さいかち亭雑記

短歌を中心に文芸、その他

笹川諒『水の聖歌隊』

2021年02月12日 | 現代短歌
 コメントしようと思いながらそのままになっている歌集はたくさんあるのだけれども、今日ポストに入っていたこの歌集をめくってみて、今の若手歌人の修辞のレベルの高さに圧倒されるというか、多少鼻白むというか、とにかくジェラシーも含めて、これはとてもかなわないという感じを持つことが多いのだけれども、その一方で、短歌が自問自答の性格を持った文芸型式であるとして、「きみたちはみんな零コンマ一秒答えが早いんだよ」と、いつも思うということがあって、そこで、言い方は悪いが、この人はこの後修正がきくなと思う人には、とりあえずエールを送っておけばまちがいがないだろう、というような打算が働くのが嫌で、かえってコメントせずに放置して居たりするということがあったりするのだけれども、作者にしてみればそれはたまったものではないだろうと思うので、多少反省して、今後はもう少し早くコメントいたします、と言っても約束を果たせるかどうかはわからないので、今日は、たまたまこの本についてコメントしようと思い立ったから、こんな感じに書きはじめた、のであります。決して思い上がって言っているのではありません。私はこの本を読まなければならない、と思った瞬間にその本を読むのがいやになる、という厄介な性格の人間なのであります。それで、「テアトル梅田」の章の四首を引く。

  フランス語を学びはじめてしばらくはきみが繰り返したジュ・マペール

  強弱に分けるとすれば二人とも弱なのだろう ピオーネを剝く

  雲を見てこころも雲になる午後はミニシアターで映画が観たい

  風は好き 横断歩道の向こうまで誰かが蹴った落ち葉が渡る

 この二首目を引いて内山晶太さんが解説しているのだが、私の思うに、この歌はその前の歌と一緒に読んだ時にその味がさらによく観取できる歌なので、私はフランス語は大学の第二外国語の授業以来御無沙汰の人間だけれども、一首目の俵万智ふうの初句からの入り方の歌があって、そのあとに二首目の「強弱に分けるとすれば」の歌が続けて出て来るあたりに、まるで芭蕉連句のような敏感な呼応の仕方があって、このひとはセンスいいなと思ったので、ご本ありがとう、と私はツイッターはやらないので、挨拶と祝辞もあわせて、このブログで書くことにしました。
 それにしても四首目なんか実にうまいよね。こういう歌が、ごろごろ出て来る歌集なんだから、こたえられないです。

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