雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

父の靴

2009-01-24 | 雑記
 会社の専務と酒を呑んでいたら、「高校生の息子が、最近オレの靴を黙って履いて出かけていってしまう」と、こぼしていた。

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 私も、顔はもとより、身長や体型なども若い頃の父に似ているので、たまに父のタンスの中から今でも着れそうなものを見繕って着てみたりしている。
 長患いの末、今やすっかり体型が変わってしまった父には、もはや無用の品々なのであるが、自分がまだ着られる、というのを言い訳に、何かととって置いてある。
 その中でも、毎冬活躍するのが革製のブーツである。もう二十年以上前の代物で、すでにつま先の部分などは革が剥げ落ちたりしているが、作りがしっかりしているので、履く分にはなんの支障もない。むしろ履き易いくらいだ。
 それを履いて病院へ見舞いに行ったりすると、父は必ず、
「それ、ワシの靴やがい」
 少し眉根に皺を寄せつつも、目や口元は綻ばせて、そう言うのだった。
 毎回、言うのだ。

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「でも専務。そうやって息子が自分の靴を履けるようになったのが、嬉しいんでしょ?」 

「あぁ、そうなんだよなぁ…」
 
 そう呟く専務の表情と父の顔が重なり、私はたまらなく嬉しかった。


 
 
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