ハリケーン「ヘリーン」の被害を受けた建物(10月3日、フロリダ州)=ロイター
米国で9〜10月、大型ハリケーンが相次ぎ上陸し大規模な被害が出た。2024年は欧州や東南アジアでも豪雨による大洪水が発生した。
気候変動が一因とみられ、自然災害に伴う損失は増加傾向が続いている。
9月26日にハリケーン「ヘリーン」が米南部フロリダ州に上陸し、北上した。
米主要メディアによると、南部ジョージア州アトランタで48時間降水量が観測史上最大を記録。米国全体の死者は200人を超えた。
立て続けに10月9日にはハリケーン「ミルトン」がフロリダ州に上陸し、同州の多くの地域が冠水した。
南部ノースカロライナ州政府は今月13日に公表したヘリーンに関する報告書で、被害額や防災に必要な金額は合計で596億ドル(約9兆3700億円)と推計した。
連邦政府や州などから見込む復興資金の合計は、その6割未満にとどまる。
2500以上の事業者が物的損害に対応するための融資を中小企業庁に申請したものの、融資を受けられたのは11業者しかない。同庁の資金が尽きたためで、追加資金の捻出には連邦議会の承認が必要という。
21日に成立した連邦政府の「つなぎ予算」には、ノースカロライナ州など被災した地域の支援に1000億ドルほどが盛り込まれた。
同州選出のトム・ティリス上院議員(共和党)はX(旧ツイッター)に「州西部を再び完全にするのに重要な頭金だ」と投稿した。
暴風や洪水など自然災害による経済損失額は世界で増加傾向にある。
世界気象機関(WMO)は23年にまとめた報告書で、10年代の損失額は1兆4800億ドルに達すると発表した。1970年代と比べて8倍ほどの規模に膨らんだ。
国際医学誌ランセットなどは61年から90年までの平均と比べて、2014年から23年の異常降雨の平均回数が増えた陸地の面積は世界の61%に上ると分析する。
豪雨は世界各地に甚大な被害をもたらした。スペイン東部バレンシア自治州では10月から発生した洪水で220人以上が死亡。ブラジル南部リオグランデドスル州は4月末からの洪水で180人以上が亡くなった。東南アジアでも9月、台風11号(ヤギ)に関連した水害が多発した。
豪雨被害が相次いだ背景の一つには、温暖化による海面水温の上昇がある。
日本の気象庁によると、23年の世界の年平均海面水温は平年値と比べ0.4度高かった。統計を開始した1891年以降で最高を記録した。
三重大の立花義裕教授は「海面水温の上昇幅は中緯度が熱帯地方より大きい」と指摘する。
このため日本近海や地中海の沿岸など中緯度に位置する先進国でも豪雨が起こりやすくなったという。
温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、気温上昇を産業革命前から1.5度以内に抑える目標を掲げる。
11月の第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)では、温暖化対策で先進国から発展途上国向けに拠出する「気候資金」について、2035年までに現在の3倍の少なくとも年3000億ドルに増やすことで合意した。
米国は25年1月に気候変動問題に懐疑的なトランプ次期大統領の就任を控える。パリ協定からの再離脱を公言しており、世界的な取り組みが停滞する懸念も強まっている。(小林拓海)