EF24-105mmF4L
この日の朝、ヴェンゲンのホテルをチェックアウトする。今日の予定はロープウェイに乗ってフィルストに向かう。フィルスト行きのロープウェイは、グリンデルワルト駅から15分くらい歩いたところにある。そこで宿も再びグリンデルワルトで取ることにした。
この日の早朝はご覧の通り、曇り気味である。写真はロープウェイの窓から乗り出して撮影したもの。
フィルストは、グリンデルワルトから北側に位置した山(丘)で、アルプスの山々を望むには、南側を向かなくてはならない。ただ、フィルストからの景色はいつも霞んで見える。それは、フィルストからアルプスの山々までの距離が遠いということもあるが、それ以上に重要なのが、太陽の昇るコースに対する位置の関係である。対象までの距離が重要であるのならば、昨日のミューレンからアルプスを望む事についても同じである。しかし、あの日は夕方で順光だった。故に距離は遠くとも、フィルストと比べればクリアーに見えた。
さて、太陽の昇るコースである。小学校の頃、理科で回帰線云々という授業があって、その時に日の出、日没の位置関係について習ったハズなのだが、いまやすっかり忘れてしまっている。とにかく地軸が23度前後ズレているというのが、事態を複雑にしている事は分かっているのだが、それにプラスして「緯度」という問題もあって、いっそうややこしい。
現在に至っても、このメカニズムについての私の理解は不十分だが、どうやらフィルストで、逆光にならない写真を撮るには、日の出直後か、日の入りギリギリの二つの時間帯しかおそらくないのだろう。
スイスの緯度は、北緯45~47度。この緯度になると、もはや見かけ上は太陽は東から昇るというよりも、北側から昇る。正午には天頂かほんの少し南側に傾くだけで、午後からはまた北側に帰っていく。日没もやはり北側である。緯度が高いと、太陽の位置は東西よりも、南北(厳密には北南)のほうの運動のほうが重要になってくる。
写真は、午前9時ごろのフィルスト山頂からの景色である。写真中央に写っている山はアイガー、その北壁である。つまり、写真の構図は北東から南西を望んだものとなっている。牛の影や山の影、雲の影を見ていただければお分かりだと思うが、影は北北西を向いている。夏なので、太陽の角度は高く影の長さも短い。だが、すでに影が北側を向いているということは、日の出で北側から昇った(北北東)太陽の位置が、南側にきてしまったという事を意味する。これから正午にかけて、さらに南に傾くことになる。
となると、この位置からの見どころである南西にあるアルプスは、僅かに逆光である。冒頭の写真などは、北東を向いたものであるから、これは完全に逆光となっている。要するに、このフィルストという場所で、順光が得られる時間帯は、日の出前から日の出直後くらいしかない。日没は、西側の北方面に沈むので、これも写真の右側が逆光状態になってしまう。だが、フィルスト山頂には宿泊施設がない。ということは、フィルストを順光状態で撮影することは、事実上ほぼ不可能なのではないか?
季節が変わればどうだろう?だが、夏で緯度が高いからこそ、日の出日の入りの時間帯に、北から昇る時間帯が発生する事を考えると、冬は絶望的なのかもしれない。冬は太陽が南に傾く時間帯が多いことになり、結局南面して撮影するには逆光だらけになる。……うーん、フィルストは逆光になる運命なのか、と諦めざるを得ない。
写真は作為的な構図。ちょっとワザとらしい感じがする写真である(笑)
こちらはちょっと引いて撮った構図。牛が必死に草を食べています。
この後、この牛どもがとんでもない行動を起こすことになる。
改めて見ても牛は大きい。背中までの高さが人の肩ほどもある。乳牛だと思って甘く見てはいけない。近づけば逃げるかと思いきや、近づいてくる程だ。しつこくすると威嚇してくるほどである。角は伊達でついているわけではない。この牛がなかなか獰猛で、柵の木で角を磨いている。ここで事件は起こったのである。
写真の左上の木のベンチを見てほしい。遠くで小さいカットでしか写っていないが、レンズと水のペットボトルが置いてある。レンズは買ったばかりのEF135mm。ペットボトルは2リットルのものである。その近くで草を食っている白い牛が見えるだろうか。奴がやらかすのである。まず、水のペットボトルに食指を刺激されたのか、クンクンとにおいを嗅ぎ、ペットボトルを倒した。ベンチから転がったペットボトルは、草原の斜面を転がってゆく……、と同時に、その牛はこんどは黒いレンズまで興味を抱いているではないか。奴の鼻はすでにレンズに触れて傾いている。イスから落ちるのも時間の問題である。「まずい!」と駆け出した瞬間に、レンズはベンチから落ちた。幸い地面は土である。ダメージはほとんど無かったのが救いである。
さて、安心したところでペットボトルの水を探してみると、この写真の下側に写っている獰猛な茶色の牛が、ペットボトルに興味を奪われ、それを丸ごと食べているではないか。「グジョ、ベコッ、ボコ」っという音が鳴る。ペットボトルは噛み砕かれても破れてもいないが、牛は噛む事を諦める様子はない。こちらとしても、獰猛な牛なので、ペットボトルを口から引き抜くことも躊躇している。やがて、牛も30秒くらいそれをもてあました後、諦めてペットボトルは解放されるのだが、それはもはや牛の唾液にまみれたおぞましい物体に変わり果てており、ゴミ箱に捨てるしかないモノになってしまった。
今考えると恐ろしい。これがペットボトルではなく、転がったものがレンズだったらどうだったか?そして牛がそれを咥えた時、静観することはたぶんできなかっただろう。牛とバトルするのも怖いが、レンズが唾液まみれになるのはもっと嫌である。
正直、不幸中の幸い。助かった、と心底思った。
時刻は午後になり、こちらは順光状態の方向
この日の朝、ヴェンゲンのホテルをチェックアウトする。今日の予定はロープウェイに乗ってフィルストに向かう。フィルスト行きのロープウェイは、グリンデルワルト駅から15分くらい歩いたところにある。そこで宿も再びグリンデルワルトで取ることにした。
この日の早朝はご覧の通り、曇り気味である。写真はロープウェイの窓から乗り出して撮影したもの。
フィルストは、グリンデルワルトから北側に位置した山(丘)で、アルプスの山々を望むには、南側を向かなくてはならない。ただ、フィルストからの景色はいつも霞んで見える。それは、フィルストからアルプスの山々までの距離が遠いということもあるが、それ以上に重要なのが、太陽の昇るコースに対する位置の関係である。対象までの距離が重要であるのならば、昨日のミューレンからアルプスを望む事についても同じである。しかし、あの日は夕方で順光だった。故に距離は遠くとも、フィルストと比べればクリアーに見えた。
さて、太陽の昇るコースである。小学校の頃、理科で回帰線云々という授業があって、その時に日の出、日没の位置関係について習ったハズなのだが、いまやすっかり忘れてしまっている。とにかく地軸が23度前後ズレているというのが、事態を複雑にしている事は分かっているのだが、それにプラスして「緯度」という問題もあって、いっそうややこしい。
現在に至っても、このメカニズムについての私の理解は不十分だが、どうやらフィルストで、逆光にならない写真を撮るには、日の出直後か、日の入りギリギリの二つの時間帯しかおそらくないのだろう。
スイスの緯度は、北緯45~47度。この緯度になると、もはや見かけ上は太陽は東から昇るというよりも、北側から昇る。正午には天頂かほんの少し南側に傾くだけで、午後からはまた北側に帰っていく。日没もやはり北側である。緯度が高いと、太陽の位置は東西よりも、南北(厳密には北南)のほうの運動のほうが重要になってくる。
写真は、午前9時ごろのフィルスト山頂からの景色である。写真中央に写っている山はアイガー、その北壁である。つまり、写真の構図は北東から南西を望んだものとなっている。牛の影や山の影、雲の影を見ていただければお分かりだと思うが、影は北北西を向いている。夏なので、太陽の角度は高く影の長さも短い。だが、すでに影が北側を向いているということは、日の出で北側から昇った(北北東)太陽の位置が、南側にきてしまったという事を意味する。これから正午にかけて、さらに南に傾くことになる。
となると、この位置からの見どころである南西にあるアルプスは、僅かに逆光である。冒頭の写真などは、北東を向いたものであるから、これは完全に逆光となっている。要するに、このフィルストという場所で、順光が得られる時間帯は、日の出前から日の出直後くらいしかない。日没は、西側の北方面に沈むので、これも写真の右側が逆光状態になってしまう。だが、フィルスト山頂には宿泊施設がない。ということは、フィルストを順光状態で撮影することは、事実上ほぼ不可能なのではないか?
季節が変わればどうだろう?だが、夏で緯度が高いからこそ、日の出日の入りの時間帯に、北から昇る時間帯が発生する事を考えると、冬は絶望的なのかもしれない。冬は太陽が南に傾く時間帯が多いことになり、結局南面して撮影するには逆光だらけになる。……うーん、フィルストは逆光になる運命なのか、と諦めざるを得ない。
写真は作為的な構図。ちょっとワザとらしい感じがする写真である(笑)
こちらはちょっと引いて撮った構図。牛が必死に草を食べています。
この後、この牛どもがとんでもない行動を起こすことになる。
改めて見ても牛は大きい。背中までの高さが人の肩ほどもある。乳牛だと思って甘く見てはいけない。近づけば逃げるかと思いきや、近づいてくる程だ。しつこくすると威嚇してくるほどである。角は伊達でついているわけではない。この牛がなかなか獰猛で、柵の木で角を磨いている。ここで事件は起こったのである。
写真の左上の木のベンチを見てほしい。遠くで小さいカットでしか写っていないが、レンズと水のペットボトルが置いてある。レンズは買ったばかりのEF135mm。ペットボトルは2リットルのものである。その近くで草を食っている白い牛が見えるだろうか。奴がやらかすのである。まず、水のペットボトルに食指を刺激されたのか、クンクンとにおいを嗅ぎ、ペットボトルを倒した。ベンチから転がったペットボトルは、草原の斜面を転がってゆく……、と同時に、その牛はこんどは黒いレンズまで興味を抱いているではないか。奴の鼻はすでにレンズに触れて傾いている。イスから落ちるのも時間の問題である。「まずい!」と駆け出した瞬間に、レンズはベンチから落ちた。幸い地面は土である。ダメージはほとんど無かったのが救いである。
さて、安心したところでペットボトルの水を探してみると、この写真の下側に写っている獰猛な茶色の牛が、ペットボトルに興味を奪われ、それを丸ごと食べているではないか。「グジョ、ベコッ、ボコ」っという音が鳴る。ペットボトルは噛み砕かれても破れてもいないが、牛は噛む事を諦める様子はない。こちらとしても、獰猛な牛なので、ペットボトルを口から引き抜くことも躊躇している。やがて、牛も30秒くらいそれをもてあました後、諦めてペットボトルは解放されるのだが、それはもはや牛の唾液にまみれたおぞましい物体に変わり果てており、ゴミ箱に捨てるしかないモノになってしまった。
今考えると恐ろしい。これがペットボトルではなく、転がったものがレンズだったらどうだったか?そして牛がそれを咥えた時、静観することはたぶんできなかっただろう。牛とバトルするのも怖いが、レンズが唾液まみれになるのはもっと嫌である。
正直、不幸中の幸い。助かった、と心底思った。
時刻は午後になり、こちらは順光状態の方向