握手するスターマー英首相㊧とバイデン米大統領(10日、ワシントン)=ロイター
【ロンドン=江渕智弘、ワシントン=飛田臨太郎】
英国のスターマー首相は10日、就任後の本格的な外交活動を始めた。米ホワイトハウスでバイデン米大統領と会談し、米英の「特別な関係」を維持することを確認した。
英新政権には知日派が少なく、日本はパイプづくりが課題となる。
4日の英総選挙で労働党が政権を奪い、スターマー氏が首相に就いた。北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席するため訪問中のワシントンで会談した。
スターマー氏は首相就任後初めての会談で、米英関係は「かつてないほど強固だ」と伝えた。バイデン氏は「米英は最高の同盟国だ」と話した。
米英は第2次大戦の勝利を導いた同盟関係を「特別な関係」と位置づけてきた。スターマー氏は「特別な関係は非常に重要だ。
困難な状況下で築かれ、今はかつてないほど強い」と述べた。英国の政権が交代しても米英関係は変わらないことを確かめた。
バイデン氏は英国と欧州の関係が近いほど英国はNATOの結び目になると指摘した。
スターマー氏は10日、ウクライナのゼレンスキー大統領とも会談した。政権交代によって英国からの支援が減ることはないと強調した。スナク前政権の方針を踏襲し、ウクライナが必要とする限り年30億ポンド(約6200億円)の軍事支援を続ける。
ゼレンスキー氏によると、英国から供与された射程の長い空中発射型巡航ミサイル「ストームシャドー」のロシア領内での使用について話し合った。
弁護士や検察トップを経て政界入りしたスターマー氏の外交手腕は未知数で、不安視する声もあった。バイデン氏らとの初会談を終え、無難なデビューとなった。
政権交代で大きく変わるのが欧州連合(EU)に対する外交方針だ。
労働党は伝統的にEUと関係が近い。新政権は米国やウクライナに対しては前政権の外交姿勢を踏襲しつつ、EUとは離脱で傷んだ関係の修復に力を入れる。ラミー外相は最初の外遊でドイツ、ポーランド、スウェーデンを訪れた。
離脱を主導した保守党政権はEU以外の世界各国と連携する「グローバル・ブリテン」構想を推進した。
インド太平洋地域を重視し、環太平洋経済連携協定(TPP)に参加した。
キャメロン前外相が「(日英同盟を結んだ)1902年以来の緊密さ」と語るほど保守党政権で日英関係は経済や安全保障の分野で深まった。
保守党と比較すると日本などアジアへの関心は薄れる可能性がある。イタリアを含む3カ国での次期戦闘機の共同開発など積み残しの重要案件は多い。日本は緊密な関係の維持のため人脈づくりを急ぐ。
「保守党に比べて労働党とのパイプは弱い」。日本政府関係者はこう認める。
前政権では財務相を務めたハント氏と副首相だったダウデン氏が支えとなった。2人とも日本に住んで英語教師をした経験がある知日派。いざというときに日本が頼りにできる存在だった。
日本通の重鎮が要職にいたスナク前政権と違い、スターマー政権との関係づくりは手探りとなる。
日本が期待を寄せるのがリーブス財務相だ。イングランド銀行(中央銀行)のエコノミストとして日本経済を研究した経験をもつ。スターマー首相とともに「親ビジネス」の労働党のイメージをつくってきた。経済政策の要となる。
日本政府はまだ野党議員だったリーブス氏とラミー外相に対して7月の訪日を働きかけ、実現しそうになっていた。総選挙で仕切り直しになり、次の機会を探る。
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日経記事2024.07.11より引用