雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

退職届

2010-07-29 | 雑記
 あれこれの就活の末、給料はそれなりにいいのだけれど就業時間(残業)がやたら多いぜ、というか毎日の残業代で給料がよくなるシステム……(まあ、それはそれでカミさんと顔を合わす時間が極端に減るのでよしとして)と、そんな塩梅の運送会社への転職が決まった。
 従って、現在休業状態にある今まで勤めていた会社に退職の旨を告げにいった。無論、就活を始めたときから、転職先が決まったら辞めますとは言っておいたので、お互いに「ついにこの日が来ましたか」という感じで、殊更に別れを惜しむようなことはなかった。が、やはり八年もの間勤めてきた仕事場である。自分のロッカーに蓄積された荷物に八年の歳月を見てとると、やはり感慨も湧いてくる。八年間、雨にも負けず、風にも負けず、しかし雪とか暑さにはほとほと参りながらも、なんとか立ち続けてきた自分の仕事場、この数ヶ月稼働することのなかった、またこれからも果たして稼働するのかどうかはわからない、担当の機械。だいたいがルーチンワークだったので仕事上の色々の思い出というのはパッとは浮かばないけれど、一日かけて機械の故障を直したことや、ヘタ打って機械に殺されかけたことなど、掘り下げていけばそこにはもちろん八年分の日々がある。

 休業中なので、従業員仲間の姿はない。黙っていなくなるのは少し心苦しいが、まあ今生の別れということでもないのだし。とりあえずは、社長と奥さんに永い間色々とお世話になったことへの感謝の言葉を伝え、退職届を渡した。
「またいつでも遊びにおいで」
 奥さんにそんな言葉をかけられながら、私は幾度も礼をしてその場を後にしようとした。そのとき、会社で飼っている黒猫が「にゃあ」と一声鳴きながら私の足元にぶつかりつつ、ひょろひょろとやってきた。こいつは私がこの会社に入ったときに一歳であった。ということはもう九歳。猫的には、かなりの老描なのであろうか? 久しぶりにみたそいつは黒毛に昔ほどの艶もなくなり、かなりやせ細っていた。今まで、特に可愛がるというよりも、何気に、そこらに居たらちょこちょこ撫でるくらいであったが、やはり愛おしさは湧いてくる。
 猫とはいえ、向こうも少しは自分とのお別れを気にかけてくれたのだろう。私が彼の「にゃあ」に「あばよ」といったニュアンスを感じ取ったのは、気のせいではあるまい。しかしながら、振り向きもせずに餌箱に向かっていく後姿を見ていると「にゃあ」は「どけよ」の意だったような気もしなくはないように思えてきたので、早々に辞した。
 
 
 
コメント
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