石炭火力の実現は35年以降になる見通しだ。

石炭火力にアンモニアを混ぜる方法もある。東京電力と中部電力が共同出資するJERAが碧南火力発電所(愛知県)で20%混焼を成功させ、比率をさらに高めていく計画だ。アンモニアも水素輸送の器だが、肥料原料として供給網は確立済み。ただし燃料用途は量がケタ外れに多い。製造や貯蔵設備にかなりの追加投資が必要となる。

 

石炭の脱炭素化に向けて、CCSという発電の「後工程」に投資がかさむのがガス化、燃料製造や貯蔵の「前工程」が重いのがアンモニアといえる。

 
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石炭は「地球沸騰」の元凶のように言われる半面、安価・豊富で地政学に左右されにくい
(愛知・碧南火力発電所の貯炭場)

 

もともと日本は「超々臨界圧」など高効率の石炭火力で世界をけん引してきた。ところが15年のパリ協定以降、発電技術への要求はそれまでの低炭素から脱炭素へと局面が一変し、石炭火力への風当たりが強まった。

中国電力の場合、大崎の成果の活用は未定という。「石炭と名がつくプロジェクトはやりにくい。政府が年内に策定する新たなエネルギー基本計画をみながら検討する」(同社幹部)

 

 

ガス化やアンモニア利用には、国内外から「単なる石炭火力の延命」との批判も浴びる。Jパワーの鈴木伸介執行役員は「石炭利用がいったん途絶えると、つくり上げた供給網を失ってしまう。

エネルギー安保の観点からも、どうすれば石炭を使い続けられるかを考えるのが大事」と強調する。

 

太陽光や風力などの再生可能エネルギーは発電量が天候に左右される。不安定さの調整弁は、出力調整が容易な火力発電が適任だ。

日本エネルギー経済研究所の寺沢達也理事長は「再生エネと火力はワンセット、というのは新しい常識。すでにある設備をどう維持・活用するかが日本の課題」という。

 

 

人口減で漸減していくとみられていた電力需要は、デジタル技術の普及で一転して増加する可能性が高くなり、安定供給のハードルは一段と上がる。

ましてや日本と同様に火力発電への依存が高く、経済成長で需要が伸び盛りのアジア新興国は、石炭との決別は容易ではない。

 

 

「石炭悪玉論」を技術革新で覆し、安定供給と脱炭素の両立の道筋を世界に示す。

そんな未来をたぐり寄せることができれば、国連の温暖化防止会議の会場で毎年、環境団体からやり玉に挙げられる「化石賞」の意味合いも変わってくるはずだ。

[日経ヴェリタス2024年8月11日号]

 

 

 

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