匹130グラムのサンマ。今年は80〜100グラムが中心という
日本の秋のごちそう、サンマが今秋も不漁になりそうだ。小型化が一段と進み、1匹80〜110グラムと、豊漁時の半分の重さになると予測されている。
北海道東から三陸沖にかけて「海洋熱波」といわれる異常な高水温が続いており、サンマが日本に近づけない。海の環境変化が日本の食文化を揺るがしている。
「今年の来遊量は、昨年と同様に低水準となる」。7月30日、水産庁の新村耕太漁場資源課長はサンマ漁予報の記者会見で述べた。
漁場で資源調査を実施した水産研究・教育機構(横浜市)の冨士泰期主任研究員が「これほど小さい年はなかなかない」と続けた。
2023年は1匹100〜120グラムが中心だったが、24年秋はさらに小さい同80〜100グラムが主体になると予測する。
サンマが焼き魚として通用するのは1匹110グラムほどまで。100グラムを下回ると痩せてガリガリだ。
不漁の大きな理由が海洋熱波だ。暖流の黒潮が北に張り出し、北海道東から三陸沖にかけての海面水温は7月下旬時点で平年比4〜5度高い。
水深50メートルでは同10度以上高い海域もあり「暖水塊(だんすいかい)」という塊になってサンマの回遊ルートに居座っている。
変温動物の魚は水温の変化に敏感だ。海水温が1年で最も高くなるのは9月。スルメイカやサバ、カツオ、マグロなどあらゆる魚種に影響する。
サンマが晩秋、北海道や東北沖を南下するのは、和歌山県沿岸などで産卵をするためだ。森から豊富なプランクトンが供給され、稚魚の生育に適している。しかし近年、暖水塊の外側にルートを変更し、沿岸から離れた沖合を下るようになった。
ルートが変わった結果、産卵場も沖合にずれている。かつての産卵場より餌が少なく「成長が悪く、再生産力が落ちている。こういったことが重なり状況が改善されていない」(冨士主任研究員)。
日本は世界有数のサンマ消費国だが、漁獲が最も多いのは台湾だ。東日本大震災があった11年、東京電力福島第1原発事故に伴い、55カ国・地域で日本産農林水産物の輸入が禁止された時期があった。
中国船が商機とみてサンマ漁に参入。台湾も大型船で漁獲能力を高め、日本の代わりにロシアなどに輸出した。13年に台湾が、19年には中国が日本の漁獲量を抜き、その差は年々開いている。
近年、鮮魚店に「台湾産解凍サンマ」が並ぶ機会が増えた。台湾産は主に加工原料に使われていたが、日本が不漁すぎて、鮮魚店も背に腹は代えられなくなった。日本は漁場も商売も縮小している。
サンマは江戸時代に庶民の味として広がった。脂のりの良さから「秋刀魚(さんま)が出ると按摩(あんま)が引っ込む」と喜ばれてきた。食欲の秋に食べると体力が整い、マッサージに通う必要がなくなるという意味だ。令和のサンマではマッサージ通いをやめられそうにない。
10日、大型船によるサンマ漁が解禁になった。不漁をカバーするため、試験的に従来より10日間早まった。9月ごろから水揚げ本番を迎える。
(佐々木たくみ)
日経記事2024.08.18より引用