【ソウル=松浦奈美】
韓国南西部の務安国際空港で29日、乗員乗客計181人を乗せた旅客機が着陸に失敗し、炎上した。
聯合ニュースによると、2人を救助したほか、少なくとも151人の死亡が確認されており、当局が被害確認を急ぐ。
日本の外務省によると、邦人客は搭乗していない。29日午前9時3分ごろ、バンコク発の済州航空2216便が同空港への着陸中に滑走路の外壁に衝突し、火災が発生した。同1時30分にバンコクを出発し、同8時30分に着陸予定だった。
事故が起きた機種は2009年9月に米ボーイングが製造した小型機「737-800」で、乗客175人、乗務員6人が乗っていた。乗客のうち、韓国籍が173人、タイ国籍が2人という。
聯合によると、地元消防当局が、救助された2人を除き大部分が死亡した可能性があるとの認識を示した。
済州航空の金二培(キム・イベ)社長は午後2時ごろ記者会見を開き、頭を下げて謝罪した。事故原因は「政府の調査を待たなければならない」と述べ、迅速な事故収拾と遺族の支援に全力を尽くすと強調した。
今回の機体には事故歴がなく、継続的に整備をするなかで「異常の兆候は全くなかった」と主張した。
消防当局は事故原因として、鳥が航空機と衝突するバードストライクが発生した可能性を指摘した。機体の車輪が正常に降りず、胴体着陸を試みたとみられる。空港設備と機体の後部が接触し、火災が起きたという。
韓国国土交通省は午後1時過ぎに記者会見を開き、事故機について「定期整備で異常報告を受けたことはなかった」と説明。
事故原因については「バードストライクや着陸ギアの誤作動など様々な指摘が出ている」とした。管制官との通信記録などを確認するまでは事故原因を特定できないと慎重な姿勢を示した。
韓国は3日に非常戒厳を宣言した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が弾劾訴追され、職務を停止している。権限を代行した韓悳洙(ハン・ドクス)首相も27日、野党が推進した弾劾訴追案を国会が可決して職務停止となった。
大統領職は崔相穆(チェ・サンモク)経済副首相兼企画財政相が代行する。崔副首相は航空機事故を受け、利用可能なすべての装備と人員を動員して救助に総力を尽くすよう関係機関に指示を出した。
企画財政省によると、同省次官ら幹部は事故を受けて対応を協議した。省内に事故関連のチームを構成し、直ちに稼働すると発表した。韓国メディアによると、崔副首相は29日午後、事故現場を訪問した。
済州航空は韓国大手の格安航空会社(LCC)で2005年に設立した。韓国国内線のほか、日本や東南アジア向けの国際線も拡大し、世界で約60路線を持つ。
事故があったボーイングの小型機「737-800」は、全日本空輸(ANA)がリースを含めて39機持ち、国内線で使用している。
日本航空(JAL)も同様に56機を運用しており、国内線と一部の国際線に充てている。両社ともに「事故原因が判明しない限り、現時点で運航状況に変化はない」としている。
務安国際空港は07年に設立した国際線を専門とする地方空港だ。24年1〜11月の利用客数が約30万人と韓国内の空港としては小規模だ。
日本やタイ、マレーシアなどとの路線があり、韓国南西部では唯一の国際空港として地元住民が海外旅行へ出かける際などに活用してきた。
韓国の航空会社による事故は過去にもあった。1997年8月にはソウル発米グアム行きの大韓航空機がグアム国際空港の手前の丘に墜落した。乗員乗客あわせて228人が犠牲となった。
2013年7月には仁川発米サンフランシスコ行きのアシアナ航空便が着陸に失敗し、飛行機が炎上。3人が死亡した。
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
事故のあった務安(ムアン)国際空港は、光州事件で知られる光州やかつて日本人も多く住んでいた港町・木浦もある全羅南道に位置します。
尹錫悦大統領の権限代行の代行になったばかりの崔副首相が「人命救助に総力を尽くせ」と指示しましたが、危機管理や国防で本来、陣頭指揮をとるべき大統領と国務総理(首相)はともに国会から弾劾訴追されて職務停止のため身動きがとれない異常事態です。
この地域は、金大中元大統領の故郷に近く伝統的に革新政党の地盤でもあります。革新系最大野党は今後も大統領権限代行が移るたびに弾劾を仕掛ける構えですが、搭乗客の安否が心配される中で、韓国政界は政争にかまける姿勢を改める必要があるでしょう。