ベントレーコンチネンタルGTC試乗記録より
自動車の本場、欧州が誇る高級車にして、世界中のセレブが求める最高のクルマとは何かと聞かれたら、迷わず英国のベントレーを選びたい。勿論ロールス・ロイスも最高の高級車ではあるが、その佇まいからベントレーの方がドライバーズカーに適している。ベントレーとロールスは世界の高級車の双璧と云っていいだろう。ワインならペトリュスかロマネコンティ、時計ならヴァシュロンかパテック。つまり、これ以上のモノがないと云う究極の一台がベントレーなのだ。
ベントレーは英国の伝統的なスポーツカーメーカーだったが、1931年に経営難からロールス・ロイス社に買収された。それ以来ロールスとベントレーは差別化されつつも、ともに長い時間を同じ経営者の下で過ごしてきた。しかし90年代になると英国資本では経営を続けることが難しくなり、ドイツのVWとBMWによってロールス・ロイス社の買収劇が行われた。BMWはロールス・ロイス社の商標を手に入れ、ポルシェの直系の孫にあたるフェルディナンド・ピエヒ(VW会長)はロールス・ロイスの工場とベントレーを手に入れた。
英国のクルーにあるベントレーの工場で働く人達は、BMWの元で新しく始まったロールス・ロイスの工場に行くか、クルーに残ってベントレーを作り続けるかの選択を迫られたが、多くの従業員はクルーに残り新しい経営者であるVWグループの元でベントレーを作ることになった。双璧を成す英国の最高級車ブランドが、BMWとVWというドイツの新しい経営者のもとで再生したというのは、歴史のイタズラにしては興味深い。ロールス・ロイスはBMWに経営が移った1998年にはロールス・ロイス・モーターカーズに社名を変更した。一方、ロールス・ロイスの航空機エンジン部門はいまだに国有企業として残存し、今もジェットエンジンを製造している。
VWの傘下に入ったベントレーは、2002年にまったく新しい12気筒モデルの「コンチネンタルGT」を開発した。ベースは打倒メルセデスを目指して開発されたVWの最高級車「フェートン」で、FFアーキテクチャーを基本としたプラットフォームではあるが、ユニークなW12気筒エンジンと4WDを組み合わせていた。そして昨年、クーペモデルのコンチネンタルGTがフルモデルチェンジで第二世代に進化。オープンモデルのGTCは今年秋のフランクフルトショーでデビューを果たした。GTCの魅力には、荒れた路面を20インチの高性能ラジアルで走破しても、微動だにしないAピラーやフロアは、まさに剛性の塊だ。「28kgNm/degree」と途方もなく大きい。この頑丈なボディのお陰で12気筒エンジンのパワーを4つのタイヤが持て余すことなく路面に伝え、大きく重いGTCの車体に軽快なフットワークを与えている。
「ベントレーにとって12気筒エンジンはとても重要です」と新しいベントレーのデュルハイマー社長(前ポルシェ研究開発部門のトップ)が述べているように、低い回転からオーラのように沸き上がるトルクはおそらく100年近く前から続くベントレーの伝統的な加速フィールなのだろう。エンジンはツインターボで武装し、575ps/700Nmのパワーとトルクを発生する。ギアボックスは6速トルコンATが組み合わされる。